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教科書達の憂鬱(1)




これは、五十年も前のこと。
そう、昭和のお話。何で、そんな昔の話するんだ!
と、言わないで下さい。だって筆者がお歳だからです。

僕は、悩んでいた。僕のご主人様の事で。
僕のご主人は、来年高校の受験を控えているのに、僕に見向きも
しない。僕の顔に落書きはしても、お腹を開いて見てくれない。
そんなに、僕の事が嫌いなのかい!ご主人様。
僕がご主人様に貰われて行ったのは、そう新学期が始まった二ヶ月前だった。。
僕だけじゃ無い、他の教科書も貰った筈なのにご主人様は、
教科書に見向きもしない。「この様な事では高校に行けないよ、」
と、言っても僕の心の声は届きはしない。

僕は、多くの人が嫌ってる数学の教科書だ。
皆から難しいといつも言われている。
「僕に言わないで欲しいよ。
作った人に言ってよ。もっと簡単に作ってと、伝えてよ。」
と、叫んでいるのが他の教科書に聞こえたのか、

英語の教科書が僕に同情する様に言って来た。
「君も難しいと言われているね。僕もだよ。
皆んなから、嫌われているよ。

僕を読んで勉強しても、英語は話せ無い。
難しい文法や難しい文章を読めても、実用的では無いと思うんだが?

もっと会話文を増やして、実用的にしないと実際の役にたたない。作った人が、何を考えて作ったのか解らない」
と、悩んでいる様に言ってきた。

その言葉を聞きつけたのか、歴史の教科書が、英語に向かって、怒る様に言った。

「日本人が、何故、敵国語を勉強しないといけないのか?」
と、時代錯誤の言葉を発してきた。
お腹を見たら、太平洋戦争の所が開いていた。
僕達は、歴史の教科書は無視しようとしたていたのだが、
歴史君はしつこく言う。
「日本人は日本の歴史を勉強して、『日本かっこよく!』とならないとダメだ。英語や数学何て勉強しても社会に出たら何も役にたたないぞ」
と、まるで何処かの大学の先生みたいに言ってきた。

痛いところを突かれた、と 僕は想った。
確かに数学の三角関数や証明問題など解いても、社会では役には立たない。その様な知識を使う職業に就けばいいが、その様な職場はほとんど無いのが現状だ。
普通は、電卓一つ有れば事が足りる。

英語もそうだ。
会話できなければ、外国人と話す事などできない。
何故、無駄な事を学生達に、勉強させるのか理解できない。

その様に考えるとご主人様の気持ちも判る様な気がするが、
でも、僕の使命はご主人様に勉強してもらう事だ。
その為に僕達は、教科書は産まれ来たのだ。ひとまず、歴史の教科書の意見は無視する事に決めた。






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