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続・ゴキブリ教授のエプロン16(なんちゃってシュニッツェル)

 ずいぶん昔の話である。妻が勤続15年だかの特別休暇をもらえたので、一人娘と3人でオーストリアを旅した。5泊7日のせわしない旅だったが、ウィーンに滞在し、ウィーンの街を散歩したり、日本語ガイドさん付きのバスツアーに参加したり、列車でザルツブルグに日帰りで出掛けたり、ウィーン・フォルクスオーパーでオペレッタを見たり、数々の思い出がある。
 しかし、それらの思い出は、この稿の主題ではない。筆者の創作料理の紹介を試みたいのだ。
 ウィーンで口にしたウィーン名物の中で、忘れられないものの一つに、ウィンナー・シュニッツェルがある。子牛の肉をバターで揚げたものなのであるが、パリッとしたこの料理の独特のうまさには、家族全員が感心した。
 帰国してからしばらくして、銀座のさる有名ドイツ料理店におもむいたとき、なんとかシュニッツェルというメニューを発見し、迷わず注文したことは言うまでもない。その料理は、べちゃっとした口当たりで、かの地でのウィンナー・シュニッツェルとは似て非なるものであった。
 シュニッツェル(Schnitzel)というのは、料理の場合、「切り分けた肉」という意味になるので、日本語で言うなら「カツレツ」(cutlet)に近い。だから、ウィンナー・シュニッツェルと似て非なるものであっても、それをなんとかシュニッツェルと呼ぶことに何の問題もない。有名ドイツ料理店に罪はないのだ。
 しかし、欲求不満のようなものが残った筆者は、後日、ネットで「ウィンナー・シュニッツェル」と打ち込んで検索してみた。だが、本場のウィンナー・シュニッツェルに相当するレシピは見当たらない。
 ならばと、ドイツ語で「Wiener Schnitzel」と打ち込んで検索してみると、たぶんドイツ人の主婦向けのレシピが出てきた。
 このレシピの大意は以下の通りである。
「子牛肉のやわらかいところをたたいて4mmぐらいに伸ばし、焼き縮みしないよう下処理して塩、胡椒、ナツメグを振る。小麦粉、溶き卵、細かくしたパン粉をまぶす。溶かしバターを熱して肉を入れ、肉が反り返らないように、鍋をゆすり続ける。それから、100℃のオーブンで暖める。そうしないと、衣がやわらかくなってしまうのだ。」
 このレシピ通りに作るには、二つの問題点がある。一つは、子牛の肉はわが国では容易に手に入らない、ということ。もう一つは、揚げるのにバターを使うのはできなくもないが、残ったバターをどうするのか、という問題である。
 これらの問題を踏まえて、筆者が改作したレシピは次の通りである。
 豚のヒレ肉に繊維に直角に包丁を入れ、やや厚めに切る。たたいて下処理した上で、塩、胡椒を振る。小麦粉、溶き卵、細かくしたパン粉をまぶす。パン粉はすり鉢に入れすりこ木ですり、粉チーズをふんだんに混ぜる。多めのバターをフライパンに入れ、強熱する。バターが焦げ始めたら、肉を入れ、両面に焦げ目をつける(この段階では肉の芯まで火は通っていない)。200℃にあらかじめ熱したオーブンに肉を入れ、7分程度加熱する。
 このレシピの要諦は、粉チーズでバターの風味を強化し、バターで揚げないでバターで焦げ目だけ付け、オーブンで仕上げるというところにある。多くのバターを要せず、オーブンで仕上げることで、べちゃっとならないで済む。
 この料理を筆者は「ポーク・シュニッツエル」と呼んで、しばしば作っているが、娘は「なんちゃってシュニッツェル」と呼んで、小馬鹿にしている。しかし、娘は小馬鹿にしながらも、喜んで食べている。 

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