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梶尾真治「ディ・トリッパー」

梶尾真治「ディ・トリッパー」(徳間文庫)。電子書籍版はこちら↓
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結婚して、僅か三年半で最愛の夫・大介を喪った香菜子。抑えても抑えめても消えない悲しみの中で、いつも亡き夫のことを思う毎日。そんな香菜子を励まそうとする友人たちと行った店で出会った女性・芙美に「亡くなった人に会える」と声をかけられた。彼女は叔父の機敷埜風天が発明した遡時誘導機、通称「デイ・トリッパー」を使えば、死んだ人に会えるというのだ。ただし、歴史を変えるようなことはしてはならないと釘を刺される。香菜子は夫に会うためならばと、瞬時に決断した。
 人は同じ平穏がずっと続くと信じている。大切な人は未来永劫そばにいると思っている。実際には人は突然いなくなる。転校したり、職場を辞め、家庭から去ってゆく。でも生きていれば、また会えるかもしれない。会うか会わないかは本人たち次第だ。だけど、死んでしまったらそうはいかない。人は焼かれて骨になり、小さな骨壷の中に物質として収まってしまう。それはどんなに地位の高い人であっても、どれだけ富に恵まれた人であっても、いかに美しい人であっても、桁外れに優秀な人材であっても、そしてどんなに貴方が愛した人でも。タイムトラベル小説には、必ずと言っていいほど「歴史を変えてはならない」という鉄則がある。それは「Back to the Future」だって「ドラえもん」だってそうだ。だけど苦しいほどの愛は葛藤の中で掟を超える。この物語は、そんな偏狭な倫理や常識を覆す。果たして今ある歴史は、現在の自分は永遠の真実なのか。

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