Day1-手術まで

 私は病室で寝ている。大部屋だ。今まで見舞いはあっても入院の経験は無いから、病室にいるというのが不思議である。しかもここは日本ではなくヴェネツィア。
 通訳のAさんはもともと空港までの見送りだったこともあり、この時点でヘルプ終了となった。Aさんが通訳してくれたおかげで、なんとか手術まで漕ぎ着けた。病院に残るのは私達家族である。妹は搭乗する飛行機の離陸時間が過ぎているはず。父と二人で空港へ行き、事情を説明して便を変えてもらうのだそうだ。Aさんは居ないが家族がいる事は大変心強い。
 手術の承諾サインはしたはずだが覚えていない。Aさんがいた時にサインをしたのだろうか。妹が付き添っていると、看護師の中年男性が現れた。車椅子に乗れという。分からぬまま車椅子で連れていかれたのは、小さな個室であった。
 寝台がひとつ。あとは殺風景な部屋。横になれという。看護師は手袋をはめ、おもむろに私のパンツを降ろす。(ああ…ここで何かやられるのか?)言葉が通じないから何の処置をするのかも聞けない。
 看護師はT字剃刀で陰毛を剃り始める。少々焦るが何のことはない。手術で毛が混入しないための処置であった。おじさんに個室へ入れさせられ、無言でパンツを降ろされ毛を剃られる。手術前の儀式が淡々と執り行われた。
 病室へ戻ると、妹が「何処かへ連れていかれたのかと焦ったよ」と安堵する。たしかに無言で連れていかれれば焦る。言葉が通じないから、言っても無駄だと思われたのだろうか。

 私は毛を剃られ、手術の準備が整った。あとは医者に身を委ねるだけだ。

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