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魔法少女SS


『私は、あなたの考えは受け入れることができない。
人は、汚れを抱えて生きていくことしかできないの。
それを全て光に変えて生きていくことなんてできない。

私たちは、ただ深すぎる汚れを少し薄めるだけなの
あなたみたいに、汚れを全て祓うのが目的ではないの』

月明かりのもと、黒い衣装を纏った少女は言う。
短い髪がさぁーっとビル風に寄って巻き上がる。

月が2人の少女を照らし出す。
1人は短い黒髪の少女。その瞳は淡々と闇を見つめて映し出している。
まるで、彼女の心そのものを写しているようだ。

月はもう1人の少女に目を向けた。

長い髪がビル風になびき、少女の顔を覆っている。
しかし、瞳は涙を湛えている。
目の前の少女と相容れないという感情と、少女の言葉の棘が鋭く刺さったのを堪えるようだ。

まるで正反対の存在だ。

月は万物を見下ろし、照らすものとして空から2人を見つめる。
そして、心の中で呟いた。

「どうして?どうして、そんなことをいうの?
私たちのやっていることは、人々の幸せを願うことでしょう?
なのに、どうしてそんなことをいうの?」

涙声で少女が叫ぶ。
風で少女の声がかき消されそうだったが、悲痛な声はもう1人の少女に届いた。

「だって、人は汚れを抱えてしか生きていけないから。
それが悪だと私は思わない」

その言葉のみで少女は去った。
黒い裾をはためかせて、月明かりの元下へ下へ堕ちていく。

それを止めることはできなかった。

とある学校のとある教室で木下聖羅は考える。
例えば、教室の中のクラスメイトたち。
この中で、どれだけ他人のことを考えて生きていける人間がいるのだろうか。
みんな、自分のことを第一に置いて生きていく。
そこから広げて教師たちや自分の周りの大人たち。
彼らは、今の自分たちも社会で生きていき、お金を稼ぐ。
そして自分たちの地位を維持しているために、他人のことを考えない。

『そんな人間たちの汚れを祓い続けるなんて無理なことよ』

窓の外をみて彼女は考える。
今日は晴天だ。憎らしいぐらい太陽が光っている。
その光を見ると、あの満月の出来事を思い出して、眩しさに憎らしくなる。
太陽を睨んでも仕方がないのだが、それでも睨みたくなった。

真壁美里は考える。
人はどうやったら変わることができるのか。何をどうやったら、手を差し伸べたら、人は光の道へと歩くことができるのだろうか。

例えばクラスメイト、そして今自分と話をしている友達たち。
もし彼女たちから笑顔が消えて、人を傷つけるようなことをした時に、自分はどうやって助けることができるのだろうか。
そんなことばかり考えてしまう。

「みりー、聞いてる?」

こちらのボーッとしたのを感じたのか、1人が声をかけてくる。
ごめんごめんと笑顔を見せながら、話の輪の中に戻る。

人は、助け合って生きていくことができる。
闇があったとしても、人と助け合って光へ戻っていくことができる。
笑顔を出しながらも、あの日の夜のことを思い出して、チクリと胸が痛んだ。

2人は人の心の汚れを祓う魔法少女だ。
心の汚れとは、医療では解決できないものとして一般的に認識されている。
人の負の感情が増長したものが、具現化して人を狂わせて襲う。
それは一般人には見えず、見えるものは“魔法少女”と呼ばれる。
2人はその“魔法少女”として心の汚れを祓い続けた。

ただ、聖羅はいつも思っていた。自分たちがどれだけ心の汚れを祓い続けても、自分たちがどれだけ身を削って戦い続けても、誰も自分たちを誉めてくれない。
誰も認めてくれない。汚れを落としたところで、人は何も変わらない。
魔法少女のことは、他人には決して話をしてはいけない。
どうしてかわからないが、魔法少女になったときにそう言われた。
それが一層、聖羅の心を孤独にした。

美里は考える。自分が魔法少女であることを周りに伝えたらどんな顔をするのだろう。褒めてくれて、きっと認めてくれることと思っている。
魔法少女の存在は秘匿されている。そして周りのものにも言ってはいけない、と魔法少女になったときに言われた。
そして、この活動をする中で、汚れを落とした人たちの晴れやかな姿を見たとき、自分のやっていることはどれだけ凄いことか、どれだけ誇りに思うことかよくわかった。
それが一層、美里の心を晴れやかにした。


2人の決別から再びまた満月がやってきた。

風が前の満月と同様に、彼女たちの髪の毛を吹き上げる。

「あの日から私の心と答えはわからない。人の汚れを落とし続けても、何も変わらないのよ」

「答えが変わらないなら‥‥、私は、あなたを倒さないといけない‥‥!」

「そうよね、魔法少女になったときの掟よ。どちらかが裏切るとき、どちらかが心の汚れに飲まれたとき、お互いに倒さないといけない」

髪の毛をかきあげて答える。黒い衣装を纏った星羅は、覚悟を決めてステッキを振り上げる。

その様子を、涙を流しながら美里は見ながら叫ぶ。

「私は!あなたを倒したくない!あなたと共に、汚れを落としていきたい!」

涙を流して訴えるも、美里の言葉は星羅には届かない。

「言ったでしょう。私たちは最初から相容れないものなのよ。
それが、私たち魔法少女の宿命なのよ」
            ー了ー

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