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下村敦史「情熱の砂を踏む女」

下村淳史「情熱の砂を踏む女」(徳間書店)。電子書籍版はこちら↓

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 闘牛士になった兄が死んだ。演技で大技に挑んだ末の出来事だった。妹の怜奈は兄の死を悼むためにスペインへと向かう。だがそこで抱いたのは、兄がトラブルに巻き込まれていたという疑念だった。なぜ、兄は無謀な大技に挑んだのか。真相を探るうち、やがて怜奈は、闘牛の世界に魅入られる。本書は闘牛を知っているようで、実はまったくわかっていない日本人にも詳しく解説してくれる。

 「ミイラ取りがミイラになる」を地でいった小説。闘牛を野蛮だと嫌っていたはずの妹・怜奈。闘牛士である兄・大輔の事故死の理由を探りにマドリードを訪れる。その場で観ないとわからないものがある。ラグビー、ボクシング、フラメンコ、そして闘牛はまさにその一つ。会場の声援や野次、牡牛の殺到する地響き、生と死の狭間にある境界線。読めば読むほど、闘牛の世界が持つ深さに魅せられる。ことに女闘牛士となった怜奈が2回目に挑んだ出番は「神ってる」。女性であることを活かした牡牛との息の合った演技は、読む者を幽玄境に誘うファンタジスタだ。

 そしてそうこの作品はミステリーだった。「闘牛ミステリー」って、何だいったい? 兄の死を含めた様々な秘密がエピソードで明かされる。そこにはスペインの闇、闘牛界の堕落と腐敗、そして奔放なラテンの血による過ちが描かれる。そこには闘牛という儀式を心から愛してしまった、著者の15年かけたライフワークとしての眼差しが溢れている

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