見出し画像

私の瞳に映ったあなた(10)




舞台は最高潮の盛り上がりを見せて行った。

あんみつ姫は、手紙をういろう王子の元に届ける様に使いの者に命ずる。
そして薬を飲みそのまま気を失う。
死んだと思い込み悲しむ、城内の者達、村人達。

あんみつ姫は舞台中央で寝そべっている。
スポットライトが舞台中央を照らす。
そこに駆け寄る、ういろう王子(辻田)。

ういろう王子「愛しのあんみつ姫。この様な変わり果てた姿になって・・・・」
と、セリフを言いながらあんみつ姫(小塚明子)に近づく。

……可笑しい、ここのセリフは、「貴女の手紙を読みました。」
と、言いながら近づくはずだったのに、セリフを間違えてしまったのか………
と、僕は思って演技を見ていた。

あんみつ姫の側に行き、ういろう王子はあんみつ姫の頬を両手で触る。そして・・・・・。
キスをしたのだ!しかも唇に!実際に唇と唇が重なったのだ!
場内のどよめき!歓声こそ上がらないが、驚きの声!

一番びっくりしたのは、小塚明子だった!
ムックと起き上がり、辻田の頬を
「何するのよ!馬鹿!」と一発叩いて、舞台を静かに去って行った。
場内、驚きの声は上がりはしないが、この後の展開は?
と言う不安に襲われている。

一番びっくりしたのは僕だ。
ここでのナレーションは、
「あんみつ姫とういろう王子は、手に手をとって新たな場所で暮らしていく事になる。だが二人の噂は今のところ届いてはいない」
と、するはずだった。
……不味い。このままでは、失敗に終わる。ナレーションを変えなければ・・・・………
と、咄嗟に判断して、このように言った。

「あんみつ姫に与えられた薬は、霊能師の策略であった。
霊能師は密命を父親である殿様から、受けていたのである。
その薬の効力は、あんみつ姫に最初に触れた者を敵とする物であった。哀れ!あんみつ姫。まんまと策略に乗り愛していた人を憎み
敵としてしまった。
今後の二人の将来は如何なる事になるのかは、神のみぞ知る・・・」
と、伝え急いで幕を閉めた。

場内は、その説明で納得したのか、静かであった。

叩かれた、辻田は罰の悪そうな表情だった。
誰も辻田には、話しかけたりはしない。

僕は小塚明子の元に急いで行った。






https://note.com/yagami12345/n/n7f942dc85a50

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?