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赤松利市「犬」

赤松利市「犬」(徳間文庫)。電子書籍版はこちら↓

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テーマはトランスジェンダー。ニューハーフの主人公である男性の桜は、去勢手術をして女性となった。座裏と呼ばれる難波の歌舞伎座裏にスナックを営む。そこに転がり込んできた良家の子女で、桜と同じタイプの生き方を望む沙希。二人は母娘と慕い合う。そこに桜の昔の男・安藤が訪れ、桜と沙希の関係に亀裂が入る。しきりとFXを桜に勧める安藤。沙希は安藤の狙いが、桜の貯金1,000万円と察して警告する。安藤への未練で沙希を放逐した桜。しかし沙希は桜のために貯金を隠す。本性を見せた安藤は、桜に暴力を振るい、沙希を捜索する。ようやく目が覚めた桜は、自殺をほのめかして姿を消した沙希を、追う安藤から守るために身を賭す。

新潮社の中瀬ゆかり編集部長も高く評価して、大藪春彦賞授賞式に会い来たほどの赤松利市氏。前作「鯖」は秀作だが救いのない結末。中瀬ゆかり編集部長が、やはり評価している原田ひ香氏の作品に近いものを感じた。今回の作品も暴力シーンは、息を飲むほど凄まじい。こんなにされても人間って死なないんだなって思う。それでも自分の価値を認めてくれる人がいるということ。自分を必要としてくれる人を大切に思うこと。全てが終わった時に、あれだけの凄惨劇を経ながら、読んだ心は晴れ晴れとしている。

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