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ダメ男、ビアガーデンの司会をする 前編

♪ ねぇ相棒ならァ・・・

うるニャいんだ!おミャえの下手クソな歌とか聴きたくニャいんだ!!
はニャしがあるなら、さっさとはじめるんだ!!

・・・わかったよ。そこまで言うのなら止めるよ。チェッ、せっかくお決まりの始まり方にしようと思ったのにさ。
あ、ちなみに前回のと今回歌えなかったのは太田裕美の「赤いハイヒール」の替詩です。


◆ おっちゃんとの出会い

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えと今回と次回は前後編として書いていきます。
本サイトの方ではもっと長いのをいくらでも書いてるのですが、noteでは初。ま、そのつもりでお読みください。

あれはアタシが大学生の頃の話です。
大学の部活というかサークルに所属されていた方からすればご存知でしょうが、一部の体育会系を除いて大学4年生はあんまり部の内部には立ち入らなくなります。
実権を握るっつーか、運営していくのは3年生で、4年生はいわば相談役のような立場になる。ま、3年生が社長で4年生が権限のない会長のようなもんです。
だから新入生としてサークルに入ると接触があるのは2年生と3年生だけで、4年生とかかわる機会はほとんどない。あっても一堂にって感じじゃないわけで。

アタシが新入生としてサークルに入った時の4年生に実に面白い人がいました。
そもそも、後から聞いた話だけど、その先輩は3年生になったぐらいからほとんど部室にも顔を見せなかったそうで、では何をやっていたのかというと<仕事>です。
<アルバイト>じゃないよ。あくまで<仕事>で、とにかく個人で業務を請け負って、学生の身ながらそれなりに手広くやっていたのです。

だいたいこの先輩、見た目からしてとても大学生には見えない。まだ20代前半だったはずなのに、どっからどう見ても「大阪のおっちゃん」でね、しかも妙にダジャレを言いたがるのでますますおっちゃんっぽかった。
たぶんアタシが初めてこのおっちゃんに会ったのは、入部して2ヶ月ほど経った頃だったと思う。
もう最初に何の話をしたかは憶えてないんだけど、妙に気に入られてね。

「自分(←関西弁で<You>の意)、ええなぁ。自分やったら出来るんちゃうかな」

何がですか?

「自分、司会とか、やってみぃひん?勉強になるで」

は?・・・は?
シ、シカイ?
司会せえって?
しっかりせえってことじゃなくて?

ってそれはダウンタウン、いやGEISHA GIRLSのネタか。


◆ ダメ男、司会者になる

それにしても、司会って何の司会なんだ。まさかテレビ番組の?いやいや、さすがにそれはあり得ない。じゃあいったい何なんだ。

想像するに、せいぜいキャバレーかなんかの司会だろう。ま、それとてアタシの技量でコナせるとは到底思えないけど、どっちにしろ薄暗い、サケとナミダとオトコとオンナが入り乱れた空間であるのには違いないだろう。
正直、それは好まない世界だった。というのもアタシは下戸でして、と言っても一滴も飲めない類いの下戸ではないんだけど、ああいう空間は苦手だったんです。

それって、サケの入った・・・

「まァそうやけど、ええやん。とにかく来週、□□百貨店に来てくれや」

強引だなぁ。というかこの人はそういう人なんですよ。断るタイミングを一切作ってくれない。
だからもう、渋々ね、当日、□□百貨店に向かった。やだなぁ。これからどこに連れて行かれるんだろ。

「屋上、上がろか」

で、屋上まで来てみると、ビアガーデンがやってる。

「あそこにステージがあるやろ。でな、そこで軽いショーをするねん。今日はワシがやるから、よう見ときや」

アタシが呆気にとられる中、ステージでおっちゃん司会のショーが始まったのですが、これが、まァ、実に見事もので、客、客ったってビアガーデンなんだから半分酔っ払ってるわけですよ。でもそれを、おっちゃんは軽くあしらいながらテキパキと進行していく。とても素人とは思えない。
・・・しかし、これをアタシがやるのか?そもそもアタシでは客あしらいどころか、「よどみなく」喋って「つつがなく」やり遂げることさえ無理だぞ。

「そらいきなりは無理やわ。でも慣れたら出来るさかい。早飲み競争とクイズの10分のステージを2回やったらええだけやねんから。あとは遊んどいてかまへん」

そうは言われてもなぁ。
まずは、とにかくキャバレーみたいな「薄暗い」場所での司会でなかったのはよかった。同じサケの場でもビアガーデンはかなり開放的だから気分的にはちょっとはラクだろう。
しかし、おっちゃんと同等レベルはぜんぜん無理だし、やっぱ、これは、どう考えても出来ないよ。
とはいえ、どうやって断ろうか・・・。

「そういうわけやから。来週から頼むわ。ほな!!」

こうしてアタシはビアガーデンのショーの司会をやるはめになったのであります。


◆ パイプ椅子が飛んできた、ヤァヤァヤァ!

人間、エラいものでね、どんな仕事だろうが、何度かやってみると、やっぱり慣れるんですよ。ビアガーデンの司会なんて、とんでもないものでさえ、4、5回やったら慣れてしまった、という。
これもひとえに若さ故、ですかね。©ジャガーズ

慣れてくるといろんなことが見えてきます。
例えば日曜日はすこぶる客層がいい。というかファミリー層が多いので、つまり子供が多いんですよ。
一日2回のステージ以外はヒマなので、日曜日になるとずっと子供と遊んでいた。そりゃあ子供はビールとか飲まないし退屈してるわけで。
逆に客層が悪いのが月曜日でして、正直なるべく月曜日はやりたくなかった。

灰皿が飛んでくるなんて日常茶飯事。というか途中からこれさえ慣れてしまってね、ハイハイ、灰皿ね、お客さん、モノは投げないでもらえますかってな具合になった。というか、いくら司会に慣れたとはいえ下手クソなのは下手クソなんだから、そりゃあ灰皿のひとつも投げたくなるでしょうよ、と。
こんなことを書くと「やっぱり大阪はガラが悪いんだな」と思われるかもしれませんが、これは地域柄というより時代がそうだったってことの方が大きい。
具体的にいつまでってのは難しいんだけど、少なくとも20世紀までは今よりずっと気の荒い人が多かったんですよ。
それは大阪だろうが東京だろうが一緒で、それこそ歌舞伎町とか六本木とかも今とは比べものにならないレベルで怖かったから。

だから灰皿くらいなら避けりゃいいだけだし、と甘く見ていたんだけど、一度パイプ椅子が飛んてきた時は死を覚悟した。
パイプ椅子ったって、あの折りたたみのじゃないですよ。リゾートにあるような折りたためない、格子状に布地が貼ってあるアレです。
あんなもんがまともに、頭にでも当たったら、死ぬ。いや死にはしないか。それでも大怪我は必至です。

もう今はビアガーデンってモノ自体があまりないのでわかりづらいですが、ビアガーデンの営業は基本的に夏だけです。
具体的には6月くらいから9月いっぱいくらいまででシーズンを終えて営業を終了する。
アタシは何とかかんとかワンシーズンをつとめ上げたけど、さすがに懲りた。いくらなんでもパイプ椅子が飛んでくるような場所では働けん。
翌年になりました。5月のことです。おっちゃんから電話が来た。

「6月からな、またやるから。頼むわ」

いや、あの、その話なんですけど・・・

「自分もだいぶ慣れたみたいやから、今年から他のビアガーデンでも頼むことになるで。忙しなるから覚悟しときや」

・・・まァええわ。こんな人やし。


◆ それにしても

ま、こういうふうに書いていくと「ものすごい押しの強い大阪のおっちゃん」と捉えられそうなのですが、強引ともまたちょっと違うのですよ。

何というか、さっきも書いたように断るタイミングを作ってくれないというか、人の話を聞いてそうで聞いてない。んで、自分の意見を<ゴリ押し>するのではなく「何となくそういう流れに持っていく」のが非常に上手いのです。
この頃はそこまで考えてなかったけど、大学生の時点でこのテクニックはすごい。これは「個人請けで仕事をする」必勝テクニックと言えるレベルですよ。
ここまで書いてなかったけど、ビアガーデンってのはわりと特殊な仕事っていうか、アタシもいろんな店に出入りしたけど、どこの店舗の店長も海千山千なのはもちろん、見た目もいかついのです。マジでパンチパーマ率90%だったから。
そんな場所でも臆することなく自分のペースで会話を進められる、となるとそりゃあ、これなら大学生であろうがなんだろうが、仕事をとってこられるわな。

アタシ?だから言ってるでしょ。アタシはどうしようもないダメ男ですからね。齢50を過ぎてもいまだにおっちゃんのようなビジネス会話テクニックはないわ。
そんな感じで後編に続く。後編はちょっと艶っぽい話になります。

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