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三つ子の魂百までも 番外編 最終回



「この案件、私には全て見通す事が出来ました。でも、この真相を明らかにする事は、大島さんにとって、プライバシーの侵害になるかも知れません。」

と、訳の判らない言葉がまたもや飛び出した。
……大島さんのプライバシーを侵害するって何?プライバシーを侵害する幽霊っているのか!?……
公一は今すぐにでも裕美に聞きたいと思っていたが、場の空気を読んでいた。

「私のプライバシーの侵害って何でしょうか?」
と、少し疑いをもって聞いてきた。
「この案件、はっきりと言えるのは、幽霊は存在して居ません。
この現象を起こしたのは、隣の住民です。隣の人間が貴方を驚かしているのです。
警察沙汰と言ってもいいでしょう。
何故、その様な行為をするのかは、調べて見ないと解りませんが、私には、おおよその判断は出来ています。
でも、まだ仮説の段階なので、真実を暴いた方がいいかどうかは解りません。」

と、云う言葉を聞いた時、大島晃子の表情が曇った。
何か隠している事を見透かされているかの様に感じているのかも知れない。
大島は、うつむきながら目線を反らせるかの様な仕草で言った。
「貴女は、名探偵ですね。本当に凄いです。
この一連の出来事が、幽霊のせいではないので有れば、私は安心です。でも、隣の住人が犯人ならば、警察に伝えます。」
だが、この言葉を発する晃子には力が無かった。

「そうですね。最低でも貴女の部屋の壁に穴を開けた事は事実ですから」
と、裕美は事件の解決した事での安心したのか
穏やかに言った。
そして裕美は憐れむかの様に、晃子を見つめている。

だが、何も解らない男が側にいた。
日本のポアロと呼ばれている男である。
この場所で質問したら、自分の無能さを暴露した事になる。
男は聞きたい気持ちをグッと抑えて耐えていた。

晃子は安心したのか、無言で一人で寝室に戻って行った。
公一を誘う事も無く、素知らぬ顔で。
時刻は、午前の3時を過ぎた頃である。

裕美は、緊張が解けたのかソファーに腰掛けて眠る様に目を塞いでいる。

公一は裕美の顔を見つめながら、自分だけがこの事件の真相を解らない事に苛立ちを持っていた。
公一は裕美と向き合う様にソファーに座り目を閉じた。
だが、公一の灰色の脳細胞は活発に動いてはいる。
……一体何が判ったのだろうか?壁にある穴は何?
ネズミでないので有れば、他の動物か?まさか悪霊が開けたのでは無いであろう。裕美も『この事件は幽霊の存在では無い』と言っていた。だとすると・・・。何で穴が開いているのか?
もしかすると、隣にいる奴は、晃子さんを狙うストカー?そのように考えると自然である。
ストーカーの正体を暴くと決意する
公一は、いつのまにか眠りに堕ちていくのであった。

静かに時は流れ、静かな朝を迎えた。
朝の日差しが、公一の瞼を照らす。
だが、そんな事では公一は起きる事が無い。

最初に目覚めたのは、裕美であった。
この案件の報告書をどの様に書けばいいのかを、思案していたのだ。
晃子はこれ以上の捜査は望んではいないみたいである。だからと言ってこのままでは中途半端な感は否めない。
だが、依頼者の依頼していない分まで捜査する事は出来ない。
この案件は、曖昧のまま終わらせるべきであろうか?

晃子ともう一度、話し合いたい!おおよその見当はついてはいるが、裕美の好奇心が満たされてはいない事が残念でならない、
裕美であったが、真実を明かす事が残酷な時も場合によってはある。
複雑な想いの裕美であった。

晃子が目覚めた様である。寝室で物音がする。
時刻は午前6:30
晃子の会社は休みで休日としては、早い目覚めである。

「おはよう御座います。良く眠れましたか?」
と、突然の声に晃子は戸惑ったみたいだ。
「おはよう御座います。寝たつもりですが、・・・。
熟睡は出来て無いみたいです。」
と、晃子の声に精彩は無い。

「トイレに行ってきます」
と、晃子はお手洗いに向かって行った。

公一は熟睡中である。
しかし裕美は、ほとんど眠れなかった。
こんな時でも熟睡できる公一が羨ましいとも想い、また頼りない男とも感じる裕美であった。

トイレから出てきた晃子は、裕美の横に座った。
少しうつむきながら、晃子は言う。

「飯島さん。貴女のお陰で私の悩みは解消しました。でも、
隣の人が誰だかわからないです。隣の人を調べてもらえませんか?」
と、小さな声で言ってきた。
「調べるのは、簡単ですが・・・。
警察には被害届を出さないのですか?
部屋の壁に穴を開けているんですよ。」
と、裕美の声は少し大きい。
「それに、隣の人は貴女のストーカーかも知れません。」
と、裕美の声のボリュームが更に上がる。
「そうですね。でも大袈裟な事はしたくないので・・」
と、晃子の声はさらに小さくなった。

「そうですね。事を荒げ無い方が良いかも知れません。」
と、裕美は悟っているかのような言い方である。

「飯島さんは、本当に霊感があるのですね。何か、私の事も見通されているようで怖いです」

「申し訳無いです。私には、おおよその見当はついていますが、
でも、確証が無いので、何も言えません。」
と、裕美は晃子に頭を下げた。
「そうですか?やはり貴女は解っていらっしゃるのですね。」
と、言葉が弱い。
「本当に隣の住人を調べれば良いのですか?」
と、裕美は晃子に念を押した。
「隣の人が解れば、この事件も解決します。
ストーカーでは無いと思います」
と、晃子は何故かストーカー説を否定した。

二人は時間も許す範囲で雑談をした。
晃子の故郷の事や、晃子の学生生活の事など、
裕美の上手い誘導で、晃子は包み隠す事も無く話して行った。
そして、最後に聞き出した言葉は、裕美の予想していた言葉でもあった。
……この件については、公一には聞かせたく無い。……
と、裕美は想っていた。

幸いな事に、公一は熟睡中である。


そして、二人は晃子に挨拶をして、その部屋から出て事務所に向かって行った。




「公ちゃん。晃子さんの隣の住人を調べてみて。
それと、その部屋の所有者を!」
と、裕美は晃子の部屋を出て直ぐに、公一に言ってきた。

「そうですね。壁に穴を開ける何て許せないですよ。
あれは晃子さんのストーカーですね。間違いないです。
私が晃子さんを守ってあげないと・・」
と、公一は力強く言っている。

「公ちゃんは晃子さんの事好きなの?でもそれは、片想いね。
失恋だわ。残念ね。」
と、茶化す様に裕美は言った。

「何でですか!昨日の晃子さんが私を見る目、見ましたか?
まるで、恋人を見つめる目でしたよ!」
と、公一は想い込めて言ったが、裕美は全く意に返さない。
……裕美さんの嫉妬だ!……
と、公一は強く想っていた。

公一は隣の住人の詮索をしたが、個人情報保護法の為か難航していた。
だが、ここには元刑事の伊東がいる。
何故か簡単に探る事ができた。
調べて判った事だが、住人と所有者の名前が一致していない。
所有者は女性で、大村聡子と言う女性である。
住人は、佐古田正和。
佐古田は、大村聡子の会社の従業員と言う事が判明した。

そして、大島晃子の部屋の所有者は、大村昆一であり、
大村聡子の夫であった。

「事件の真相は、こうだ!」と、男は名探偵モンクの様に語りだした。
「大村昆一は、大島晃子が大学時代からのパトロン。
要するに、大島晃子は、今流行りのパパ活をやっていたのだ!

そして大学卒業後、大島崑一は自分の所有する部屋に大島晃子を住わせた。
その事を知った妻の聡子は、隣の部屋を高額の料金で買い取り
そこに佐古田を住まわせて、幽霊が出るかの様な芝居をさせたのだ!壁に穴を開け、そこから棒を突っ込んで箪笥を揺らした。
また、レコーダーで鳴き声を流したりしたのだ!
大島晃子に対する、妻の復讐劇であった。
幽霊の正体見たり枯れ尾花 である。」

全ての謎の解明をしたのは、もちろん日本のポアロと言われる公一では無く、後からこの案件に参加した伊東である。
裕美は、黙って聞いていたが、全く否定する事は無かった。
公一も黙って聞いていた。涙を浮かべながら。
公一はショックを隠せないまま、事務所の席で佇んでいた。
裕美は公一の小さく見える背中に声を掛けた。

「元気出しなさいよ。振られたぐらいで!いつもの事でしょう」
と、元気づけているのか、からかっているのか解らない事を言う。

「振られた事で落ち込んでいるのではないですよ。」
ムッとした表情で公一は言った。
「僕が、悔しかったのは、晃子さんの事を、裕美さんには解っていたのに、解らなかった事です。」
と、むくれ顔である。

「あの事ね。これは女の勘よ。男には無理よ。特に公ちゃんみたいな、純情で無垢な男性には、解らないと想うわ。」
と、公一に気遣いを見せる裕美である。
「そうですか。僕みたいな男では、無理ですか?
裕美さんは、いつから大島さんがパパ活をやっていると想っていたのですか?」

「一番最初に、大島さんの部屋に行った時から、怪しいと想ったわ。あの部屋には、霊魂の痕跡が無かったのよ。
ポルターガイストを起こせる霊だと、何らかの痕跡は残る筈だと想っていたんだけど、無かったのよ」

「痕跡が無いぐらいで、パパ活してると想ったのですか?」
と、不思議そうに公一は訊ねた。

「そこでは無くて、寝室を見た時ね。一人用のベッドでは無かったでしょう!
あの時に見えたのよ、全てが!」

「例の霊感ですか?ベッドを見ただけで、見えたのですか?」
「そうよ、一人で寝るのならシングルベッドで充分よ。
あれは、ダブルベッド。あそこで・・・してるのよ」

僕は、淫らな想像を巡らしたが、直ぐに打ち消した。
「そんな事無いです。あの人に限って!」
と、言ってはみても説得力に欠ける。
更に落ち込む杉田公一であった。




そんなある日、大島晃子が事務所を訪れて来た。
「あの部屋を出て行く事になった」と言っている。
おそらく、パパ活も解消されたのであろう。
「今回の事件、本当に解決していただきありがとうございます。
今日は、お支払いに来ました。
おいくらぐらいでしょうか?」

対応したのは、代表の直美である。
当初は、お金持ちのお嬢様という事で、報酬も期待していたのだが、状況が一変した今では、
どれほど頂けるのであろうか?と公一は耳を澄まして聞いていた。
「では、この様な金額となりますが、如何でしょうか?」
と、晃子に明細を差し出した。

「ありがたいです、こんなにお安くしていただき。」
と、現金で支払いを済ませ、
晃子は公一の顔をチラッと見て目で挨拶しただけで、
事務所を後にした。

晃子の瞳に涙が滲んでいたのを、公一は見逃したりはしない。
きっとあの涙は、公一に対しての思い入れの涙である。
晃子は公一に嫌われた!と想っている涙だ!

と、勝手に想う公一であった。

だが、その後の晃子の居場所を知るものは誰もいない。
もちろん、公一に晃子からの連絡も無い。

裕美は一人考えていた。
今回の案件、自分が期待していた霊との闘いでは無くて単なる不倫の嫌がらせだった。
しかも、事件が解決する事が、本当に良かった事なのか?
複雑な想いであったが、一番の残念な想いは、報酬が少ない!
何で、お姉さんはもっと要求しないの!
あの様な案件に踏み込んで、捜索できるのは、私以外に無いのに!
と、自然な怒りが混み上げてきた。

「お姉ちゃん!何でもっと報酬をもらわないのよ!」
と、直美に感情をむき出しに、言ってみたが、
直美は冷静に答えた

「だって捜索費用もそれほど掛からないし、結局はお化けのせいでも無いし、単なる不倫騒動よ。だったら相場でしょ。
それに、彼女、パパ活解消されたから、お金 
それほど無いでしょう。可哀想じゃない」

と、さらっと言った。

何も反論できない裕美であった。

このお話はここまでとさせていただきます。

次回こそ、裕美を驚かすような難事件を期待してます。

追伸
今回は、修と美乃は出てきませんでしたが、二人とも元気で過ごしております。
     完

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