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森まゆみ「昭和・東京・食べある記」

森まゆみ「昭和・東京・食べある記」(朝日新書)。電子書籍版はこちら↓

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 下町の名店を巡る美味しい書き歩き。そこには料理の味の卓抜さだけではなく、お店の歴史が聴き込まれている。歴史ある老舗ばかりなので、どのお店も東京大空襲や関東大震災を乗り越えての今がある。その危機を乗り切るための家族親族の絆や地域や従業員の支えがあった。そして再開を求めるお客さんの声。ここに書かれているのは、メニューには載っていないお店の自分史だ。過日に著者とお会いする機会があった。谷根千を紹介するシンボルとも言える存在である。物腰柔らかく、深い教養に満たされた方であった。ご本人も本書について、料理の紹介というよりも、お店の歴史について書いたとおっしゃっていた。とても自分が書いている食レポとはレベルが違う。そこにはやはり取材ありき、そして培ってきた社会的な文化の蓄積がある。尚、本書は2008年に刊行された書籍の2022年改訂版。13年の間に閉店したお店もあれば、代替わりしたお店もあるので、著者と編集者が改めて巡回した労作である。

 本書を振り返ってみよう。取り上げている街がいい。上野、浅草、本郷、神田、神保町、渋谷、高田馬場、新宿、銀座、日本橋、新橋、赤坂、六本木、飯田橋、町屋、王子、東十条。敢えて谷根千を外しているところが著者らしい。取り上げているお店も納得のチョイス。ほとんどが自分も通い詰めたお店なので(25軒/39軒は行っている)、読みながら訪問した思い出が甦る。上野なら洋食の黒船亭、天ぷらの天すず、藪そば。浅草は洋食のぱいち、パンのペリカン、どじょうの飯田屋と駒形どぜう、鰻の川松、フルーツパーラーゴトウ。本郷は喫茶店中心で心、麦、ルオー。神田・神保町は甘味処のたけむら、喫茶店のショパン・さぼうる・ラドリオ・ミロンガ、中華の新世界菜館と源来酒家。渋谷は西村フルーツパーラー、台湾料理の麗郷。高田馬場はイタリアン文流。新宿はとんかつのすずや、ロシア料理のスンガリー、文壇居酒屋の池林房。銀座・日本橋は焼鳥の鳥繁、ナイルレストラン、吉野鮨。新橋は台湾料理のビーフン東、おでんの新橋お多幸、中華の新橋亭。赤坂・六本木は洋食の津つ井、チーズケーキのしろたえ、イタリアンのシシリア。飯田橋には沖縄料理の島。町屋にはお好み焼き・もんじゃ焼きの立花。王子・東十条には居酒屋の山田屋と埼玉屋に斎藤酒場。


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