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薮中塾1月勉強会報告

こんにちは!1月勉強会担当です。

今回の記事は、1月16日に行われた勉強会の実施報告です。

※本勉強会では台湾を実質的な国家として扱います。しかし、中台関係/両岸関係に関するいかなる政治的主張にも基づかず、台湾島地域および金馬地区などを実効支配する政体としての中華民国政府を指し、台湾と呼称します。

0.テーマの概要と選択の背景

1月勉強会のテーマは日韓関係・日台関係です

慰安婦や徴用工などで歴史認識問題に関して軋轢が生じ、依然反日感情の強い韓国
親日感情が非常に強く、日本に対する好感度は非常に高い*台湾。(*公益財団法人 日本台湾交流協会 2018年度版対日世論調査)

対照的な対日感情を持つ両国と日本は、政治や経済、文化等様々な側面で非常に密接なつながりを持っています。
そして周知の通り、両国に共通するのは日本の植民地統治を経験した過去です。

しかし、戦後75年が経過し、昨年7月に逝去された李登輝前台湾総統をはじめとして戦争時代を知る世代の人々が亡くなっています。
つまり、私たちはいかにして両国の過去と向き合うのか、そして日韓・日台関係はどうあるべきか、再考すべき時期が来ているのです。

上記を背景とし、
「かつて日本であった」という特別な歴史を持つ両国の政治や経済、社会等に関する現状を正確に把握したうえでこれからの日韓関係・日台関係を、当事者の1人として議論し、自らの意見を構築する機会を設けたいと考えるに至りました。

今回の勉強会で設定した目標は以下の通りです。

韓国・台湾に対する日本の植民地統治とその影響を理解した上で、以下の2点に関して塾生それぞれが自分自身の意見を持ち、発信すること。

i) 韓国・台湾とどのような関係を構築するべきか。
ii) 望ましい日韓・日台関係の構築のために自分自身が持つべき意識やすべき行動は何か。 

上記目標に即して、次の要素を勉強会を通して習得することを目指す。
i) 植民地統治を含む日韓関係・日台関係の歴史の理解
ii) 韓国・台湾という相手国目線での両国の現状の理解
iii) 正確な両国との歴史認識と相手国目線での現状認識に基づいた自分自身の意見の構築

上記の目標達成のためには、「現在」「過去」「未来」の3つの時間軸、また日本側のみならず相手国目線での議論が必要であると考えた私たちは、次のような勉強会を構成しました。
詳しくは、次章以降で解説していきます。

第1部 レクチャー(13:00-13:25)
第2部-A <現在>ディベート(台湾)(13:30-14:20)
第2部-B <現在>模擬交渉(韓国)(14:30-15:20)
第3部 <過去>ディスカッション(15:40-16:30)
第4部 <未来>全体討論(16:40-17:45)

1.【第1部 レクチャー】

第1部では、勉強会の問題意識の共有と、勉強会全体における基礎的事項のインプットを目的としました。

主に日本の韓国・台湾統治という歴史を経て、現在への日韓・日台関係への影響について扱い、特に統治が終わってから日韓関係、日台関係がどのように変化したかに重点を置いてレクチャーを行いました。

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塾生には、事前課題で日本統治時代の韓国と台湾について調べてもらっていたため、全員が関心を持って真剣に聞いてくれていたのが印象的でした。レクチャー中も、一部の塾生がチャットでそのレクチャー内容に関連する歴史的事柄などについて書き込んでいたのも印象的でした。

2.【第2部前半 ディベート(台湾)】

第2部では、2章立てで台湾・韓国の「現在」に焦点を当てました。

第2部-Aでは、「台湾は環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)に参加申請するべきである。是か非か。」という論題に対するディベートを行いました。
目的は台湾目線で台湾の現状を認識する能力の習得です。

台湾にとって、中国との経済関係の強化は政治的自立を失うリスクを意味します。現在の民進党蔡英文政権は、脱中国依存を目的にアジア太平洋地域の諸国との関係強化を目指す「新南向政策」を推進してきました。
中国との向き合い方は台湾にとって避けることのできない問題で、台中関係だけではなく、台湾国内の状況や米中関係の展望なども含めた総合的な検討が必要になります。
本ディベートでは、12月に台湾外交部から表明されたCPTPP参加申請の意向を受けて、その是非について台湾政府の立場から台湾の政治・経済の状況を踏まえて議論を行いました。

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事前課題で提出されたグループの立論(一部)。今回はまず個人で立論を考えたのち、各グループに分かれて当日のディベートに向けて立論を練り直してもらいました。


当日は、現在の台湾の対外関係国内産業の状況台湾世論の状況など様々な観点から多角的な議論が展開されました。
また、各チームでディベート中に参照する文献やデータ等をまとめた資料を事前に作成していたため、正確な事実認識のもとで論題の是非を議論することができました。
勉強会後の調査では、80%の塾生が脱中国経済依存のためのCPTPP参加申請を支持する一方で、20%の塾生は中国との関係悪化リスクを考慮して支持しないという結果となりました。

<第2部-A担当者の感想>
訪台日本人観光客が増加し、文化・社会面での交流が進む一方で、私たち日本人が台湾の国際関係に関する現状や台湾国内の課題について知る機会はあまり多く無いと感じています。本ディベートを通じて、普段、目を向けることの少ない台湾の政治・経済について、塾生が認識する機会になったと思います。台湾の置かれている困難な状況を理解し、台湾と日本の今後の関係性を考える一助になったのであれば幸いです。

3. 【第2部後半 模擬交渉(韓国)】

第2部-Bでは、日韓問題の中心をなす徴用工、慰安婦の問題を扱う模擬交渉を行いました。
両国間の最重要課題に位置づけられるこれらの問題の解消・改善に向け私たちには何ができるのか。両国の主張を把握し、交渉を通しともに解決の模索を試みました。

徴用工問題慰安婦問題の2チームに分かれ、さらにその双方で「日本政府」「韓国政府」の立場を割り振り、模擬交渉を実施。
これまでディスカッションやディベートで培ってきた論理的にSpeak outする力を生かしつつも、互いの主張をぶつけ合うのではなく、両国の国益を調整しながら、いかにして折り合いをつけるかという形での建て付けを重視しました。

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両問題の議論において浮かび上がってきたのは、日韓両国の基本的なスタンスの違いです。
日本は国際法日韓請求権協定といった原則的な主張が中心を占める一方、韓国は独裁政権下での取り決めであった同協定や国内世論との相違が顕著であった2015年の慰安婦合意に関して、道徳的な見地からの主張が中心。
日韓が徴用工や慰安婦といった問題を解消もしくは改善するためには、お互いの主張を受け入れはせずとも理解しようとする姿勢や対話が重要なのではないかという指摘がなされました。

<第2部-B担当者の感想>
私自身幼少期から韓国のポップカルチャーに親しみ、韓国でのホームステイを経験したことがあり、日韓関係については身近に感じてきました。国民同士の距離がこんなに近く、重要な隣国でありながら、なぜ国家間の関係は冷え込むばかりなのか。塾生とともに考え、未来を見据えた議論ができ、非常に有意義な時間でした。

4.【第3部 ディスカッション】

第3部は、過去に視座を置き、日本と韓国・台湾両国の歴史的関係性についての総合的な認識とそれに対する意見の構築・発信を行いました。

事前準備では、韓国/台湾における植民地統治の歴史的事実を、便宜的に4つの分野(統治機構・法整備/皇民化政策/社会整備事業/産業・文化)に分けて総合的にリサーチし、両国間の比較を行いました。

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(「統治機構・法整備」グループの資料の一部)

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(「皇民化政策」グループの資料の一部)

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(「社会整備・社会改善事業」グループの資料の一部)

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(「産業・文化」グループの資料の一部)


勉強会当日は数人ごとに分かれて、各リサーチ分野について議論したのち、その後総論『韓国/台湾における植民地統治を総合的に見た時、この歴史的事実を日本の未来の担い手としてどう受け止めるか』について議論しました。

この議題設定の背景には「塾生がテーマと自分自身を自然な形で重ね合わせて『自分ごと』としてspeak outする場を作りたい」という思いがありました。

これまでは勉強会そのものの構成や議題設定の都合上、参加者がテーマを自分自身のに落とし込んだうえで意見を発信する機会がさほど用意できませんでした。
そうであるならば、勉強会テーマに「あなた自身はどう思うのか?」という問いを重ね合わせて投げかけることで「塾生自身の背景や思いが色濃く反映されたより熱量のあるディスカッションが展開できるのではないか?」と考え、このような問いを設定するに至ったのです。

実際に、勉強会当日は、勉強会担当が期待していたように「自分個人はどう感じ考えるか」「自分の背景に落とし込んだとき、歴史と自分はどのような関係があるのか」等について塾生から様々な意見が聞かれました。

「歴史を知らないほうが現在の国と国との関係はうまくいくのではないか/現在の関係は過去を乗り越えてこそ成り立つもの」
「負の記憶に対し、謝り続ける状態を作りつづけることは未来の世代の負担/どれだけ時間が経っても謝罪は必要」

など相反する意見も多く出てきて、双方が主張をしっかりと聞きながら、自分がなぜそう考えるかを伝える姿がありました。通説や合理的な根拠を伴わない「感情」も、議論をする中で重要な要素であることが実感できた時間となりました。

5.【第4部】全体討論

第4部では、「未来」に視座を置き、日台関係・日韓関係について全体討論を行いました。
目的は「両国に関する現状・歴史認識に基づいたこれからの両国との関係についての意見の構築・発信」です。
議題は以下の通りです。

日台関係:
「あなたは今後の日台関係において、日本は何をするべきだと考えていますか?(国家間《政治、経済など》、民間同士、市民間)」
日韓関係:
「第2部の議論を経て、慰安婦問題・徴用工についてあなた個人はどのような意見を持っていますか?また、今後日本人・日本政府としてどのようにこういった問題と向き合うべきでしょうか?」

物怖じぜず、積極的に議論に参加している塾生の姿が印象的でした。4月勉強会「憲法9条改正」では緊張もありお互い探り探りだった塾生の姿は全くもって見受けられず、10回もの勉強会を経た一人ひとりの顔つきは立派に「薮中塾生」のものにすっかり変わっていました。

討論では千差万別な意見が交わされました。台湾の議題では「日台関係では日本が台湾をパートナーとしてもっと重視すべき、台湾が親日国であることに対しておごり高ぶり続けているのではないか?」といった辛辣かつ的確な意見が出る幕も。

韓国の慰安婦問題、徴用工問題の議論では、口頭はもちろん、時間制限があったということもあり、チャットの方でも同時進行で議論が行われており、塾生全員がこれらの問題に対して、高い関心を抱いてるのが見受けられました。

6.勉強会の感想

参加した塾生・勉強会担当の1月勉強会の感想を一部ご紹介します。

<参加した塾生>

わかりやすいレクチャーや資料と、段階的理解の補助となる事前課題によって、様々な観点から日台韓の関係について考える事ができました。 最後の勉強会を飾るにふさわしい充実した内容で、当日とっても楽しかったです!
事前課題多すぎやろ!って思いましたが、おかげさまでいつも以上に勉強会で学びを得ることができました。特に「あなた自身の意見」といった主観を大切にされていた印象があります。これまでデータや周りの意見に流されることも多かったのですが、私自身はどうしたいのかを改めて考える機会になりました。
今まで「日本が植民地支配をしていた」という強い認識が自分にはなかったため、今回の勉強会は自分の考えを大きく変えるものとなりました。事前課題も楽ではありませんでしたが、歴史を見つめ直すいい機会になったと思います。ちなみに勉強会後、今回の内容に興味が湧いたので、太平洋戦争に関する集中講義を取ってみました。

<勉強会担当>

これから韓国・台湾という両国の人と一個人として関わる機会も様々に発生すると考えられるため、その際に両国との関係性や現在の両国の状況について認識し、これからの関係性を議論する勉強会の意義は大きくあったと思う。また、塾生1人1人が忙しい時期にも関わらず十分な準備をしてくれたことで、良い議論ができたことにとても感謝したい。
ニュースなどで頻繁に耳にする日韓関係・日台関係ですが、日本統治時代を通してこの2国との関係を同時に考えることはなかなかなかったことなので、それを勉強会担当として行えたことは個人的に意義のあることでした。また、日本統治時代の歴史というあまり腹を割って話す機会も少ないことを、腹を割って話すことができる関係となった塾生と真剣に議論することはとても実りあるものでした。

台湾・韓国との関係を「現在」「過去」「未来」の3軸から深く学んでもらいたいという思いから、事前課題はこれまでの6期の勉強会でも最も重くなってしまいました。加えて、公開イベントリハーサルが次の日に控えていたことから、勉強会準備と公開イベント、両方の準備に追われながら慌ただしく過ごしていた塾生が殆どだったのではないかと思います。

そんな多忙な中でも、一人ひとりが事前課題を真剣にこなし、白熱した議論を繰り広げていた様子に、塾生が勉強会、そして薮中塾にかける思いを垣間見た気がしました。

そして何より、「6期最後にふさわしい勉強会だった」「今までで最も充実した勉強会だった」という声を複数聞かれたのは、勉強会担当として最も誇らしいことです。

7.おわりに

今回は、日韓関係・日台関係をテーマとした勉強会を行いました。

現状に向き合いながら、負の記憶をいかに受け止め、未来に向けて関係を構築するか。

異なる立場・考えをもつ者が関係を築くという作業は、どれだけ身近な人同士でも困難が伴います。ましてや国同士となれば、大きな利害関係も関わり、課題は多層的になります。

そんな複雑な問題に、「今、ここ」に生きる一人の人間としてどう向き合うのか。どんな場所にいても、どんな道を選んでも、問われ続けていきます。
今回の勉強会が、多くの塾生にとってこれらを「自分ごと」として考える機会に繋がっていれば、勉強会担当としてこれほど嬉しいことはありません。

以上、1月勉強会報告でした。ここまでお読みくださり、ありがとうございました。

1月勉強会担当:小野・大木・小原・柴田・永井・右谷
1月勉強会報告 文責:小原

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【公開イベント概要】

薮中塾グローバル寺子屋6期公開イベント『米中関係の行方と日本の外交政策』

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●日にち:2021年2月28日(日)
●主催:薮中塾グローバル寺子屋
●時間:13:00開演 18:00終演 
●対象:どなたでもご参加いただけます。(一般、大学生、大学院生、高校生、中学生)
●参加費:無料
●場所:オンライン(Zoom)
参加登録をしていただいた皆様には、イベント前日までにZoom参加用URLをメールにてお知らせいたします。
●お申込み:参加フォームより事前登録をお願いしております。

詳細についてはこちら:

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