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北海道の気象レーダー(9)、乙部岳

(8)函岳から1年ぶりに、道南の乙部岳レーダまで行ってきました。

アクセス

乙部岳(おとべだけ)の頂上付近にある北海道開発局の乙部岳レーダに行くには、おそらく片道2時間以上の登山が避けられないでしょう。往復で5時間かぁ…という体力の不安と ヒグマ遭遇の心配が重なって、これまで行きあぐねていました。

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▲ 乙部町と乙部岳の位置(OpenStreetMapに加筆)

標高1017メートルの乙部岳は、乙部町と厚沢部(あっさぶ)町の境にそびえています。乙部岳レーダは尾根の西、乙部町側にあります。ここに少しでも楽に接近できる方法はないものかと、道の下見に向かいました。

日本海沿岸を走る国道から道道4061号旭岱鳥山線に入り、山に向かって東へ針路を取ります。

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▲ 最初のゲート

規制はなさそうなので先へと進みます。すぐ砂利道になりましたが、しばらくは走りやすい道道です。

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▲ 道道4061号の終点(振り返って撮影)

道道4061号から続く町道乙部岳峰越線に入り、少し進むと乙部岳の尾根コース登山口の広場に出ました。

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▲ 登山口(尾根コース)

ここから1.5km先の山中に義経が開いたとされる九郎嶽社があるそうで、鳥居が立っていました。脇に立つ登山道マップによると、乙部岳への尾根コース4.3kmは 所要3時間が目安とのこと。私にはちょいと辛い道のりです。

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▲ 乙部岳へのアクセス(地理院地図に加筆)

きょうは下見なので、姫川に沿った町道を進みます。奥姫川橋を過ぎると道は九十九折りで標高を上げ、砂利道から砕石と岩の多い路面に変わりました。タイヤのサイドウォールを傷つけないよう慎重なコース取りで、橋から姫待峠までの約5kmに25分も費やしました。

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▲ 姫待峠の分岐

麓では日が差す天気でしたが、峠に近づくにつれ雨が落ち始めました。国土地理院の地図には直進して八雲町に抜ける道が描かれていますが、今ではすっかり廃道と化していました。オフロードバイクでも通行は難しいでしょう。

右折してレーダに向かう道は、まだ相当な距離がありますが狭いながらもここから舗装されています。ゲートも看板も見当たらないので(生い茂った草木や濃霧、ワイパーの拭き残しなどで見落としたか)、車を先へ進めました。

路面からの激しい振動は無くなったものの、両側から伸びた雑草が針路を隠しているので慎重な運転に変わりはありません。姫待峠から6km/15分ほど先の、視界のきかない左急カーブを曲がったとき、真っ白い世界に突然、レーダが現れました。

乙部岳レーダに到着!

道南レーダ」ともいわれる「乙部岳レーダ雨雪量観測所」。航空局では「レーダー」と書きますが、同じ国土交通省でも北海道開発局は「レーダ」と長音を付けないようです。

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▲ レーダ局舎入口の表示板

レーダサイトに到着したときは本格的な雨と濃霧で視界がきかず、残念ながら数枚のぼやけた写真しか撮れませんでした。

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▲ 乙部岳レーダ雨雪量観測所

国土交通省のwebサイトによれば、乙部岳レーダ雨雪量計の位置は北緯42度02分23秒/東経140度16分27秒、地上高16.8メートル、アンテナの海抜高は1028.8メートルとなっています。乙部岳の標高が1016.9メートルですから、地形に遮られることなく360°観測できる位置取りです。

乙部岳レーダ局舎は、大小の円筒を重ねた不思議な形をしています。上にある大きな円筒の周りにはツノが何本も出ていて、ワイヤーが張られています。いったいこれは何だろう?

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後日、webサイトから北海道開発局に質問してみました。その答えは…、積雪や着雪の軽減を目的として試行的に円筒形にしたそうです。ワイヤーは防雷装置で、乙部岳は他のレーダサイトより落雷被害が多いため試行的に設置しているそうです。日本海側の山頂では、上からだけでなく四方八方から、さらには下からも被雷するといいますから、こんな雷対策になったんですね。個人の質問に対して24時間以内に素早くご回答いただきました。ありがとうございます。

CバンドMPレーダ

乙部岳レーダは、Cバンドと言われる周波数 5GHz(ギガヘルツ)帯の気象レーダーです。2017年8月の国交省プレスリリースによれば、乙部岳レーダが CバンドMPレーダに高性能化されました。「MP」というのはマルチパラメータ(Multi Parameter)のことで、水平/垂直の二重偏波の電波で雨粒の形を高精度に観測できる気象レーダーです。

北海道では石狩と北広島にXバンド(9GHz帯)MPレーダがあり、それらと乙部岳CバンドMPレーダを組み合わせることにより、高精度・高分解能のリアルタイム雨量情報「XRAIN」(エックスレイン)の配信エリアが拡大されることになりました。

XRAIN : eXtended RAdar Information Network、高性能レーダ雨量計ネットワーク

北海道開発局のCバンドレーダは、乙部岳(道南)の他に 函岳(道北)、ピンネシリ(道央)、霧裏山(道東)がありますが、機器の更新タイミングに合わせて順次MP化されるようです。2020年には「霧裏山レーダ雨雪量計設備製造一式」を日本無線(株)が落札しました。納期の2021年3月までに CバンドMPレーダ機器類やアンテナなどが製造され、次の年度で道東の霧裏山(むりやま)で更新工事が行われるものと思います。

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▲ 乙部岳レーダサイト(Googleマップ)

Googleマップの写真では、レーダ隣りの鉄塔にマイクロ波中継アンテナやヘリコプタ画像受信アンテナなどが見えます。マイクロ波で結ぶ多重無線回線は、北の八雲局と南の江差町伏木戸局を中継する道南線を構成しており、他に奥尻島と結ぶ回線もあるようです。(参考:北海道開発局の電気通信、平成27年3月)

雨が降っていなければ、これらのアンテナもじっくり観察できたのに…残念。でも、車でここまで来られただけでも十分ラッキーです。入口ゲートから砂利道区間12kmと姫待峠からの尾根すじ6km(専用道路)を合わせ、およそ18kmの道のりでした。道北の函岳レーダへのアクセスに比べれば短い距離ですが、私の軽にとっては決して容易ならぬ路面でした。

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アクセス路の下見だけのつもりだったのに乙部岳レーダサイトまで到達できて嬉しかったのですが、この雨では歩き回ることもできず視界もきかないので、しぶしぶ下山することにします。

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▲ 開閉器、専用道路わき

レーダや通信機器などに必要な電力は開発局独自の配電線路を敷設して確保しており、非常用発電機も設置されているそうです。雪による障害を低減するため、尾根を走る専用道路の沿線は電力ケーブルを地中に埋設しているそうですが、ところどころに写真のような区分開閉器が立っていました。

義経伝説

源義経に関する伝説は、北海道でも各地に残されています。乙部町の「姫川」や「姫待峠」の名もその一つと言えるでしょう。乙部町のwebサイトには、こんな言い伝えが掲載されています。

…乙部岳は義経の別名九郎半官から九郎岳、静御前を思いつつも越えなければならなかった峠は姫待峠と呼ばれています。また義経を追って乙部にたどり着いた静御前ですが、義経はすでに乙部岳を越え、2人は会うことが出来ませんでした。…<乙部町>

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▲ 峠に倒れたままの標識「姫待峠」

また、乙部町内を流れる姫川の傍に立つ看板には、こんな説明が記されています。

…乙部に逃れていた九郎判官義経を追ってきた静御前は、ついに義経に会えず川に身を投じた、いつしかその川を姫川と呼ぶようになった。<北海道>

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この日の姫待峠は、静御前の涙雨に煙っていました。

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これで、道内にある気象レーダー10か所(気象庁と北海道開発局)のうち、8か所を訪れたことになります。残すは ピンネシリ(道央)と 霧裏山(道東)の2か所です。体力やクマとの相談で、いつになることやら分かりませんが、出向く機会をうかがっておきます。

※ 特記のない写真は、2020年9月、やぶ悟空撮影

北海道の気象レーダー(1)
北海道の気象レーダー(2)、毛無山
北海道の気象レーダー(3)、昆布森
北海道の気象レーダー(4)、横津岳
北海道の気象レーダー(5)、新千歳
北海道の気象レーダー(6)、北広島
北海道の気象レーダー(7)、石狩
北海道の気象レーダー(8)、函岳


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