見出し画像

旅する自転車

自転車は送料が高い。でかいからだ。

なぜそんなことを気にするのか。三年間乗った愛車を手放すことにしたからである。

ARAYAのランドナーと呼ばれるタイプに乗っていた。見た目はロードバイクだがタイヤが太くて悪路でも走れる。スポーツタイプには珍しくママチャリみたいな泥除けが付いていて、専用のパーツとバッグを使えば荷物を前後にどっさり載せられる。

このランドナーというのは本来日本一周のような長距離旅に使われるもので、だからこその力持ち仕様だ。

でも私がこれを選んだのは修行みたいな旅をするためではなく、単に見た目が好みだったから。通学と買い物くらいの移動しかしない。でも気に入ったからいいんだ。

深緑のフレームに金文字。サイドがベージュ色のタイヤ。クラシック極まりない。最高だ。

なぜか中判カメラとのツーショットが残っていた

引っ越しをすることになった。

このランドナーさんのことはとても気に入っていたけれど、実は大きさがちょっと体に合っていないのではないか…との疑念があった。あとパーツに少し特殊なところがあってメンテナンスが難しい。自分には手に余るおてんばなお方だと、そういう風に思いながらも三年間乗らせて頂いた。

なので引っ越しは良い機会だろうということで、手放すことにした。

家の近くに自転車買取の店があったからそこに持っていくつもりである。でも二束三文で買い叩かれると悲しいし、決して人気のモデルではないのでその可能性は大いにあった。

それなら、と一旦メルカリに出してみることにした。しばらくしても売れなかったら店に持って行こう。送料は一万八千円、もしかして売上より高いんじゃないか。

そうすると、なんかめちゃめちゃコメントしてくる人がいる。

状態や付属品、送料などどんどん聞いてくる。向こうからしたら決して安い買い物ではないからそりゃあそうだろう。丁寧に返信した。

しばらくやりとりをして話がまとまり、購入して頂けることになった。

メッセージの中で判明したのだが、なんと相手は自転車で世界一周をしている最中だという。途中で自転車が壊れてしまい一時的に帰国してきているらしい。

チャリで世界を駆け巡る行動力よ。

それにしても、なぜこの方はメルカリで新しい自転車を探していたのだろう。予算的に新品は厳しかったのか。このランドナーさんはメーカーで品薄が続いていたから、新品では手に入らなかったのかもしれない。なんにせよお互いウィン−ウィンだ。おめでとうありがとう。

話は変わるが自分自身海外への憧れが昔からあった。大学生になったら留学するか、お金を貯めて世界一周のバックパッカーをやろうと思っていた。

その夢はコロナ禍の四年間ゆえ早々に諦めることになってしまったんだけれど。ようやく収まった頃には凄まじい円安で海外なんて気軽にいけるもんじゃなかった。

海外を思う存分旅したいが、叶わない。

そんな時なぜか自分の自転車が世界一周に行くと言い出した。

三年間ほぼ毎日乗ったということはもう身体の一部のようなわけで、その一部が海外に行くのならもはや自分が行くんだと考えて差し支えないだろう。この方に自転車を譲ることで、夢を託して大学生活の悔いを成仏させたんだと、そう思うことにした。

今はどこを走っているんだろうか。ベトナムの通勤ラッシュに混じっていたら面白いな。アフリカのサバンナでダチョウと並走してる方がシュールか。アムステルダムとか自転車の見た目に似合いそうでいい。

私の手元にあるうちは通学にしか使ってあげられなかったから、これからが本領発揮ってとこだろう。自転車も乗る人も元気でやっていてほしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?