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年を重ねて味わえること

絵が好きだ。
自分では描けないから、見るだけだけれど。
 
絵は私を楽しませてくれる。
絵は私を遊ばせてくれる。
絵は私を退屈させない。
 
年を重ねてよかったと思うことのひとつは、絵とたわむれる時間的・精神的な余裕ができたことだ。
以前から絵は好きだったけれど、気ぜわしかったり、気がかりやストレスがあったりして、のんびり絵の世界に浸ろうという気にはなれないことが多かった。
いまは気が向いたときに美術館めぐりができる。図書館で大きな画集に見入ることもできる。
このことを私は、ある種のぜいたくを手に入れた、と感じている。
 
絵は私にいろいろと語りかけてくる。
絵はその時代、その土地の世情を映し出している。
絵はその時代を生きた人々の、喜びや哀しみや怒りや苦悩を表現している。
 
絵を見ていると、話しかけたくなる。
絵に描かれた女性に「なんでそんな格好をしているの?」とか、「なぜそんな憂鬱そうな顔をしているの?」とか。
絵を描いた画家に「どうしてこんなところを描いたの?」とか、「この絵はすばらしいけれど、ちょっとヘンじゃない?」とか。「なんでまた、この瞬間なの?」とか、「気持ちがずいぶん荒れているのね」とか。
 
人づきあいが得意ではない私だが、絵に描かれた人物となら、ためらうことなく話ができる。
人がこわくて言いたいことを言えない私だが、もうこの世にいない画家になら、遠慮なくものが言える。
絵や画家が相手だと、自分の考えや感情をストレートにぶつけることができる。
好きなだけ対話を発展させても争いごとには至らない。これはなかなかいいものだ。
 
絵の世界では、現実にはできないことができる。
絵の世界で遊ぶと、気づかなかった自分の本当の気持ちに気づけたりする。

絵とたわむれると、もっと素直になろう、もっと自然に生きよう、という気分になってくるから不思議である。

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