見出し画像

樋口明雄「南アルプス山岳救助隊K-9 さよならの夏」(徳間文庫)

樋口明雄「南アルプス山岳救助隊K-9 さよならの夏」(徳間文庫)。電子書籍版はこちら↓
https://www.amazon.co.jp/dp/B0CH9Z4T1Y/
 北岳で登山者たちの遭難を救助する「山岳救助隊K-9」。9人の隊員が2頭の救助犬と行動を共にする。ある日、隊員の星野夏実と相救助犬メイは、岩場に佇む若い男性を発見。その前後で夏実は不思議な体験と感覚に遭遇した。男は意識が朦朧として記憶が飛んでいる。記憶が戻り始めてから、氏名が水越和志、住まいは甲府とわかった。その頃に甲府市内では、凄惨な殺人事件が連続した。事件を巡って、北岳と甲府市内が交錯し始める。神聖な山を汚す、市井の悪霊たち。果たして山岳救助隊は、山に迫る危機を防げるのか。
 読者は犯人探しに少なくとも三度は迷うだろう。明らかに犯人と思しき怪しい1人目。でも新たに2人目が匂う。しかしそうでなければ残るは3人目。しかし思いもよらぬコペルニクス的転回。ミステリーとしては交響曲第4楽章で、トリロジー以上の構成。しかしこの作品の魅力は、優れたミステリーである以上に、登場人物の心模様である。山岳救助隊は自分の危険も顧みず、人命救助を何よりの使命とする。山麓の山梨署の警察官たちは、新たな被害者を生まないことに死力を尽くす。そして事件の周囲にいた人々の数奇な運命。中でもこの物語の実質的な主人公の存在には、激しく心を揺さぶられた。霊とは実在するのだろうか、そしてそれは人の情念なのであろうか。エンディングは号泣に次ぐ号泣。僕は声をあげて哭いた。この作品は「山岳救助隊シリーズ」の第9作目。本作品は間違いなく、著者の最高傑作だ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?