スタートアップの収益最大化に寄与する知財戦略
スタートアップの方からたまに、商標や特許の権利を取った方が良いのだろうか、といった類の相談を受けることがあります。
そうして相談を受けている中で、スタートアップの”知財に対するもやもや感”には、共通点があることに気づいてきました。
端的にいえば、特許権などは費用対効果が見込めるのか、知財が収益に寄与しているのか、ということです。
今回は、そうした経験を踏まえて、スタートアップが知財を最大限活用する方法論について整理したいと思います。
スタートアップの課題
課題①:市場規模が小さい
ニッチ市場がターゲットとなる場合が多いです。
ともすれば、市場自体がまだ存在しないケースもあるでしょう。
市場を広げ、ユーザーの認知度や信頼を獲得していく必要がありますが、スタートアップが自社単独で取り組むのはなかなか困難です。
課題②:自社のシェアを保つのが大変
同様のサービス展開する事業者が多く、時間の経過とともに、自社のシェアが低下してしまうことが課題として挙げられます。
私は以前、スタートアップ経営者から、特許を取っていなかったから、後発参入者が出てシェアを他社に奪われて、最終的には事業撤退の憂き目にあったという話を聞いたことがあります。
しかし、単に特許権を取得すればよいという単純な話でしょうか。
よくある知財のアドバイス
スタートアップが、知財について何か対応しておいた方が良いのかと考え、知財専門家に相談すると、基本的に以下の回答が返ってくると思います。
・商標権はできるだけ取っておく
・特許権もできれば取っておく
・営業秘密は秘匿しておく
これらのアドバイスは全く間違っていません。
ただし、同じアクションを取るにしても、その背景に事業戦略を基にした知財戦略があるとないとでは、雲泥の差が生じるでしょう。
戦略の重要性については、例えば将棋をイメージされると良いと思います。同じ戦力で同じアクション(1ターンに1回駒を動かす)で戦っても戦略の違いで圧倒的な結果の差が生じます。
特許を取るだけではうまくいかない理由
現在の事業環境は、共同研究先や顧客、投資家など様々なステークホルダーがいる、営業秘密を完全に自社だけで囲い込むことや、特許権を取って自社だけで権利実施するだけの簡単な戦略が通じにくい事業環境です。
また、一口に"特許権が取れた"と言っても、その価値はピンキリです。
敢えて辛辣な言い方をすると、戦略的に意味のない特許なら、権利取得後の維持費用がかからない分、権利が取れない方がマシかもしれません。
知財でうまく稼ぐ仕組み
①知財戦略を考える前に事業戦略を考えること
まず、これから自社がどんな事業で、誰にどんなバリューを提供していきたいのかを考える必要があります。
その際、以下のようにコア価値を捉えることが有効です。
②事業と情報の両側面でのオープンとクローズを使い分けること
知財に関心のある方であれば、「オープン&クローズ戦略」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
①で行ったコア価値を考えた上で、オープン&クローズ戦略を
「オープン&クローズ戦略」とは、ざっくり言えば、自社事業にとって大切なものは自社だけで使える状態をキープしようという戦略です。
有名な例だと、コカ・コーラ社が、コカコーラのレシピを社長室の金庫に保管し、社長と幹部しか正確なレシピを知らないという例が挙げられます。
「オープン&クローズ戦略」の定義を示すと以下のようになります。
オープン領域を広げつつ、クローズ領域を確保して、そこで高収益を上げるという考えです。
図示化すると以下のようになります。
ここで大切なことは、「オープン&クローズ戦略」を立てる際には、事業と情報の2点を考慮する必要があるということです。
この点を図示すると以下のようなイメージになります。
情報として秘匿するならば「営業秘密として保護」、情報としてオープンにするならば「知財権で権利保護」の整理です。
肝心なことは、「営業秘密として保護」、「知財権で権利保護」を選択した上で、さらに、事業としてオープンにするかクローズにするかという選択を更にする必要があることです。
具体的には以下の①~⑦の様な選択がなされます。知財に感度の高いスタートアップでは、①~⑦のうちの手段を複数使い分けているのが実情です。
具体的にすべきこと
繰り返しになりますが、スタートアップが知財戦略を立てる際、①今後の事業について整理(自社事業のコア価値を特定)した上で、②何(情報・事業)をクローズにして、何をオープンにするか定める順で知財の戦略を立てることが大切です。
知財戦略を立てる際は、経営者はもちろんのこと、開発担当者も営業担当者も財務担当者も一緒になって、知財戦略を立てることが望ましいです。
しかし、スタートアップは他に対応すべきことが山のようにあり、知財戦略まで手が回らないのも実情です。
そこで、自社の立場に立って知財戦略を立てて、戦略に沿った特許手続きのレビューができる人材をスポット活用することも有効です。
以上、ご参考になれば幸いです。
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