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(続)三つ子の魂百までも18




「佐伯さんですか。知っています。以前、新美さんの知り合いという事で、
新美さんの部屋の捜索の立ち合いをお願いした事が有ります。」
と、岡刑事は丁寧に答えた。
 
「で、どんな男だった。佐伯っていう男は?」
と、伊東さんは、岡刑事の上司の様な言い方である。
(後で聞いたのだが、伊東さんは今でも若い刑事の指導をしているとの事であった。
裕美さんの話であるが)

「別に、可笑しなところは無かった様に思いましたが。
でも、新美さんとは、仲が良くは無かったみたいに思いました。」
と、岡刑事が言った時、竹中刑事が口を挟んだ。

「岡はそう言っているけど、自分はあの男、チョット臭い
と、想ってますよ」
「どの様に、臭く感じる?」と伊東さんは聞いた。

「あの男、結構計算高い。こちらを、誘導する様な話し方をする。
それに、何かを知っていて、隠している。
これは、秘密にして欲しいのだが」
と、言って竹中刑事は、僕の顔を覗き込む様に鋭い眼光で見た。
秘密にして欲しいと言われると、聞きたくなるのが人情である。
僕は、真剣な表情で竹中刑事を見つめた!と、思う。

僕の真剣な表情に応えるかの様に、竹中刑事はわだかまり無く、
私たちに告げた。

「新美さんの持ち物が無くているんですよ。
大学の新美さんの机の引き出しの中に、何もないんですよ。
可笑しいでしょ。誰かが持ち出した!と、しか思えない。
それと、新美さんの借りていた研究室の鍵も無かった。
研究室の机の引き出しに、文房具はあったのだけど、どうでも良い物があっただけで、何か持ち出されているみたいだった。
それに、新美さんの使っていたパソコンが無いのですよ。
これも可笑しいでしょ?」

私の灰色の脳細が活性化するが、はっきりと分かった。
(確かに可笑しい。新美さんの机の中を見る事が出来るのは、大学の関係者だ。
先程会った学生の中に、怪しく思えるのは、道子を見た時にブスと発言した男だが、それよりも、佐伯の方がもっと黒い。
それと、道子の写真を見た時の表情だ!あれは、何かを知っている表情だった。
ブスに驚いた表情では無い。)

伊東さんは、少し間をとって、言った。

「佐伯は黒いよ。長年の刑事をやってきた勘だが。
俺達の職業は、人の表情の変化を微妙に感じる事が出来る様になるのだが、
あれは何かを知っているし、何かを隠している。
もしかすると、盗聴器を仕掛けたのも、佐伯かも知れんよ。
佐伯をもっと調べた方が良い。
それと、居なくなったと言う、新美さんの妹の消息は、まだ掴めないのかね。」

「これも、内緒にして欲しいのですが、居なくなった人は、妹では
無さそうなんですよ。」と、竹中刑事が言った。

「そうか。妹では無いのか?でも状況としては、妹であってもなかっても、変わらんよ。早く見つけないと、真相が判らんよ。」
 
「あの〜僕達は居なくなった、矢部道子さんの捜索をしているのですが、
新美さんの所に矢部さんが、行ったのを確認しているのですが、それ以降の足取りが無いんです。もしかすると、矢部さんと
新美さんは繋がっていると思うのですが、警察はどの様に判断してますか?
新美さんと矢部さんとの事ご存じ、じゃないですか?」

「この前、杉田君から矢部さんの事を聞いたので、少し調べてみたんだけど、はっきりとは、判らないのよ。確かに、アパートの住人の人は、『新美さんと手を繋いで歩いていた』と言ってはいますが、研究室に入ったとは、言って無いのよ。だからそれ以降はまだ、掴めていないの」と、岡刑事がタメ口で僕に言った。

「でも、一緒にいたので有れば、研究室に入った可能性もあるでは無いですか?
さっきの盗撮器に記録されていないのですか?調べてみたんですか?」
と、少し興奮気味に僕は言った。

岡刑事に少し動揺が見えた。
「今度、見ておきます。」と、
僕は岡刑事が今まで確認していないのが、分かった。
「じゃ、見て教えて下さい。」と、
あまり長い時間、刑事さんの手を止めるのも、気が引けるので、
私たちは、警察を後にした。

「さっき、岡君、盗撮器の記録調べて無いと言ったけど、
調べていたんじゃ無いのかね。」

「あの盗撮機と盗聴器のカードは抜いてあったのです。誰が抜いたのでしょうか?
可笑しく無いですか?
新美が死ぬ前に抜いたとは思えない。
誰かが、新美の居ない時に抜いたのでしょう。だとすると、
新美が死んでから抜いたと思います。」

「チョット待てよ。では何故、盗撮器と盗聴機ごと持って行かない?
それ程、大きな物では無いのだから?。」

「外す時間が無かったのかも知れません。もしくは外す為の道具が無かったか?
私達があれは、新美が付けた物では無いと判断したのは、記録されているマイクロカードが無かったからです。だから他の誰かが、新美を観察する為に付けたと想ったのでしょ。」

「うん、そうだが」と竹中はそこまで考えずにいたのだが、
誤魔化して答えておいた。
「もう一度、新美の研究室に行ってみます。
新美が取り付けた、防犯カメラが有るかも知れません。」
と言って、岡は新美の研究室に行く用意をした。
竹中も岡の跡を追う様に出かけて行った。

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