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令和4年日本語教育能力検定試験奮闘記


 今回島には4月から10月18日までいた。
 今回滞在の目的は、10月23日の日本語教育能力検定試験のための勉強。それが一番だった。
 
 だがしかし、その間、中国の大学の給料が振り込まれている銀行口座が凍結されたことで給料入らなくなったり、そのためにバイト探したり、その一環で始めたぽこちゃで稼ぐどころかメンタル病んだり、恋してフラれたり、ウルグアイ人のマッサージの弟子になったり、まあ、色々あった。

 実質勉強期間四カ月、無課金独学、初挑戦。

 それでも現役日本語教師の意地と勉強の楽しさから、受かる気満々。過去問は過去六年分すべて三回ずつやり、対策問題集もやった。最終的には点数もかなり取れていた・・・が、本番はもう・・・思い出したくもない。

試験Ⅰとドレッドねーさん

 私はこれまで実際関わった同僚の日本語教師たちが大嫌いだったし、420時間講座受けてきた先生も資格取った先生も高学歴の元教授も、肩書立派でも授業はクソってのを見てきただけに、試験会場に集まる人もすべては敵ぐらいに思っていた。

 資格を取って日本語教師としてがんばるぞ♡なんて甘いこと言ってんじゃねぇ、言葉もわからん外国の大学でいきなり50人の前で授業しろって言われてやれんのかゴルァぐらいに思っていた。

 私はこれでも全学部1万人の学生が選ぶ授業評価ランキング外人教師一位、総合ランキングでも数百人いる先生の中で二位なんやで!みたいな謎の自信。

 まあ、ようするに、負け犬の遠吠え? すっぱいブドウ? 
 お勉強できるだけじゃ授業なんてできないんだからね!と謎の威嚇。
 なんてことはない、ただブルってただけですよ、はい、よーわむし、よーわむし、負~け犬~(いろんな意味で)。

 でもそんな私の通路挟んで隣の席に座ったドレッドねーさん・・・ジジババ、真面目そうな若者たちの中で明らかに異色!

 私は自分が一番派手なんじゃないかと思ったけれど、いやぁ、完全に派手さでいったらドレッドねーさん、プロですよ!

 しかもこのドレッドねーさん、超素敵で、胸がトゥンク。

 私も含めて、周りが最後の悪あがきでノートや参考書などを読んでいる中、NO荷物!NO参考書! 机の上は筆記用具だけで何もしない!
 
(なんじゃ、この余裕はぁ!!!!!)

 しかもすごいのが、試験官のおじさんが問題用紙などを一人一人の席に配る時も常に笑顔で「ありがとうございます」と感じがよい。

 試験は午前から試験Ⅰ試験Ⅱ試験Ⅲと別れていて、始まる前に毎回マスクはずして本人確認するんだけれど、ドレッドねーさんここでも素敵な対応、

「ふふっ、同じ顔?」

と笑顔なんだからもうズッキュン!

 やだ、もう、何その余裕!

 むしろ試験官の一人のおじさんの方が緊張であわあわしてるのか、ほかの受験者の席を横切る時、バタバタ通り過ぎたため、机の上の受験票吹っ飛ばしたり、落ち着きがない。

 この試験はとにかく時間との勝負でもあり、私は過去問対策でもタイムアタックは何度もしていて、二回は見直せるぐらいの余裕が出るまでスピード上げた。

 なのに本番は時間がない!
 見直しも全部はできなかったし、見直せた部分だけでかなり凡ミスがあり、消しゴムで消してマークシート塗りなおしてる。しかも最後まで見直しチェックできてない!

 もう最初の試験Ⅰが終わった時点で放心状態・・・

 それからお昼。
 友達の母校だった大学は綺麗で食べれる場所も色々あると聞いたのに結局使わせてもらえず、自分の席で食べるしかない。

 ドレッドねーさんと話したい!!!!(もはや片思い状態)

 しかし基本黙食。私は黙ってこの日のために朝作ってきた縁起を担いだカツ握りを黙々と食べた。

赤飯は前日の晩に親にもらって朝食べた

試験Ⅱ 音声問題

 音声問題は唯一満点が狙えるほどやり込んだし自信があった。

 が、しかし!

 なんか外国人の間違えた日本語の発音の口腔断面図を選ぶ問題からして、口腔断面図カルタを作って完璧に覚えたにも関わらず、そもそも何言ってるかわからない!!!!

 たとえば「よみかた」という発音。
 どうも過去問解説サイトをみると「じょびかた」と間違って言っていたようだけど、私の耳には「よびかた」と聞こえたぁ!!!!!

 ちなみに私は過去問の試験Ⅱの中で実は一番苦手だったのは日本人が作った聴解問題に対する問題である問題5だった。

 自分が実際に作る聴解問題とはそもそもが違う。
 私が作る聴解問題は日本人留学生と現地駐在員さんを使ったおもしろエンタメだったり、とにかくネタ重視のほぼコント。
 それもあって、試験用の聴解問題がまずおもしろくなくて苦労した。

 しかし、今回の試験では対策もしたせいか間違いは1つだけ、ほとんど正解している。

が、その代わり、得意だった問題6がほぼ壊滅的な状態。
過去問では常に全問正解していたところだ。

 これも前述の口腔断面図のように、そもそも間違い箇所の特定を間違っていることが原因な面もあったり、さらにはもともとが得意だったということもあって慢心もあったのかもしれない。

 とにかく音声問題にいたっては、満点どころかもう7割いったかも怪しくて泣きそうな気持ちになっている……。

問題Ⅲ・・・そして終わった・・・

 問題Ⅲは最後に記述問題がある。この記述問題のために40分時間を残した。それでも過去問の時は余裕で見直しもできた。しかし本番はまずマークシートの見直しが一切できない、記述問題もぎりぎりで、最後無理やり書きなぐって字数増やしてやっと終わった。もともと汚い字は更に汚く、もし字のきれいさも評価されるならまちがいなくアウトってぐらいヤバイ。

 ちなみに「先生は黒板に板書しなければならないので字が綺麗でなければならない」という人もいる。

 それを否定するわけではないし、字が綺麗に越したことはないけれど、必ずしもそうとはいえない。

 なぜなら私は授業中黒板を使ったりしない。
 理由は二つ。
 ・字が汚いから学生が真似すると困る。
 ・中国の大学のチョークは折れやすいし粉まみれになる。

 授業はパソコンで打ったものをスクリーンに映していたし、何より私は字を書くよりもタイピングの方が圧倒的に速い。それもこれも昔一件6円のデータ入力バイトや〆切に常に追われるライターバイトをしてきたおかげ。

 はっきりいって、字をきれいに書けるよりも、タイピングが速く、できれば打ちながら話せるぐらいの能力の方が今の日本語教師には必要だと思う。

 コロナになってからずっとオンライン授業をしているが、口頭で言ってわからない時はすかさずタイピングしてチャットで字をみせる。

 或いは、何かを説明する時は、必ず話しながら同時タイピングをする。この時は、耳だけで日本語を聞き取る負担を減らすためだ。その時によってどれだけタイピングするかは使い分けている。

 ただ別の日本語教師のように字幕もない動画を送りつけるよりは、私のようにリアルタイムオンライン授業でタイピングしながらの方がわかりやすい。字幕なし動画を送るだけの日本語教師は、学生たちからの評判も最悪だった。

 このように、実践ではちがうってことは多く、対策してない問題に関しては経験をもとにしたため、間違えているというものも多かった。

 これが現役日本語教師がこの試験を受ける難しさだという。

 事件は会議室で起きてるんじゃない!現場で起きてるんだ!!!(古っ)
※90年代ドラマ好き

 はっきりいって、この六年間の過去問対策は何だったのかと思うぐらいに、対策を外した問題出してやるぜ!の意気込みを問題作成者から感じた。

 すべての長丁場を終えた後・・・

 私の机の上は消しゴムのカスだらけ。
 手は熱く、なんと両手がぶるぶると震えていた。

 終わった・・・(いろんな意味で)

 ドレッドねーさんといえば、前の席の人のコートを踏んでしまったことを謝っていたり、後ろの席の人に笑顔で話しかけていたり、ほんと最後まで余裕。ほんとこういう人が日本語教師になったら素敵と思う。

 私といえば、学生には好かれているけど、何しろ血が熱くたぎりすぎてて、早とちりも多いし、松岡修造六人分と言われるぐらい、暑苦しい。ドレッドねーさんみたく、にこやかで、朗らかで、素敵な感じではない。

 私は試験の成績だけいいだけの人には、教える能力やコミュ力では負けないと自負していたけど、世の中にはこういう両方兼ね備えている人もいるんだなぁと打ちのめされやしたよ。

 ちなみにこのドレッドねーさん、名前書き忘れたらしくて試験Ⅱの時に試験官に指摘されてたけど、どうやら試験Ⅰでもそうだったらしい。
 でも試験官が「だいじょうぶですよ、こちらで何とかしますので」とか言ってたから、名前書き忘れたら無効ってことはないんだなーと思った。

 しかし名前書き忘れるってことは模擬試験とかしてないんだろうか……。それで記述までしっかり書き終えてて、やはりこの人タダ者じゃないわ!とただただ感服していた。消しゴムカスも少ないし。

 コロナ対策で列ごとに教室を出なきゃないため、結局ドレッドねーさんと話すこともできなかったし、まあ、そんな心境でもなかったけれど、颯爽と去るその後姿をみながら何とも情けない気持ちになったものだ。

 その夜は、試験会場の大学まで迎えに来てくれた友だちと飲みに行き、そのことでかなり救われた。マジでそのまま家に帰ったら首つるんじゃないかってぐらいボロボロ状態。慢心から多少舐めていた相手にボコボコにされてフラフラになっている状態。

 まあ、その日は帰って寝落ちして、翌日も気分は最悪で、悩んだ末に解答速報見て自己採点したら思った以上にとれてなくて荒む・・・。

試験を終えて思うこと

 過去問解説サイトのむきえび先生の

「この試験一つであなたのこれまでの実績・経験が否定されるものではない」

のお言葉に本当に救われた。

 試験勉強自体は楽しかった。
 特に今回の試験でもだけど、異文化交流や心理学方面はもともと得意だし、楽しかった。

 自分の授業でも試験勉強で学んだことをいくつか取り上げたりもした。
 異文化理解ゲームアルバトロスや学習者同士で作文を添削し合うピアレスポンス、一番最近だと文化の島の話をした。

 それぞれの文化は海の中の島みたいなもので、目に見える部分はちがうけど、目に見えない根っこの部分では普遍的に繋がっているという話。

 そもそもこの前の授業では「出身は?」と聞いた後、「ご家族は?」と聞くと、父母祖父母姉だと答えた学生がいたことから。
 聞けば姉さんは結婚して家を出てるし、おじいさんは他界している。

「この場合は、今生きてて一緒に暮らしている家族のことを聞いているんだよ」

 そう言って私ははっとした。

(そもそもそれがおかしくね?)

 家族の定義なんて人それぞれだ。離れてようが死んでようがその学生にとっては、お姉さんもおじいさんもずっと家族であることに変わりない。

「そうだね、何もまちがってないね。自分の意図した質問と相手の答えの意図は違う」

 こんな話からで、文化や習慣の違いを発見するのは楽しいという話になった。

「ちがうことは悪くない。悪いのはちがうということを批判すること。それにちがうと思っているのは実は目に見える表面的な部分だけで、みんな同じ人間だし、深い部分ではみんな同じで繋がっている」

「先生、私もおもしろいと思います」

 ああ、やはり若者と話すのはおもしろいな。
 水を吸うように素直にこちらの考えに耳を傾けて理解してくれる。もちろんそうなるまでの信頼関係がある。

 この試験を受けようと思ったのも、そもそも学生たちのレベルが高くなってきたことも関係する。卒業生がどんどん日本語教師になっていて、彼らの質問が高度になってきた。高校から日本語を習ってきた新入生たちのレベルも高い。彼らを教えれるだけのレベルが自分にも必要ということ必要性から。

 まあ、思ったより自己採点で点数とれてないし、はっきりいってボーダーギリギリ。記述問題の点数次第というところ。

 でもYouTubeの大根先生やももこ先生を知らなければ、独学四カ月でここまでの点数も取れなかったと思う。

 ももこ先生動画でバイリンガル問題も知ったし、特定技能について詳しく勉強したことで、島の技能実習生との交流からもよく見えてきたことがある。

 無駄ではなかったと言いたい。

 でもはっきりいって落ち込んでいる。

 Twitterとかみたらほんと病む。私がいつも見ていた過去問サイトでもコメ欄に「ほぼ満点」とか書いてる人いるし、Twitterでも楽勝自慢、マウント……マジでクソ。

 私のnoteなんて見る人なんてほとんどいないけど、そんな奴ばっかじゃねーわ!と書き残しておきたくて書いてみた。

 あとあまりにも闇落ちで世界を呪い始めたので、文字化することで気持ちの整理。

 私のやってきたことは無駄じゃない。
 無駄じゃないと言い聞かせながらも、島まで行って、古民家こもって、最高の学習環境を与えてもらってこれかよと、情けないやら悔しいやら……。

 もっとできたはずなのに……とか、努力不足とか、マッサージ修業している暇あったのかとか、ポコチャの意味何一つないどころかあの期間返せとか、学生たちに申し訳ないとか、もう本当にむきえび先生の言葉がなければ先生なんて辞めてしまいたいと思うぐらいに情けない。

 それと同時に日本語教育能力試験の「教育能力」って知識だけ?とも思ったりもする。私の「教える力」はもう子どもの頃からの才能で、それはバイト先でもどこでもわりと発揮してきた。でも、この試験で落ちたら日本語教育能力レベルがないってことですよね……あ、また闇落ちしてきた。

 学生に「どんどん失敗しなさい、先生に謝らなくていい、失敗は発見のために必要、大きな経験になる、進歩してくれればうれしい」と言い続けてきてこのざまですよ……。

 休憩時間の自販機の前で「まあ、時間的には余裕、今回はお試しだし」と余裕そうにしていたあのおじさん……。あれぐらいの気楽さだったら何か違ったんだろうか。そもそも終わった後に手の震えが止まらないってのがもう異常。

 とにかく相当な緊張とプレッシャーの中で闘った。
 
 そして終わった……。

 一つ言えるのは、現役の日本語教師だってこのざまだっていうことさ。

 もし私と同じようにネットのドヤってる奴らにやられてメンタルへこんでる人いたら、私のざまみてホッとしてほしい。

 そしてこいつらみんな敵と思ったすべての受験生に言いたい。

 本当にみんなすごい(泣)

 難易度が高いとされている問題箇所、実は私はそこまで間違ってなかった。つまり難しくもないところで点数とれてないっていうこと。これですでに研究生とか日本語教師になる大学生を教えているんだから笑っちゃうだろー?

 まあ、これが実力。仕方ない。


 追記 なんと合格してました!

 

 

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