見出し画像

それぞれの「型」

 週末の空手指導。参加してくれた黒帯の内藤さん(仮名)とある型の練習をしていた時であった。型の終盤に差し掛かった頃、気がついた私が言う。

「内藤さん、その突き方で教わってます?」

 キョトンとする内藤さん。私の方が間違ったかなと思って、一旦スルーして最後まで一通りやってもらうことにした。

「……直れ。……あの、内藤さん、さっきの挙動なんですが」

 型クラスでの独自解釈なのだろうか、と思いながら聞いてみることにした。内藤さんは、師範が直接指導する「型」専門のクラスで地道に技を磨いている御仁だ。
 彼に私の考えを押し付けるつもりはなかった。内藤さんの普段の頑張りを身近で見ているので、彼の稽古にノイズを入れたくなかったのである。

「私なりにいろいろ試してみて、こうなりましたが……ヘンですかね、塚田さん」

 型専門クラスでは、師範の研究成果や各地を回って習得した武術を教えてもらえる。一般クラスや指導員も教えてもらえない技術や型の解釈が伝授され、しかも定期的にアップデートされる(研究は現在進行形なのだ)。
 このため、同じ型でも一般クラスと違う動きを求められることを、指導員になる前、型専門クラスに参加していた私は知っていた。そして、「足は〇〇度に開く」などといった細かいことは、各自稽古する中で見つけていくというスタンスであることも。
 内藤さんが現時点で「正解」と認識している動きであれば尊重したい。
 お互いの体の癖や重心、体軸は個々人で微妙に違っているので、試行錯誤しながら「自分の型」を見つけていくことも、大切だと考えているためだ。

 動画検索すれば、複数流派の型の比較動画とか、型の挙動の解釈(こんな技が隠れている)という動画がたくさん公開されている。同じ動きでもここまで多様な解釈が生まれるのか、と驚くことも多い。
 このような多様性は、空手のみならず、型がある武術の素晴らしいところだと思う。さらに、お互いの流派がお互いの型の挙動を否定したりしないところもまた、素晴らしいと思う。
 武術は護身術であるため、型にはエゲツない技が多々盛り込まれている。意表を突くもの、複数箇所を狙うもの、急所攻撃など。これが画一的な解釈しかなければ、たちまち防御法を考案されてしまい、使い物にならない。

 その日の稽古は人数も少なかったので、内藤さんと型の解釈で随分と話し込んでしまった。彼の解釈から、私自身も取り入れることも多々あって楽しかった。何より、お互いがお互いの事を受け入れて、自分の考えを押し付けなかったことが嬉しかった。

 近年、発信するツールがたくさん増えてきて、それぞれが自分の意見を述べる機会やツールが増えた。とても良いことだと思う。
 反面、自分の考えを強引に押し付けたり、違う相手を徹底的にやり込めるような行為も少なくない。ちょっとお互い一歩引いて「それもアリなんじゃないの」というスタンスでも良いのではないかなぁ、と思うのだ。その上で反論したりしても遅くはないだろうし、反論した相手も受け入れやすいのではないかと感じている。

 お互いを受け入れれば、お互いの引き出しが増えるんだから。

この記事が参加している募集

最近の学び

基本的に全文見れますが、投げ銭と同じ扱いにしてありますので、作品や記事が気に入って頂ければ、ぜひサポートお願いいたします。