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キャリア開発のバウムクーヘン理論

前回の記事で、私の 1on1 は、部下のための時間であることを大原則とし、主にキャリア開発に関するコーチングの場としている旨記載しました。そこで、今回の記事では、具体的にどのようなキャリア開発に関するコーチングを実施しているのかについて述べていきたいと思います。

強いところを伸ばすのか、弱いところを捕捉するのか?

キャリア開発の議論を 1on1 で行うと、部下から上がってくる話はどちらかというと「いかにして、自分の欠点・弱いところを補っていけばよいか」という論点が多いです。組織やチームで仕事をしている以上、どうしても周りの他の人と自分を見比べて自分の欠点ばかりに目が行きがちです。また、本来自分の担当している役職としてのあるべき姿の (外資系でいうところの  Job Description に定義されている) 理想像や将来なりたい人物像を追いかけ過ぎて、そのギャップを急いで埋めようと焦ってしまう人も多いです。
別の記事で、強い組織の作り方として、組織の全員が参照すべきゆるぎがない North Star である目印=目標を定義して、一丸となってそれに向かっていく組織を作る North Star マネジメントが重要であることを述べましたが、一方で一人ひとりのキャリア開発では、自分の役割としての理想像 (North Star) を掲げてそこを目指すという手法は逆効果につながる危険性があると思っています。
理想像といまの自分の姿を見比べてギャップをアセスメントすることは大事なアプローチであることは間違いないのですが、ここでのポイントはその理想像とのギャップを補う期間をどのように設定するかという点にあると思っています。通常 1on1 は、当該年度でのキャリア開発目標を議論するので、そのギャップをすべて 1 年以内に埋めることを目指そうとすることが多いですが、これが危険だと考えております。つまり、マネージャーは部下とともにそのギャップのアセスメントを行ない、そのアセスメント結果に応じて 2, 3年スパンでの中期的な視点でキャリア開発目標を描いてあげるお手伝いをしてあげなければなりません。が、現実的には、同じマネージャーがその部下のキャリア開発を長い期間かけて付き合うことはとても難しいし、綺麗事として次のマネージャーにちゃんとそのキャリア開発目標を引き継ぎをするべきであるとかの理想論を述べるつもりはございません。

バウムクーヘン理論によるキャリア開発

ここで必要となる実践的なキャリア開発の方法として私が常に意識しているのは、キャリア開発はバウムクーヘン理論でコーチングをするということです。理想像から逆算してキャリア開発を考えるのではなく、その人個々人が本来有している強みの部分をコア・コンピタンスとして明確に定義し、その周りに一枚・一枚さらなる強みを上積みしていくようなキャリア開発の考え方です。年輪によって木が大きくなっていく姿を想像するのが良いのですが、その成長過程を普段我々が目にすることは出来ないので想像が難しいので、私はドイツ語で年輪の意味を持つバウムクーヘンでこの成長過程を例えてバウムクーヘン理論と呼んでいます。バウムクーヘンの製造過程については、多くの人がテレビなどで目にしたことが有ると思っており、誰もが想像しやすいかと思い例えに使っています。勿論私が無類のバウムクーヘン好きという背景もありますが。

コーチングの内容としては、「まずは自分の強みをしっかりと定義しよう。自分の強み=コア・コンピタンスは何ですか?」から入り、「次に、そのコアをバウムクーヘンの芯だとすると、次に上塗りする層としての知識や経験をどのように定義しましょうか?」という流れの質問を行っていきます。
その後マネージャーは、部下とのキャリア開発コーチングの中でで定義された上塗り層 (= 短期のキャリア開発のアクション アイテム) を実現できるように、適切な仕事のアサインメントを行って OJT での成長を促したり、トレーニングの機会を与えたりすることを行います。そして定期的な 1on1 でその進捗を管理していきます。このような手法を講じることにより、(そのマネージャーが確実に部下と付き合える) 1 年という短いスパン内でも確実に成長を促すことができるのです。

私自身の経験から、このバウムクーヘン理論は生まれた

このバウムクーヘン理論は、私の 2 つの経験に基づいています。
1.  外国人の上司からの 1on1 でのアドバイス
私は現在でこそビジネス・マネジメント領域を専門としておりますが、元々はサポート・エンジニアという役職で技術領域を専門にしておりました。社内異動の機会を得て、マーケティング部門に異動したのですが、言ってしまえば 180 度のキャリア・パスの変更でした、周り先輩やマーケティング職の本来のあるべき姿とのギャップに苦しみ、なかなか成長できず結果を出せずにいました。そんな時に当時の上司 (米国マイクロソフト本社からの出向で来ていた外国人) から、「お前の強みは技術力で、製品の内部にも詳しいのだから、その強みを思っきり伸ばせ。人は弱みを補うよりも、強みを伸ばすことのほうがその成長ゲイン (伸びしろ) が大きいのだから。」というお言葉をいただきました。この瞬間私の視界は急に開け、モヤモヤが晴れた気分でした。この時自分自身の脳内にイメージされた映像がまさにバウムクーヘンの製造過程でした。
そこから、私は一つ一つのマーケティング手法を、自分のコアの上に上塗りしていくことで、経験と知識を蓄えマーケティングチームのリードをできるまで成長することが出来たのです。

2. 本来の役職の型をはめようとすることによる弊害
1 つ目とは全く逆のエピーソードもあります。これは私自身ではなく私の同僚がうけた日本人のマネージャーからの 1on1 での出来事に基づく経験です。
外資系企業ではジョブ型採用に基づき、各役割には Job Description という役割定義が明確になっています。多くのマネージャーは、部下一人ひとりの強みを把握することなく、この役割定義に基づき、部下の現状とのギャップ (弱み) をいかに埋めるかという話をキャリア開発議論として行ってしまっています。
私の同僚は、製品技術に関する経験も知識もピカイチでしたが、売上数字の管理といったビジネス・マネジメントに関してはどちらかというと苦手でした。マネージャーは、その同僚に対して強みに関する評価や、それを中心にしたキャリア開発の方向性の議論をすることなく、ギャップを指摘して当該年度中にどのように解決するのかの議論を行ってしまったのです。それにより、その同僚のモチベーションはダウンし、結果として会社を去ることになりました。

これらの 2 つの 1on1 は、紛れもなく同じ会社で起こった事実です。マネージャーの 1on1 でのキャリア開発の議論の方向性が違うことにより、部下の成長にもこれだけの違いが発生することがあるのです。それが故に、私の 1on1 では、バウムクーヘン理論に基づくキャリア開発を行えるように強く意識しているのです。

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