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山羊のいるクリスマス

音声データ

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詩編・聖書日課・特祷

2023年12月24日(日)の詩編・聖書日課
 旧 約 サムエル記下7章4、8〜16節
 詩 編 132編8〜14節
 使徒書 ローマの信徒への手紙16章25〜27節
 福音書 ルカによる福音書1章26〜38節
特祷(降臨節第4主日)
全能の神よ、み子の訪れによってわたしたちを清め、心の闇を照らしてください。主が来られるとき、主にふさわしいみ住まいを、常にわたしたちのうちに備えることができますように、父と聖霊とともに一体であって世々に生き支配しておられる主イエス・キリストによってお願いいたします。アーメン

下記のpdfファイルをダウンロードしていただくと、詩編・特祷・聖書日課の全文をお読みいただけます。なお、このファイルは「日本聖公会京都教区 ほっこり宣教プロジェクト資料編」さんが提供しているものをモデルに自作しています。

はじめに

 どうも皆さん、「いつくしみ!」
 さて、今日は12月24日。クリスマス前日ですね。今回は、皆さんにぜひとも“クリスマス”らしさを感じていただきたいと思いまして、特別に、クリスマスソングをご用意してまいりました。これから再生していただきますけれども、クリスマスの定番曲、「Silent Night(きよしこの夜)」です。この曲を聴きながら、ご一緒に“クリスマスの訪れ”を味わいたいと思います。
 ……あぁ、ただですね、この「きよしこの夜」、ちょっと変わっているところがありまして。実は、この曲、「山羊」が歌っているんですよ。

クリスマスの動物といえば……?

 いかがでしたでしょうか。素晴らしい歌声でしたね。山羊の生々しい歌声とクリスマスソングという“異色のコラボ”でございましたけれども、これでもう皆さんの頭の中は、完全に、「クリスマス=山羊」というイメージ一色になってしまったことだと思います。
 では皆さん、クリスマスの動物といえば、どんな動物を思い浮かべるでしょうか?(「トナカイ」とか? あるいは「ひつじ」とか?) ためしに、インターネットで調べてみましたところ、とある外国のウェブサイトに、クリスマスを象徴する動物たちが“12種類”リストアップされていました。それがこちらです。

#1「イヌ」#2「カンガルー」#3「ロバ」#4「トナカイ」
#5「ひつじ」#6「キジバト」#7「ヤマウズラ」#8「ホッキョクグマ」
#9「七面鳥」#10「らくだ」#11「コマドリ」#12「ペンギン」

 ……あら、「山羊」が入ってないですねぇ。これはどういうことなんでしょうか。
 「#4 トナカイ」は、説明するまでもないと思います。サンタクロースの相棒ですね。「#9 七面鳥」は、アメリカ発祥の定番料理、ローストターキーですね。「#11 コマドリ」とか「#7 ヤマウズラ」「#6 キジバト」という鳥たちも(日本ではあんまり馴染みが無いですが)アメリカやヨーロッパでは、クリスマスのシンボルとして扱われているそうです。
 「#1 イヌ」に関しては、まぁ、クリスマスのシンボルというか、家族を象徴する動物ですよね。クリスマスをお祝いする家族の輪のなかにいる動物といえば、ダントツでワンちゃんだと思います。アメリカの映画を観ておりますと、結構、クリスマスプレゼントとして“子犬”をプレゼントするというシーンがありますよね。そういうところからも、クリスマスの動物としてワンちゃんを連想する人は多いようです。
 この中で、一番「クリスマス」っぽくない動物といえば、「#2 カンガルー」ではないでしょうか。どうして「カンガルー」が挙げられているか、皆さん分かりますか?(カンガルーが入っている理由を“カンガエルー”……)
 カンガルーがクリスマスのシンボルとされているのは、南半球にあるオーストラリアですね。この時期、オーストラリアでは、冬ではなく真夏を迎えています。なので、サンタさんの相棒は、暑さに弱いトナカイではなく、カンガルーが代わりに引き受けているということなんですね。
 オーストラリアのクリスマス関連の画像を探してみますと、確かに、カンガルーがサンタさんと一緒にサーフィンしたり、サンタさんがカンガルーに乗ってプレゼントを配っていたりするイラストがたくさん出てきます。なんか良いですよねぇ。“真夏のクリスマス”っていうのも、一度体験してみたいものだなぁと思います。

クリスマスと山羊とキリスト教

 「#3 ロバ」「#10 らくだ」「#5 ひつじ」は、教会のクリスマスではおなじみの動物たちです。

 こちらは、僕の家に置いてある“クリスマスのお人形さんセット”の写真なんですけれども、このセットには、マリア・ヨセフ・赤ちゃんイエスの聖家族のほかに、三人の東方の博士たち、羊飼い、天使ガブリエル、そして、「ロバ」「らくだ」「ひつじ」が付いていました。「ロバ」は、妊娠しているマリアが乗ってきた動物として……、また「らくだ」は、三人の博士たちが東の国からはるばるやってきたことを表す動物として……、そして「ひつじ」は、「羊飼い」が連れてきた動物として、この中に登場しています。そして、人間たちと一緒に、これらの動物たちもまた“赤ちゃんイエス”のことを囲んでいたのだと、そのように昔のクリスチャンたちは想像を膨らませていたわけなんですね。
 とまぁ、このように、「クリスマス」という期節には、宗教的なものから非宗教的なものに至るまで、実にいろんな動物たちが“シンボル”として扱われているということがお分かりいただけたかと思うのですが……。「おいおい、ちょっと待ってくれよ。どうして『山羊』がいないんだい?」と、きっと皆さん、そのように思っておられるのではないでしょうか。さっきのクリスマスソングを聴いて、もう皆さんはすっかり、山羊の歌声の虜になっているはずですからね。「クリスマスといえば『山羊』だろ!」という、皆さんの心の声が伝わってきているように感じます。そうですよねぇ。おかしいですよねぇ。クリスマスの代表的な動物といえば、問答無用で「山羊」一択ですよねぇ。
 どうして、「山羊」は他の動物たちと比べて、この季節を代表する動物として選ばれにくいのか。原因はいろいろと考えられるわけですけれども、一つには、キリスト教の歴史において、「山羊」という動物が「悪」を象徴する存在(悪いもののシンボル)として理解されてきたというのが、主な理由として挙げられるかと思います。

 新約聖書の中には、終末(世の終わり)において、王であるキリストが、良い人間と悪い人間を分けるという話が記されているのですが、その際、キリストは、「羊飼いが羊と山羊を分けるように」(マタイ25:32)して、良い人間を羊のほうに、そして悪い人間を山羊のほうに分けるのだと書かれているんですね。つまり、そのお話の中では、山羊は“悪いほう”として扱われてしまっているわけです。
 このような聖書の描写が、どの程度、人々の考えに影響を及ぼしたのかは定かではありませんけれども、しかし結果的に、その後のキリスト教会では、悪い者、つまり「悪魔(サタン)」と言えば、「山羊」の姿をしている(山羊の頭と、アーチ状の角)――というイメージが定着することになってしまったんですね。

北欧のクリスマスと山羊

 「山羊が悪者扱いされてるなんて……!」今日の我々からすれば、ちょっと聞き捨てならない話ですねぇ。というわけで、山羊の名誉回復のために、クリスマスと山羊の関係性についてきちんと調べてみました。そうしましたところ、何と、北欧(北ヨーロッパ)の、特にスウェーデンにおいて、このクリスマスの時期、「藁で作られた『山羊』の人形」が飾られているということが分かったんですね。

 スウェーデンの言葉で、「ユールボック(Julbock)」と呼ばれているこの山羊の人形。元々は、北欧周辺で信じられていた土着の宗教に由来しているそうです。ユールボックは、麦わらで作られているのですけれども、おそらくは、麦の収穫などの農耕を司る神と、山羊という動物が、その土着の宗教において、何かしらの関係を有していたのだろうと考えられています。それが、キリスト教に吸収される中で、いつしか、このように麦わらで作った「山羊」の人形(ユールボック)を、クリスマスの時期に飾るようになったのだろうと言われているわけなんですね。
 説教の冒頭で、皆さんにお聴きいただきました山羊のクリスマスソング……(まだ耳に残っていると思いますけれども)。実はあれも、スウェーデンで製作されたものなんです。

 『ActionAid』という、貧困問題や人権問題に取り組んでいる国際NGO団体があるのですが、ActionAidは、慈善活動の一環として、アフリカの貧困家庭に「山羊」を提供するということを行なっています。山羊は、家畜として非常に優れているだけでなく、過酷な環境でも生きることができるし、繁殖能力が高いそうです。なので、現代の貧困問題を解決する上で、欠かせない動物だと言われているんですね。凄いですよねぇ。え? 山羊が悪魔? どこが悪魔なの? 悪魔どころか、天使……いや、スーパーヒーローじゃないですか。
 それで、そのActionAidのスウェーデン支部では、そのような「貧困問題を山羊が解決してくれるんですよ」ということをより多くの人々に知ってもらうために、2015年に、“山羊が歌うクリスマスソング”のアルバムを製作するというチャリティー企画を実施したということだったわけなんですね。

見えなくされていた「山羊」の存在

 ここまでの話だけでも充分、山羊の名誉回復は果たせたんじゃないかと思いますけれども、もう少しだけ、山羊の話をさせてください。今日、僕が皆さんに最もお伝えしたいと思っているのは、これからお話することです。
 イエス・キリストがベツレヘムという町で生まれたとき、神の御使いが、その地域で生活している「羊飼い」と呼ばれる人たちのもとを訪れて、「あなたがたのために救い主がお生まれになった」と彼らに告げた――、そのように聖書には書かれています(ルカ2:11)。だから、イエス誕生の場面には、ひつじを連れた「羊飼い」たちが登場しているわけなんですけれども。
 ……今から言うこと、よ〜く聞いといてくださいね。実は、「羊飼い」と呼ばれる人たちは、「ひつじ」だけを飼っているわけではなく、一緒に「山羊」を飼うこともあるそうなんですね!
 先ほど、「キリスト教では、山羊は悪者扱いされがち」という話をさせていただいた時に、「羊飼いが羊と山羊を分けるように」(マタイ25:32)という新約聖書の記述に関してご紹介しましたよね。そのことからも分かるように、少なくとも、イエス・キリストの時代のパレスチナにおいては、“ひつじと山羊が一緒に飼育される環境”が確かに存在していたわけなのです。おそらく、多くの羊飼いたちが、ひつじの群れと共に、山羊の群れも飼っていたのだろうと思われます。
 更に(これはもう決定的な証拠なんですが)、この聖書の箇所(ルカ2:8以下)の原文(ギリシア語のテクスト)を注意深く読んでみますと、実は、「ひつじ」という言葉は一回も使われていないのです。「(家畜の)群れ」(ποίμνη)としか書かれていないんですね。
 ……ということは!もう皆さん、お分かりですよね。天使のお告げを聞いた羊飼いたちが、イエス・キリストの生まれた場所にやってきたとき、彼らは「ひつじたち」だけを連れてきたわけじゃなくて、「山羊たち」も連れてきたはずだ(!)と、そのように言えるわけなのです。

 教会のクリスマスに慣れておられる方々にとっては、イエス誕生の場面に出てくる動物と言えば、第一に、「ひつじ」、そして、「らくだ」と「ロバ」という感じで連想されるのではないかと思います。しかし、そのような伝統的なイメージの裏側には、ずっとキリスト教が悪者扱いしてきた「山羊」の存在が隠されていた――。そして、クリスマスの固定化されたイメージと、「羊飼いはひつじしか飼っていないはずだ」という先入観から解き放たれた今、ようやく我々は、長年、隠蔽され続けてきた「山羊の存在」に目を向けることができるようになったわけです。どうでしょう皆さん、これ、凄くないですか?……もしかして、感動しているの、僕だけですか?笑

おわりに

 「クリスマス」という日は、“見えなくされていた存在に光が当てられた”ことをお祝いする日だと、僕は理解しています。
 夜通し、ひつじや山羊の群れを見張るという、大変な仕事をしているにもかかわらず、社会から正当な評価をされていない「羊飼い」たちに対して、神は、「救い主の誕生」を告げ知らせた――。マリアという、夫の子ではない赤ちゃんをお腹に宿している「名も無き一人の女性」のことを、神は「救い主の母」として選ばれた――。当時、ユダヤ地方を含む地中海世界を広く支配していたローマ帝国とは“対極”にある、「東の国の異教徒たち」のことを、神は「救い主の礼拝者」として導かれた――。そして、その救い主イエス・キリストを通じて、神は、人間社会の中で周縁化されたり、差別されたり、世間の目から隠されたりしている、まさに“見えなくされていた存在”に光を当てられた――。その事実こそ、約2000年前のパレスチナにもたらされた、クリスマスの救いの出来事だったのであり、そして、その“神の光”は、今もなお、この世界の暗闇を照らすため、我々の間に灯り続けているわけです。
 今日、皆さんと分かち合った「山羊の発見の驚きと喜び」(半ば押し付けた?)をきっかけとして、救いをもたらす“神の光”への希望を持ちつつ、ここからまた始まっていく一人ひとりの日々を、ご一緒に歩んでいければと思います。

 皆さん、メリークリスマス……いや、メエェェェェリー・クリスマス!
 それでは、礼拝を続けてまいりましょう。

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