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小説「W.I.A.」2-6

第2章 第6話

 エアリアは今度こそ、これこそが『試練』と確信した。絶え間なく続いていた長い揺れが激しさを増し、聖典を読み取ることさえ難しくなってきた。 

 そして、極めつけは下からの激しい突き上げ。

 その影響は大きく、天井の岩盤からの落石と、自分が座っていた桟敷の段が崩れ落ち、その拍子に聖典を綴じていた革紐が切れ、中身がバラバラに散逸してしまった。だが、自身にはどこも怪我はなく、祭壇も以前と同じように、その形と威厳を保っている。もちろん、大蝋燭の火も、変わらず灯り続けていた。

 『聖典を修復して、儀式を続けなければ・・・』

 エアリアはそう考えたものの、それが容易でないことも同時に分かっていた。聖典のその内容の膨大さもさることながら、それを桟敷の残骸や岩石の破片の中から見つけ出し、拾い集め、正確な順序で綴じ直さなければならない。それでなくても古い書物だと言うのに、今の衝撃で破れ、傷んだ物もあるだろう。それは実質、不可能とさえ思えた。

 エアリアは一瞬、挫けそうになったが、このために旅を共にしてくれた仲間を想い、エーテルの悲劇を想い、エナの気持ちを想って、決意を新たに、ゆっくりと顔を上げた。

      ※           ※

 アルルは、頬に水が当たる感触で意識を取り戻した。見上げると、守護精霊の水鳥リザが気遣わし気にこちらを見下ろしていた。

 そのさらに上には、自分が落ちてきたのであろう大地の裂け目が見える。それは、かなりの高さだった。

 自分の身体を確かめた。ガンガンと痛む頭に手を当てると、その手に血が付いてきた。こめかみの上がざっくりと切れていて、そこから出血しているようだ。だが、他に痛む箇所はない。手も、足も、円滑に動かせた。

「リザ、ありがとう・・・。」

 恐らく、落下の瞬間にリザがアルルを包み込み、落下の衝撃を最小限に食い止めてくれたのだ。守護精霊のリザとは、生まれた時からの関係だった。エルフは、自分の守護精霊と共に誕生してくる。アルルの守護精霊は、水の属性を持ち、水鳥の形を成していた。アルルの両親はその精霊にリザと名付け、以降、いかなる時も一緒に過ごしてきた。

 身体を起こそうとして、激しい眩暈と吐き気に襲われたアルルは、横向きに倒れ、込みあがって来た苦い液体を口から吐き出した。思ったよりも頭を強く打ったらしかった。こういう時は、横になって時が過ぎるのを待つしかない。荒くなった呼吸を落ち着かせ、寝転んで目を閉じた。五感を研ぎ澄まし、周囲に働く精霊力と、その源たる精霊に語り掛ける。

 やがて、周囲の精霊に寄って周辺の状況が明らかになってくる。ここは、かなりの大きさのある地下空洞の一つのようだった。先ほどの地震で、天井の岩盤の一部が崩れたらしかった。四方は壁になっていて、他の空間と繋がっている気配はない。裂け目からは、30m程の高さを落下してきたようだ。リザがいなかったら、間違いなく命は失われていただろう。

 自分の右側の、一段低くなった辺りに、地下水の溜まってできた池があることが分かる。お世辞にもきれいな水とは言い難かったが、それなりの量の水が湛えられている。

 チャプン・・・

 アルルの耳が、水の音を捕らえてぴくんと動いた。

 ザザー・・・ジャポン・・・ピチャピチャ・・・

 続けざまに、たくさんの音が聞こえる。そこに、もはや聞き慣れた、金属を擦るような声が混ざった。

 リザードマンだ!

 クロエに出口を封鎖されて、他の出口を探していたに違いない。出てきた数からすれば、これは斥候に違いない。非常にまずい事態になってきた。自分が見つかったら、まず無事ではすまない。幸い、こちらは一段高い岩棚のような場所になっているため、池からでは見えないだろうが、あちこち歩き回られたら最期だ。

 アルルは体をずらして、池からは完全に体が隠れるようにすると、あらためて自分が落ちてきた裂け目を見上げた。高さはあるが、壁伝いに登っていくことは不可能ではないように思う。リザードマンなら、なおのことだろう。裂け目から出たら、エアリアの籠る祭壇の入り口がすぐそばにある。たとえ一体でもそこに向かったら、エアリアの儀式は終わってしまう。

 だが、今の時点でアルルにできることは何もなかった。頭痛と眩暈はまだ続いていて、意識の集中がままならない。大声を上げたところで、仲間には届かないだろう。飛翔閃光弾を飛ばすことも考えたが、無情にも落下の衝撃で弓が真ん中から折れていた。

 もはや、ガルダンとマールに託すしかない。あの二人は小屋から『傷跡』の方向を見つめていた。地震の後、自分がいなくなっていることに気付けば、何かの手は打ってくれるだろう。

 『ガルダン! マール! お願い、気が付いて!』

 アルルは再び目を閉じ、必死に祈った。

      ※          ※

 「アルルが消えた!」

 マールは叫びながら、ガルダンを見た。ガルダンも辺りを見回すが、アルルの姿は見当たらない。

 「マール! 行くぞ!」

 ガルダンはそう叫ぶと、一目散に祭壇の入り口を目指した。マールも後に続く。

 『傷跡』の前にいた3人も、アルルの異変に気が付いた。アルルのいたはずの辺りに、大きな地割れができているのが見えた。既にガルダンとマールが山肌を駆け登っている。

 エナはサスカッチを呼び、それぞれが3人を運んで祭壇の入り口に向かうように指示した。カイナがエナを運び、ジョウがカイルを、ニノがクロエを軽々と抱え、斜面を下り降りる。

 3人が降りて来るのと、ガルダンとマールが到着するのと、ほぼ同時だった。近くで見ると、それは地割れと言うより、地面にぽっかりと開いた穴のようだった。大きさはたっぷり10mはあるだろう。穴の一端が壁の一部となっていて、急ではあったが降りることはできそうだ。

 「むう・・・こりゃ、かなり深いぞい・・・。」

 暗闇でも目の見えるガルダンでも穴の底までは見通すことができない。舞い上がった土煙と、穴の開いた角度が視界を阻むのだ。

 「そんなこと言ってる場合じゃないよ! アルルがこの下にいることは間違いないんだ! 助けに行かないと!」

 カイルが両手を広げてガルダンに訴えた。エアリアもアルルもいない今、ガルダンが行動を決定づけることになる。

 「エナ殿、そのサスカッチ達に、儂らを運んでもらうように頼んでもらえないだろうか?」

 クロエを横たわらせたエナが振り向いた。クロエは、また気を失ってしまったようだ。エナがうなずいて、カイナに何事かを囁いた。カイナが足を踏みかえ、鼻息を荒くしてガルダンに近寄ると、「乗れ」とでも言うように肩を下げた。

 「すまぬ、カイナ殿。肩を借りるぞ。」

 同じように、ジョウがカイルの元に、ニノはマールの元に近付いて、カイナと同じように肩を下げた。3人がそれぞれサスカッチの背中に乗った時、穴の底から、あの金属を擦るような声が聞こえてきた。

 「リザードマンがおるぞ! 皆、心して掛かれよ!」

 ガルダンが後ろを振り向くことなく、全員に伝えた。左手でカイナの首筋辺りの毛を掴み、右手に手斧を持っていた。同じように、カイルは槍を抱えている。

 マールはニノの広い背中に、両手で必死にしがみついていた。寒さに耐えるための毛は、思ったよりも脂ぎっていて、しっかりと握ることができない。いつまでもモゾモゾと動いているマールに業を煮やしたのか、ニノが煩わしそうに一声吠え、左手でマールの尻を下から支えた。これで、ようやくマールの姿勢が安定した。

 「よし! 行くぞ!」

 言うなり、ガルダンはカイナの背中で長々と鬨の声を上げ、瞬く間に暗闇の中に消えていく。カイルを乗せたジョウが続き、ニノも続いた。

 マールは、自分が「落ちている」と錯覚した。それほどニノは速かった。暗すぎて周囲の景色が見えないのも、その錯覚を後押ししているようだ。ふいに、後ろから光の球が追い抜いていき、穴の中を明るく照らし出した。エナが何らかの『言葉』を唱えたらしい。それで、穴の中がはっきりと見えた。リザードマンの群れが、壁を登ってきている。穴の底にある水たまりから、次々とリザードマンが姿を現していた。

 「いた! アルルだ!」

 マールは一番後ろから声を掛けたが、前を進む二人に声は届かないようだった。二人も、既にリザードマンの群れに気が付いたのだろう。こいつらを外に出したら、エナとクロエが危ない。

 マールはニノの首の辺りを叩き、それからアルルを指差した。リザードマンが取り付いている壁の反対側、少し奥まった岩棚のようになっている場所に、アルルが横たわっている。ニノもアルルに気付き、進路を変え、思い切りジャンプした。

 「うぅぅぅわぁぁぁぁあああ!」

 マールの悲鳴がこだまする。今度こそ本当に、マールは「落ちて」いた。アルルのいる岩棚が、みるみる迫って来る。マールが恐怖のあまり固く目を閉じる。こうなったらもうニノに任せるしかない。襲ってくる痛みに備えて、マールは一層、身を固くした。

 どうなったのかはわからなかったが、気付くとマールはアルルのいる岩棚にいた。ニノがマールを掴み、無造作に地面に放り投げた。

 「アルル! 大丈夫!?」

 「だ・・・大丈夫・・・じゃ、ないわね・・・。頭をひどく打ったみたいなの・・・。それより、リザードマン・・・。」

 「大丈夫。ガルダンとカイルが向かってる。・・・起き上がれる?」

 アルルは上半身を起こそうとして、マールに倒れ掛かってしまった。その勢いで、マールは危うく岩棚から落下するところだった。

 「わわ! まだ、無理みたいだね・・・。」

 マールは再びアルルを横にして、壁の向こう側を見た。ジョウが壁に張り付いて、壁に取り付いたリザードマンを引き剥がしては落とす、ということを繰り返し、カイルのはその背中から槍でリザードマンを突き刺していた。カイナとガルダンは水辺まで降りていて、それぞれリザードマンと戦っている。

 「ねぇ、ニノ! この人を抱き上げて、穴の外に出ることはできる?」

 マールはニノに話してみたが、ニノは不思議そうに首を傾げるのみだった。今度は身振り手振りを交えて、同じことを繰り返す。アルルを指差し、両手で抱き上げるような仕草をして、上部に開いた穴を指差す。

 「アルルを・・・抱き上げて・・・あそこまで・・・行く。」

 同じことを数度繰り返す。ニノがマールを見て、アルルを見て、穴を見る。ようやく、こちらの意図が届いたようだ。ニノが嬉しそうに何度もうなずいた。

 「よし! じゃあ、お願い!」

 ニノは、ゆっくりと、慎重にアルルを両手で抱き上げると、優しく向きを変えさせ、母親が赤子を抱くようにして、左手のみでアルルを支えた。それから何度か周囲の壁を、まるで穴までの経路を確認するように見渡して、慎重に足を踏み出した。岩の突起に捕まり、時折短くジャンプをしながら、ジョウが張り付いている壁のかなり上にたどり着くと、そのまま穴の外へ向かう。これで、あとはエナが何とかしてくれるはずだ。

 向こう側の激戦は、まだ続いていた。地面には夥しい数のリザードマンが倒れていたが、次から次へと現れるリザードマンに、全員が手を焼いているようだった。壁に張り付いているリザードマンはいなくなり、ジョウとカイルも地面に降りて戦っていた。

 カイナとジョウの疲労の色が濃い。先ほどから連戦となっているのだから、無理もない。カイルは槍を失い、長剣一本で戦っていた。ガルダンは両手に手斧を握り、鬼の形相で暴れ回っているが、体で息をしているのが遠目にも分かる。

 マールは急いで炸裂炎上弾を準備した。火口箱を開け、灰を吹いて埋め火を確認すると、大声で叫んだ。

 「炸裂炎上弾を使うよ! みんな、壁に戻って!」

 声を限りに叫んでみても、戦いの渦中の人間には、そう簡単に声は届かない。マールは仕方なく、付近の石を投げながら、必死に叫び続けた。

 「ガルダン! 壁だ! 壁に引こう!」

 ようやく、カイルがマールの意図に気が付いた。ガルダンの肩を掴み、振り向かせると壁を指差して引っ張った。その動きに、カイナもジョウも気が付いた。一瞬不思議そうな顔をしたが、カイルを真似て壁をよじ登る。

 マールは炸裂炎上弾を取り出す。向こうの壁までは20m程だろう。ただし、下向きに投げることになるから、その分だけ距離が伸びる。もう一度、足場を確認し、ガルダンたちの様子を確認した。よし、大丈夫。マールは炸裂炎上弾の火縄に火口箱を押し当てた。すぐにシュッと音を立てて火縄が燃え上がる。マールは右手を振りかぶり、半分くらいの力で炸裂炎上弾を放り投げた。

 どぉぉぉぉおおん!

 洞窟の中に轟音が響き渡った。マールの計算通り、炸裂炎上弾は空中で爆発した。つまり、最大限の効果を出せたということだ。ジンジンする耳を押さえ、煙が晴れるのを待つ。

 やがて煙が晴れると、水辺にはリザードマンの「破片」がところどころに散らばって、小さな炎を上げていた。もはや、動いているのは池の上に浮かんで燃えている、小さな炎だけだ。

 「今の内だ! 池にもう一発落とすから、地上に戻って体制を立て直して! それから、僕にも迎えを!」

 向こう側の壁で、呆気に取られている二人に声を掛ける。二頭のサスカッチが、驚いた顔でこちらを見ている。

 「わかった!」

 カイルが剣を上げて答えた。カイルが向こうで何かを呟くと、カイナが長い腕を伸ばしてガルダンを掴み、壁をよじ登っていく。カイルは一人で壁を登っていた。こちらには、ジョウが向かってきた。味方だとわかっていても、サスカッチがこちらに向かってくるのを見るのは、あまり気持ちがいいものではない。

 マールはもう一発、炸裂炎上弾を取り出したが、今投げてもリザードマンがいないのでは仕方がない。マールはとりあえずジョウの背中に乗り、向こう側の壁に移ることにした。その間にリザードマンがまた出てくるかも知れない。

 壁を回り込んだところで上を見ると、カイルもほぼ穴に到達していた。カイナとガルダンはもう外に出たらしい。下を見てみたが、新たなリザードマンが現れる気配はなかった。もしかしたら、水面に浮かぶ炎を見て、出てくるのをためらっているのかも知れない。

 『それとも、全滅させたんだろうか?』

 一瞬、そんな考えもよぎったが、油断はできない。かと言って、残り3発になった炸裂炎上弾を無駄にする気にもなれない。結局、もう少し様子を見ているしかなかった。

 そのまま、10分ほどの時間が経過した。まだリザードマンが現れる気配はない。その時、外からマールを呼ぶ声がした。声の主は、カイルだった。

 「マール! どうだい?」

 「今のところ、リザードマンは出て来てないよ!」

 「じゃあ、一旦上がっておいでよ!」

 「分かった!」

 マールはもう一度、地の底を眺めてみた。水面の火が消えてからも、リザードマンが上がって来る気配はなかった。ジョウの肩を叩いて振り向かせ、穴を指で差すと、ジョウは瞬く間に壁を駆け登り、穴の外に出ることができた。

 「やあ、お疲れ様! すごい威力だったね! クロエの魔術並みじゃないか!」

 カイルが水筒を差し出しながら、マールの肩を軽く叩いた。新鮮な空気は、それだけで美味しかった。水を飲むと、生き返ったような気持になる。

 「炸裂したのが空中だったから、威力が増したんだ。毎回あんな感じで投げられたらいいんだけど、炸裂する前に池に落ちてたら台無しだからね。そういう意味でも、クロエの魔術とは比べられないよ。でも、今回は上手くいって良かった!」

 マールはまだ横になっているアルルとクロエの方に向かった。アルルの顔は、右半分が包帯に包まれていて、痛々しい。

 「アルル、クロエ・・・具合は、どう?」

 「私は大丈夫。一気に魔術を使い過ぎただけだから。」

 クロエの方は心配がなさそうだ。アルルは心配だ。さっきはアルルを見つけただけで安心したが、考えてみれば、あの高さから落下して無事なわけがない。

 「マール・・・。助けに来てくれて、ありがとう。」

 アルルが弱々しく左手を差し出してきた。マールはその手を優しく取って、両手で包み込んだ。

 「そんなの、当たり前のことじゃないか。いいから、ゆっくり休んで。」

 「うん・・・。」

 アルルはそれだけ言うと、再び目を閉じた。呼吸も落ち着いているし、エナも、クロエもいる。ここは、大丈夫みたいだ。

 マールはガルダンとカイルの方に向かった。二人は、穴の前に陣取り、様子を窺っている。

 「出てこなくなったね。全滅させたのかな?」

 「いや、そんな感じには思えんが・・・。」

 「もしかして、他の入り口を探してる、とか・・・?」

 三人とも、急にエアリアのことが心配になってきた。祭壇の洞窟のことは全然わからないが、さっきの地震で何かが起こっていたら、大変だ。もしかして、リザードマンの出口になるような裂け目や穴ができていたら・・・。さりとて、確認に行くわけにもいかないのがもどかしい。

 「エナなら、何かわかるんじゃないかな? ガルダン、聞いて来てよ。」

 「儂がか!? そういうのは・・・どうもな・・・。」

 カイルとガルダンが、揃ってマールを見る。何となくわかるけど、そういう役回りが当たり前のようになってきた。

 マールは諦めたように振り向くと、クロエとアルルに付き添っているエナのところに戻った。

 「さっきの地震だけど・・・エアリアは大丈夫かな? その・・・リザードマンが祭壇の洞窟に出てくる、なんてことは・・・?」

 「大丈夫ですよ。あそこは強力な結界が張ってあります。かなり揺れはしたでしょうが、全体的に崩れたり、私が認めていない者が侵入したりすることは、有り得ません。」

 「そ、そっか! なら、いいんだ! ちょっと心配になったから・・・。」

 「そうですよね。不安なお気持ちはわかります。・・・なんにせよ、後3日です。エアリアが儀式に集中できるように、私たちもがんばりましょう。」

 「そうだね! 良かった! 二人に伝えて来るね!」

 マールは意気揚々とガルダンたちの元に戻り、先ほどの心配が杞憂だと言うことを告げた。

 「そうか、そうか! 何よりじゃ。・・・そうすると、こちらも体制を考えねばならんな。」

 「そうだね。とりあえず、アルルたちには小屋に戻ってもらおうよ。ここよりはゆっくりできるだろうし。」

 「そうじゃな。よし、ここは儂が見ておく、エナ殿にその旨を話してみよ。」

 エナは、カイルの提案に全面的に賛成した。クロエもアルルも、まずはゆっくりと体を休める必要がある。エナは、カイナ達にも話をすると、カイナとジョウは急いで泉へと向かった。体に着いたリザードマンの血が気になっていたのだろう。

 「カイナ達には、夕方にまた戻って来てもらうことにしました。・・・それで、皆さんはどうします?」

 「夕方にカイナ達が戻って来てくれるなら、昼間は俺達3人が見張りに立つよ。」

 「わかりました。アルルとクロエを運んだら、ニノをこちらに戻します。」

 「はい、そうしていただければ、大丈夫だと思います。」

 これで、体制が決まった。明日になれば、クロエは戦列に復帰できるだろう。

 ニノがアルルとクロエを小屋に運び、しばらくすると3人の荷物を持って戻って来た。クロエかアルルが気を利かせてくれたのだろう。ガルダンとマールは、ますはパイプを準備し、カイルはリンゴにかぶりついた。

 これから見張りをしながら、次の戦いに向けて準備を整えなくてはならない。夜のことも考えて、テントとかがり火の準備も必要になるだろう。それぞれ、パイプと果物を楽しみながら、その役割を話し合って決めた。ニノは、パイプタバコの煙が珍しいらしく、一生懸命掴もうとしたり、咥えようとしたりして遊んでいる。

 「あと、3日・・・か・・・。いつもならあっという間だけど、待ってる時間だと、長く感じるよね?」

 「まったくじゃ。それも、今回はエアリアにとって大切な儀式じゃ。なんとしても、守り抜かねばならん。」

 「僕たちの責任も、重大だね。」

 あと、3日。もう地震もリザードマンもごめんだ。マールはそう願いつつも、心のどこかでは、そうもいかないだろうと、ぼんやり考えていた。


「W.I.A.」
第2章 第6話
了。



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