Day3,4-入院生活

 入院生活は単調だ。手術直後までは数時間おきに強烈な出来事が発生していたから、鮮明に記憶していた。変化の乏しい3日目からは、20年経った今となっては記憶も曖昧だ。日付が前後するかもしれないが、覚えている事柄を列記していく。

 2日目か3日目の日中、若い女性看護師がきた。ショートカットで小顔の美しい女性。目を見張ったのは容姿である。
 身長は170cmの私よりもありそう。メイクはバッチリで、スカート丈は膝上くらい。ほのかに甘い香りもしたような気がする。看護師は飾り気のないイメージであったけど、彼女はどちらかというと派手目でセクシーだった。彼女は尿瓶を片手に現れ、こう言うのだ。
「ピッピ!」
 なんのことか分からなかったが、尿瓶を持っているところを見ると、オシッコだろう。
「ピッピ? じょーじょー?」
「YES」
 彼女は尿瓶を持ってニヤッと笑う。
(いきなりオシッコ出せと言われても出ないし、この人の目の前のでやらなきゃだめなのかな…)
 結局、小は後で出したと思う。ナースさんって、もうちょっと質素でやんわりしているかと思っていた…… もちろん、他の女性看護師はやんわりしている人も多かったが。彼女はその後何度かお目にかかり、いつもスカート丈は短めであった。身だしなみの規定は緩そうである。

 3日目は紅茶が出た。飲食禁止が続き、いい加減に何か飲食したかったので、紅茶が出たときは心底嬉しかった。ちょっと酸味はあるものの甘ったるい。普段では飲めたもんではないが、断食が続いていた身にはご馳走である。紅茶を1杯飲めば、あとはまた寝るだけ。暇なものだ。

 あるとき。私は重大な事に気がついた。点滴の移動スタンドが無いのだ。ふつうはベッドの隣に常設してあって、用を足すときなどは、移動スタンドを伴いながら徘徊する。
 が、ここにあるのはただの棒。棒がベッドサイドに刺さり、上部は点滴が2つ掛けられる構造となっている。棒には車輪が付いていない。
 では、患者はどうしているのか。同室のC氏は自分で点滴を上に持ちながら歩いているではないか。器用だ…… いや、感心している場合ではない。自分の手よりも点滴容器を高く上げながら歩くのは難儀だ。他の人はどうだろうかと廊下を覗くと、そうやって歩く人ばかりだ。点滴容器はガラス製のものも存在し、落としたら一大事である。なぜ、移動スタンドを使わない?
 万が一容器を落として管が切れたり、針が取れたりしたら面倒だ。ナースコールを押し、看護師に身振り手振り説明し、スタンドを持ってきてもらうようお願いした。
 ほどなくして台が来た。なんだ、あるじゃないか。だが「Only one」と言ってる。一つしかないのか? そもそも、イタリアでは移動スタンドを使わない文化なのか? 他に使う人もいなさそうなので、これは私が使わせていただくことにした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?