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梶尾真治「未来のおもいで 白鳥山奇譚」

梶尾真治「未来のおもいで 白鳥山奇譚」(徳間文庫)。電子書籍版はこちら↓
https://www.amazon.co.jp/dp/B0BP241Q3N/
 デザイナーの滝水浩一は、熊本県の白鳥山を登ることが人生の生きがい。白鳥山は登山口が遠く、秘境と呼べるほど、登山者もまばらな山。だから人に気を遣うこともない。それに加えて山芍薬の花の群生。一年のうちに僅かしか見ることの出来ない光景。今年はその登山中に豪雨雷雨に遭遇。偶然に洞窟で避難を助けた美しい女性・沙穂流。彼女の面影が忘れられない浩一は、沙穂流が現場に忘れた手帳を届けにゆく。しかしそこで出会ったのは、彼女が産まれる前の両親だった。惹かれ合うお互いが、出逢った洞窟で交わす往復書簡。果たして二人は再び出逢うことができるのか?
 タイムパラドックス小説の名手・梶尾真治。時空を超えた恋愛は、七夕にしか会えない彦星と織姫のように、会いたい気持ちに囚われる。誰とでも恋に落ちるわけではない。出会いには衝撃があるものだ。それが二人にはあった。相手が大切であることは、なかなか会えないからこそ実感できる。いつも一緒にいるから、ありがたみがわからなくなる。そんな純粋培養空間を、梶尾真治は時間差の魔術で作り上げてくれる。熊本大震災を想起させる、中部九州大地震は本書が執筆された後のできごと。時を遡ることで人を救えるのか?、変えてしまえば自分たちの存在はどう変わってしまうのか? 浩一と沙穂流の悩みはメビウスの輪のように連環する。その輪をどう断ち切るかが、本書の大団円。
 初版刊行時に映画化企画があり、著者本人により書かれたシナリオを収録。鶴田謙二の挿画、映画監督・犬童一心の解説も収録。


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