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三つ子の魂百までも番外編12

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「いつ頃からと言われましても、はっきりと覚えていないのですが、一か月以上前だと思うのです。私がこの部屋に入ったのが、
三月の中頃でした。その頃はなんの異常も無かったのです。七月の終わり頃から、変の音が聞こえてくる様になったのです。
前にも言いましたが、何かが泣く声が聞こえてくるのです。」

「どの辺りから聞こえてくるのですか?」
公一はクッキーを食べながら、二人の会話を興味深く聞いている。

「こちらです。」
と案内されたのが、寝室であった。僕が名探偵と言われる所以は観察力の凄さにあると、自負している。

……綺麗に片付いている。ベッドが何故かシングルでは無い。
寝相が悪いみたいで、大きめベッドを買ったのであろう。
僕のベッドはシングルで、よくベッドから落ちる事がある。
大島晃子さんも僕と同じ活発な人の様である。清楚で大人しく見えるが、人は見かけに寄らない………

と、公一の灰色の脳細胞が決断を下した。

「この部屋のどの辺りで聞こえてきますか?」

「部屋から聞こえるのですが、どちらかと言うと下の方です。

「此処以外の場所は、有りますか?」

「こちらの、和室からも聞こえてきます。最近ですが
こちらにある、この箪笥が少し揺れるのです」
と、驚きの言葉が飛び出した。
「この大きな箪笥が揺れるのですか?」
と、公一はビックリした表情である。だが、裕美はさらに鋭い眼光で箪笥の辺りを観ている。
しばらく、箪笥の辺りを凝視した後、裕美は言った。
「いつ、ここに来て観察させてもらえますか?夜にならないと、
はっきりした事は見えてきません。もう一度こちらに来たいのです。いつがよろしいでしょうか?」
と、聞く裕美さんの表情はいつもとは違う能天気丸出しの人では無かった!
公一は畏敬の念をもって、裕美を観ていた。

「ちょっと待ってくださいね。」と言って大島さんは部屋を出て行った。
スケジュールを確認したみたいで、私達に告げた。
「ここでの張り込みは、徹夜になるのですね。
それなら、週末がいいですか?」
と、聞いてきた。
「この前のお話ですと、週末は都合が悪かったのではないでしょうか?」

「今週の土曜日なら良いですが、明後日ですが良いですか?
そちらのご都合はどうでしょうか?」
「こちらはいつでも結構です。良いわね杉田君」

「僕はいつでも空いています。恋人もいないので」
と、さりげなく恋人居ないを宣言をした。
一瞬、大島晃子さんの瞳に輝きを感じた。こう言う観察眼も名探偵の条件である。

「そんな事はどうでも良いの!では土曜日に決定して、何時頃から来ればいいでしょうか。」

「そうですね。17時以降なら大丈夫です。食事もご用意させていただきますね。」
と、公一にとって、嬉しい言葉が飛び出した。
「そうですね。では17時過ぎにお伺いします。食事の件はお構い無くしてください。こちらで用意してきますので、お気遣いは嬉しく存じますが、ここは遠慮いたします」
と、いつもの裕美ではなく、大人の対応である。

「それと、この部屋の所有者はどなたでしょう?」
と、聞かれた時、大島さんの表情に少し変化があった。
「確か、パパだったはずです。買ったのはパパだから」
と、さらっと言ったが、裕美はその言葉を見逃さなかった。

……やはり、お嬢様は父の事をパパと呼ぶんだ。僕はお父さんとしか呼べ無いし、パパと言ったら、父も転けるであろう。
修は何て呼ぶのかなあ?美乃の父もパパという感じでは無い……
と、公一はひとり思っていた。

そして私達二人は大島晃子さんのマンションを後にし、事務所に向かって行った。

https://note.com/yagami12345/n/n335f5c7e111b

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