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森まゆみ「聞き書き・関東大震災」

森まゆみ「聞き書き・関東大震災」(亜紀書房)。電子書籍版はこちら↓
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 関東大震災100年を期して刊行された、著者の地元である谷根千を中心とした震災体験者の聞き語り。犠牲者10万人以上と言われる関東大震災。記憶に新しい阪神淡路大震災が家屋倒壊による圧死、東日本大震災が津波による溺死、そして関東大震災は火事による焼死だった。今後30年のうちに70%の確率で発生すると言われる熊本地震型の関東直下型地震、そして東日本大震災型の南海トラフ地震。今の首都圏を襲ったらどうなるのだろうと想像すると、もはや明日はなきものと暗澹たる不安に駆られる。タワマンの倒壊、都会的無関心による孤立、インターネット制御された世界に慣れ過ぎた混乱。
 谷根千は地盤が良好な台地だったので、甚大な被害は免れた。しかしだからこそ、そこに暮らす人びとが、どのように生き延び、記憶したのかが記録された。これが3万8千人近くが亡くなった本所区陸軍被服廠。そのお膝元である壊滅した浅草や上野界隈では、逆さに振っても何も出てこなかっただろう。特に吉原遊女の惨状は、文面を読むだけでも酸鼻極まる。またデマ流言による朝鮮人の大規模虐殺は、もはや被害者実態がわからないほどの狂奔であった。しかし谷根千といえども、バケツリレーなどの地域ぐるみの防災あっての延焼食い止めであった。避難民の民家受け入れ、炊き出しなど、誰もが身を挺して災害に立ち向かった。界隈に住んでいた寺田寅彦、野上弥生子、宮本百合子、芥川龍之介、宇野浩二、宮武外骨ら著名人、文化人が体験した関東大震災を鮮烈に振り返る。
 終章に元東大地震研究所所長である平田直・東大名誉教授へのロングインタビューが掲載されている。平田先生は、インタビューアーである著者の思い込みを正しながら、いかに「正しく怖がり適切に備える」かを説く。そこには自分の持っていた意識とは、ずいぶんかけ離れた指摘が数多くあった。避難場所と避難所は違う。オフィスや学校にとどまれ。2000年以降の建造物は、タワマンはじめ耐震構造なので倒壊しない。車で逃げるな(引火、渋滞)。これを読み進むと、来るべき地震にどう向かう合うべきかを教えられる気がする。


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