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(新々)三つ子の魂百までも1



出版社には毎日の様に手紙や小包が届くのであるが、
ある日、大手出版社の東西出版社に一通の興味ある手紙が届いた。

それは、「霊を撮る写真家、林田智」宛であった。
差出人は橋田邦彦で14歳の少年である。

東西出版社の女子社員である桜町は、
早速、林田に連絡を取りこの手紙を渡した。

手紙の内容の概要は、
[橋田は中学二年生で友人と二人で廃墟のビルに入いり探索の最中に、壁に落書きしてあるのを見て、悪戯な気持ちで二人の名を書いて帰った所、友人がその翌日、心臓麻痺で亡くなり、自分は兄の名前を書いた為無事であったが、代わりに父が亡くなった。
本当に霊の写真を撮れるのなら、そのビル行って写真を撮って欲しい。そして霊の正体を突き止めて欲しい]
と言う事が書かれてあった。

その手紙を読んだ後、林田は深い溜め息をついた。
……そんな事、言われても・・・……
と、見ると桜町は嬉しそうに、また興味深い面持ちで
林田を見ている。

「林田さん、また霊の写真撮りましょうよ。」
と、弾んだ声で話しかけてきた。
出版社のオフィスは騒々しく慌ただしい。
この様な場所では、落ち着いて話す事も出来ない。
「場所を変えませんか?」
と、林田は桜町に提案して、誰も居ない会議室での会話となった。

会議室は4階にあり、かなり大きな部屋である。
椅子も30席あり、二人で使うのには広すぎるが、
静かな場所は、今はこの場所だけと言ってもいい。

二人は椅子に腰掛け、対面して話した。
「この手紙、読んだのだけど、余りにも無責任だと思うよ。
勝手なことして、霊を怒らしたみたいで、何だか怖し
命に関わるよ。辞めた方がいいよ。」

と、林田は眉間に皺を寄せ、力なく消極的に答え更に続けた。

「それに、人が死んでいる。霊のせいかは判らないけど辞めた方が無難だよ」

「そうですね。でもこの廃墟ビルって、有名な霊スポットみたいです。
ネットに出ています。ほら見て下さい。」
と、桜町さんが、スマホを林田に渡す。

「………(^_^ )ほんとですね。怖そうな所です。」
と、軽く受け流すように言った。

「取材しても面白いと思いますが、
話題性もあるところだし。読者も注目すると思うのですが? それに何故人が死んでしまったのかも興味もあるし。・・・」
桜町はジャーナリストの血が燃えるのか、
それとも興味本位の戯言か真意は判らないが
この話に乗り気である。

「で、取材費はどれくらい出るのかな?
こっちは命掛けだし。それ相当な物は貰わないと、やれないよ。」
と、林田はやさぐれ者みたいな言い方をした。
林田は会社を辞めフリーのカメラマンになったのだが、最近仕事も無いみたいで、
生活に困窮している と噂されている。

「取材費ですか‥」
と、桜町は一瞬言葉に詰まったが、
しかし直ぐに応えた。
「取材費と云うよりも、林田さんが取材して記事の売り込みをしたらどうでしょうか?
フリーのジャーナリストとして。

この前の事件、男性だけが失踪する記事は
良かったですよ。反響がありました。
あの様に記事を書いて
売り込めばいいのでは無いでしょうか?」

「あの記事か!男が妖怪に蒸発させられる記事だろう。最近はその様な事件の報告も聞かないが、・・・・。
あれは、ある女性に見てもらってのだ。
おかげであの時の貯金で生活できてはいるんだけどね。
もう一度、この話を記事にするか。
一度この少年に会ってみるかな。」
と、急に乗り気な態度に変わった林田であった。お金の力は凄い。
「また、久しぶりにあそこの探偵事務所にでも行ってみるか。」
と、独り言云う林田がそこに居た。

(林田智の事を知りたい方は小説
「霊の撮れる例のカメラ」をご覧ください。
男の蒸発の事をお知りになりたい方は
(新)三つ子の魂百までも をご覧下さい)











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