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三つ子の魂百までも(21)


21

僕の実家は2階建てで、僕の部屋と両親の部屋は2階にある。
玄関を上がり、右手に進むと客間があり、その隣がキッチンで、食事をするテーブルと椅子が置いてある。

客間は和室で8畳である。
客間とキッチンの間はふすまがしてあり、普段は開いている。

客間には背の低い頑丈なテーブルがあり、今日は客間で食事をする予定であったのか、小皿が用意されていた。

テーブルを挟み僕達は両親と対面する形で座った。

加藤君は、改めて自己紹介をした。

両親はまだ動揺しているみたいだ。

「お父さん、お母さん、僕達は同じ誕生日で、おない歳なのです。
私の知っている人達みんなから、『加藤君と双子ではないか』と言われるのですが…………」
と、ここまで話して両親の言葉を待った。

父は少し目線を下に向け、母は顔を父に向けた。
何かをためらい、何かを考えている様子だ。

僕は、次に何を言って良いのか分からない。
両親を苦しめているのかと想うと心が痛んだ。

しばらく考え込んだ父が、最初に口を開いた。

「今まで黙っていたが、公一も大人になったのだから、本当の事を話さなければいけないな。お母さんもそう想うだろう?」

母は小さく頷き、
「本当の事を言う時が来たみたいですね」
と少し涙を浮かべていた。

その様子を見た時、僕はこれから伝えられる真実に少し不安を覚えていたが、真実を知りたいと言う気持ちも強かった。

加藤君はどの様に想っているのであろうか?
表情には変化は見られない。

「どこから、話して良いのか分からないが、公一の生まれ頃から
話をするよ。」
と父は前置きをしてから、

「お前が生まれたのは、病院で……。なんと言う病院だったけ?」

と、父は母に聞いた。
母はもどかしく思ったのか、

「公一、今から私が話すことを、心して聞いてね。
加藤君もね。」
と、腹が決まった言い方をした。

「実は、公一。貴方は私達の本当の子供ではないの。貴方は私達の養子なの。でも、誤解しないで、お父さんもお母さんもお前を、実の子と想っているの」
と言葉は強いが、母の目からは涙が、滲んでいた。

「お前が生まれた時に、お前を産んだ本当のお母さんは、
お産の後直ぐに亡くなったのよ。」

と、僕の目を見て母は言った。そして、次に言った言葉は、

「お前は、三つ子だったの。」

「三つ子?」

双子かも知れないと想っていたので、
双子と言われても驚きはしないが、予想してない事を言われ、
僕の頭の中は白い霧に覆われた。

(でも、これはいつもの事なので、それほど心配な事ではないと、
自分に言い聞かせた。)

加藤君を見ると身動きも全く無く、顔色も変わってはいない。

「三つ子って言われたわ。貴方の本当のお父さんも子供が産まれたと聞いて、病院に来る途中に事故で亡くなったのよ。
その様な事があり、三人の子供達はそれぞれ違う人の養子になったの。」

「本当の両親は、もうこの世に居ないのですね」
と、加藤君はつぶやいた。
表情こそ変えていないが、深い悲しみを懐いての声の様に聞こえた。
加藤君の言葉は、実の両親の事を言っているのだが、
僕の心には、全く留まらなかった。

「私の本当の両親の名前、判りますか?」

と 加藤君が、今度はしっかりと力を込めて聞いた。

「確か………。書いた紙、仏壇の中に入れてあったね。
母さん、そうだったね。」
と言いながら父は立ち上がり、仏壇の中を探している。

仏壇は客間にあるので、探す姿が見える。

「ありました。ちゃんとありました。」

と言って、父は嬉しそうに、一通の封筒を僕達に差し出した。
それを、母親が受け取って封筒の中から便箋を抜きとった。
少し黄ばんだ便箋に、年月の重さを感じる。

その便箋には、父の字で書いてあった。
父は字を書くのは下手で、字を見たら筆跡鑑定しなくても、直ぐに分かる。

書いてある内容は、

[父親、佐伯俊夫 享年28歳。母親、佐伯純子 享年24歳。
平成8年9月9日に二人とも亡くなる。
佐伯俊夫は交通事故。
佐伯純子はお産の為。

三つ子で生まれてくる。
一人は、佐伯さんの身内の人が引き取る事になった。
もう一人は別の家族の人に引き取られた。
引き取り手の家族は、メモした紙を無くした為分からず。

平成8年10月吉日          ]

と書かれてあった。














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