ドラマシナリオ8「水曜日のシンデレラ」③(終)
■前回までのあらすじ■
作品テーマ(キーアイテム)は「時計」。吉澤健吾は、先輩でもある経理部の武藤に誘われて『シンデレラ★オフィス』というキャバクラに行く。そこで見たのは、吉澤の同期・経理部の島田さおりにそっくりな、るみ子という女性。さおりは毎週水曜には用事があるらしく、定時で早々と帰っている。ミステリアスな同期が気になる吉澤であったが……
■シナリオ本編■
◯トリトン工業・外観(朝)
ビジネスマンがぞろぞろとビルの中に入ってく。
◯同・経理部(朝)
経理部前の通路を眠そうな目で歩く吉澤。経理部の机では目をショボつかせて席についてる武藤。吉澤に気がついて片手を挙げる。
会釈を返す吉澤。
武藤の前の席のさおりが、眼鏡をかけた顔でくるりと振り返る。吉澤と視線が合う。ビクッと身震いする吉澤。
吉澤「あ……」
さおり、即座に向き直って机から電卓を出し、書類トレイに入った書類の束を取り出して、読みながら机の上で並べていく。机の上にはアンティーク風腕時計。大あくびの武藤。缶コーヒーをグビグビ飲む。
さおりをチラ見して、首を振って歩き出す吉澤。
◯同・外観
タイトル『翌週』
さおりが書類をめくりながら、小気味よくテンキーを叩いて入力している。
PCのディスプレイには『財務諸表作成メニュー』『業績開示資料作成メニュー』といった文字が並んだシステム画面。『整合性チェック』と書かれたボタンをクリックするさおり。『チェック中……0% しばらくお待ち下さい』と書かれた小さなウィンドウが開き、ウィンドウ下部の青いバーが伸びていく。小さなため息を付いて、椅子に深々と腰掛けるさおり。
さおり「さて、チェック結果でエラーが出てからが勝負ね」
ゾロゾロと経理部の脇にある通路を歩くビジネスマン。さおり、机の時計スタンドのアンティーク風腕時計を見る。時刻は12時10分。
さおり「もう、お昼になっちゃった……どうしようかな」
机の下にあるハンドバッグを引っ張り出すさおりに吉澤が近寄る。
吉澤「島ちゃん、ひさしぶりにいっしょに昼飯食べないか。課の奴ら、みんな外回りで、会社にいるの俺一人なんだよ」
さおり「あら、それは寂しい……うん、いいよ。ブランカ行こうよ。新人の時によく行った……」
時計スタンドから腕時計を外して、腕にはめるさおり。柔和に笑って頷く吉澤だが、さおりの腕時計から視線を外さないで見つめる。
◯レストラン ブランカ・外観
雑居ビルの一階にあるレストラン。木製のドアの『Cafe ブランカ』と書かれた看板が下がっている。軒先には大きなピラルクの模型がぶら下がっていて、窓の回りには蔦が茂っている。
◯同・店内
ビジネスマンでごった返す店内。テーブルを挟んで豚の生姜焼きを食べる吉澤とさおり。吉澤の手が止まり、箸を置く。居住まいを正してさおりを見る。不思議そうに吉澤を眺めるさおり。
さおり「食べないの? 体の調子悪い?」
首を振り、大きく息を吸う吉澤。お構いなしにモグモグと白米を食べるさおり。
吉澤「あのさ『課の奴ら、みんな外出』ってウソなんだ。し、島ちゃんに、話があってさ」
さおり「なあに、あらたまって話って。この間の英和美創の売上計上なら、なんの問題もなく、処理されたじゃない」
吉澤「そんなんじゃないんだよ。もっと大事な話」
さおり「そんなの、なんかあったっけ」
生姜焼きを頬張るさおり。背筋を伸ばす吉澤。
吉澤「営業でお客さんと散々駆け引きしているんで、この場では駆け引きなしで話したい」
さおり「だから、何よ。冷めちゃうよ、美味しいのに」
水の入ったグラスを一口飲んで、まっすぐにさおりを見る吉澤。
吉澤「眼鏡を取ってよ、るみ子さん」
さおり、生姜焼きをつまもうとした箸を止める。ゆっくりと視線を上げて吉澤を見る。生唾を飲み込む吉澤。箸を置いて眼鏡を外すさおり。右目に泣きぼくろ。
さおり「やっぱり、ヨッシィにはバレちゃったか……」
頷く吉澤。視線をさおりから離さない。大きくため息をつくさおり。
吉澤「あの時、酔っ払ってたから、似た人と間違えたのかと思ったけど、その時計、島ちゃん以外にしている人は見たこと無い」
さおり「そりゃ、一点物だからね。あの時、出勤ギリギリで慌ててたから外し忘れちゃったのよね」
眼鏡のフレームを畳んで、テーブルに置くさおり。腕組みする。
吉澤「君がお店の奥に消えたあと、まゆこって娘から話を聞いたよ。珍しく時計してるって。一点物ってことも聞いた」
頬杖をついて、グラスの水を飲むさおり。口を尖らせる。
さおり「まゆちゃんに言わなきゃよかった。あの娘すぐしゃべるのよね」
眉間に縦じわを刻んで、前のめりになる吉澤。
吉澤「就業規則を知らないわけないよな? 会社は副業禁止してるんだぞ、それなのに、それなのに、どうして……」
頬杖をついたまま、怪訝な顔で吉澤を見るさおり。
さおり「理由聞いてどうするの? 人事にでもチクるつもり?」
うつむきながら、首を振る吉澤。膝の上に置いてある手を握りしめる。
吉澤「バカ言うなよ。もう、大切な同期は島ちゃんだけなんだ、そんな事して誰も得しないよ。聞きたいだけだ」
さおり「そんなの、聞いてどうすんのよ」
吉澤、うつむいて黙り込む。吉澤を見てクスクスと笑うさおり。上目遣いでさおりを見る吉澤。
さおり「優しいね、ヨッシィ。心配してくれてありがとう。ヨッシィが成績いいの、何かわかるな」
眼鏡のフレーム開いて掛け直すさおり。
さおり「生活費足りない時のアルバイトってのもあるんだけど、それよりもね、ボランティアの活動費を稼いでるのよね。割と楽しいし」
キョトンとする吉澤。笑いながら小さく息を吐くさおり。
さおり「あのね、ボランティアってさ、案外お金かかるのよ。特に私がやってる動物達の保護なんて、寄付だけじゃ足りないんだよね」
吉澤「な、生々しい話だなぁ……」
さおり「『シンデレラ★オフィス』って、あのスタイルだから、衣装代もあんまりかからないし、ちょうど良かったのよ。時給も結構貰えるし」
吉澤「でも、なんでそこまでして……」
さおり「私さ、田舎からこっちへ出てきたばっかりの時、友達ができなくて、大学とアパートの往復してた時期があったのよ」
黙ってさおりを見つめる吉澤。
さおり「ある日大学から帰る途中ね、雨が降ってて、ずぶ濡れの子猫を拾ったのよ。でも、アパートじゃ飼えないから、面倒見てくれるところを必死で探して、今のNPOに預けたの」
吉澤「……」
さおり「その後、預けた猫が心配になって事務所に通ううちに、そこの代表と知り合って、活動を手伝うようになってね」
黙ってさおりを見つめる吉澤。グラスの水を一口含むさおり。腕にはめたアンティーク風腕時計を、ふわりと撫でる。
さおり「いろいろお世話になったけど、その代表が、少し前に交通事故で亡くなってさ、急遽、私が活動を引き継ぐことになったの。でも、びっくりするくらいお金なくてさ……」
吉澤「理由はわかったけど、武藤先輩もそのうち気付くぞ。早めに考え直せよ。俺も協力するからさ」
さおり「ありがとう。じゃあさ」
吉澤「なんだよ」
さおり、眼鏡をずらして吉澤をなめるように見る。
さおり「一回でいいから、指名してよ。るみ子として。ちょっと恥ずかしいけど、ヨッシィなら……」
吉澤、顔を真っ赤にしてコクコクと頷く。柔和な顔をして吉澤を見つめるさおり。
◯シンデレラ★オフィス・入り口(夜)
『シンデレラ★オフィス』とパステルカラーの丸文字で書かれた看板が下がっているドアの前に佇む吉澤。生唾を飲み込んで、ゆっくりとドアを開ける。中からボーイがドアをあける。
ボーイ「いらっしゃいませ、お一人様ですね。ご指名は?」
中に入るように促され、恐る恐る入る吉澤。
◯同・店内(夜)
固い表情でボーイを見る吉澤。入り口に貼られた、さおりが写っているパネル写真を指差す。
吉澤「予約した吉澤です。るみ子さんをお願いします」
ボーイ「かしこまりました。予約の吉澤様、るみ子さん、ご指名です」
店の奥に声をかけるボーイ。さおりが店の奥から出てくる。吉澤見つけて弾けるような笑顔になる。突っ立っている吉澤の腕に自分の腕を絡ませて、促すように店の奥に進む。
やんわりとさおりの腕をほどいて、手を握る吉澤。手を握り返し、吉澤にしなだれかかるさおり。店の奥に歩いて行く。
終
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