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草凪優「人妻アイドル」(徳間文庫)

草凪優「人妻アイドル」(徳間文庫)。官能小説なので、不愉快な人は読まないように。電子書籍版はこちら↓
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 上野の場末のスナック「ルーザー」。その名の通り、年金暮らしや失業保険で酒に溺れる負け犬たちが集まる場所。家なし職なしの35歳の元教師・沢野由紀夫はスナックのママ・智美のセックスペットとしての飼い犬だった。だからお店の情けない客たちからも「ヒモ」と馬鹿にされていた。週に一回はお店がハネた後で、池之端のラブホで重ねる情事。しかし行為が終わって、智美がバスに入った途端に由紀夫はテレビで信じられないものを観た。それはアイドルとして人気を博している、別れたはずの妻である鈴森乃愛が、自分が世帯持ちで一児をもうけていることを唐突に公表していたシーンだった。実は由紀夫と乃愛は高校教師と教え子の関係で、駆け落ち結婚した訳ありの仲だった。もともとは顧問をしていた演劇部の代役女優を頼んだのがきっかけだった。しかし芸能事務所の佐倉エリカに口説かれて、乃愛はアイドルの道を目指す。教師との過去愛を公表した乃愛の美貌は、男女ともに絶大な人気を博した。そのことで由紀夫は、乃愛の未来のために離婚届に判を押したのだった。「やっぱり嘘つき」と炎上したファンたちに窮地に陥ったエリカと乃愛。困り果てたエリカは由紀夫に連絡を取ってきた。
 世の中には女にモテる男がいるものだ。自分にはこんな僥倖はなかった。それでも誰もがモテ期ってあるはずだから、そのチャンスは逃しちゃいけないのだろう。そう考えると自分はシチュエーションを間違えた、間抜けの連続であった。モテる男の物語は、たいてい向こう(女性)からやってくる。だから島耕作もそうだけれど、巻かれるままの、柳に風なのである。ここでも主体性を発揮しているのは乃愛やエリカたち女性陣。人生に対する思い切りもいい。アイドルという職業の魅力と、個人の幸せを天秤にかけた女たち。エンディングは人も羨むハッピーエンド。

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