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デジタルトランスフォーメーション(DX)、具体的に何をすればよいのか

前回のnoteに、DXとは「失敗をコントロールし継続的に改善し続ける」状態に至ることだ、と書いてきたが、全体像として抽象的な話が多かった。今回は、ソフトウェア業界以外の方にとっても参考にしていただけるよう、では具体的にどうすればいいのだろう、という部分を管理会計的な話なども絡めながら記事にしてみようと思う。

ちなみに失敗のコントロールなどの概念についてはこちらにより詳しく書かせていただいている。

要点

デジタルトランスフォーメーション(DX)を具体的に進めるにあたって最も重要なのは、事業上のワークフロー全てをソフトウェア化しデジタルで計測することにより、日常の事業活動の一つ一つの価値を管理会計に結びつけ、常に改善ポイントを探し改善し続けることにある。組織全体が共通の数値基準、および管理会計的な基準の上で改善を積み上げていくことで、異なる部署間でも共通認識を持つことが可能になり、事業効率に複利的な改善をもたらす。これは製造業や小売などのオフライン事業も同じで、全てを計測することから定常的な改善活動へ繋げることが重要なのである。このような背景で、ソフトウェア業界のみならず、製造,小売,物流などその他の様々な業種に置いても、様々な技術、AIやBlockchain、Cloud、ないし基礎的なソフトウェアの活用が求められている。

Webサービスでの継続改善

2000年以降のインターネット上でのサービス提供がもたらした革命的な変化の一つが、当時「永遠のベータ」など表現されていた常に改善し提供が可能なサービス提供方式であった。それ以前には、ユーザーの声を日々確認しながら改善を実行するという方法はなく、ソフトウェアであってもパッケージ販売で毎年新しいバージョンを出すというサイクルであった。

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この変化により、全てのサービスは日次というサイクルでユーザーの声を聞きながら改善することが可能になった。数値状況を眺めながら売上に寄与する活動を特定し、それを数%でも改善すれば複利で改善効果が効いてくる。

私が過去居たGunosyも、もちろんその推薦技術も新しかったと思われるが実のところ論文等でも公開しており、優位性はアルゴリズムそのものではなかった。いちばん大切なのは、組織全体が同じKPIを頭に入れ、どう改善すればどこが伸びるのか、毎週、毎日、下手をすれば1時間単位でもデータを見ながら改善サイクルを回していたことだ。この組織力と数値主義こそが力であり、それをソフトウェアが強く支えていたのである。

また、このサイクルの中で一つ一つの改善やユーザー行動の一つ一つが会計上の売上やコストにどうリンクしているか日々理解を深めていた。ニュース配信における1回の記事クリックがもたらす売上価値や、ユーザー一人が増えることによるキャッシュフローの変化などを詳細に理解していたのである。計測を徹底し数値構造を理解していくことでマクロ的な観点とミクロ的な観点の接続になっていたのだ。データと管理会計の接続は、事業全体を一つの意思決定基準にまとめ上げ継続的に改善を積み上げていくことにつながった。

売上やユーザー満足といったものを数値として捉え、日々の管理会計活動に計測された一つ一つの活動を結びつけることで、改善施策の価値を特定していく。そうした改善は複利的な効果をもち、積み上げ続けることで事業的な優位性を発揮していくのである。

オフライン事業の継続改善

他方、オフラインの関わる事業ではそうした計測と改善は難しいと相談いただくことも多い。しかし、世界中見渡せば数字主義的にオフラインの事業を回している事例は実は数多く有る。

例えばAmazonを始めとした最先端の物流倉庫がそうだ。倉庫の中では様々なワークフローが動いている。商品を入荷し、仕分けし、保管し、注文に応じて商品をピックし、梱包し出荷する。こうしたフローは先端の倉庫の中では商品や倉庫状態ができる限り全てデジタルな世界に記録されている。例えば商品について言えばバーコードを割り当て、それを各工程で都度読み取ることで、どの商品がどの工程に乗っているかを見える化している。また倉庫内にはKivaのようなロボットによる保管棚のシステムが動作している。

これらは単に自動化だけが価値なのではない。顧客からの注文に対してどれだけ素早く商品をピックできたか計測し改善していくことにも大きな価値がある。こうした倉庫内の商品や保管棚の状況全てを計測することで、一般には商品数やオーダーの出荷までの時間など互いにトレードオフにある要素を高いレベルに引き上げている。より素早くピックするためにはどういった保管方法が良いのか、どう棚を並び替えればよいのか、これらを計測しながら常に改善を探っている。

これらの結果として商品が素早く届き、また商品あたりの配送コストが低下する。前者はユーザー満足度の向上に寄与し、例えば継続利用率の向上や購入数の向上につながり売上の長期的な向上へつながる。また後者は購入一回あたりの利益を改善することで全体の利益率を向上させる。これらの組み合わせで事業における利益が恒常的に改善され、さらなる投資が可能となるだろう。

計測とKPI構造の詳細な理解がひとつひとつの活動に対する改善効果を理解可能にし、経営目標やその遂行のための管理会計とすべての活動が一つの基準にまとまる。そして、それによりマクロな戦略と方向性が揃った状態でミクロの改善施策を多く積み重ねることが可能になる。

また、ここからは推測になるがおそらくそうした改善を一部の倉庫で先行実施することでその効果を検証しているだろう。ABテストによりひとつ一つの工程を数値化した上で科学的に効果を比較しているのではないかと思う。しかもその改善の実行は、例えばロボットに対する変更であればインターネットの向こう側から適用可能となる。これは倉庫という物理空間と、インターネットという情報空間の相互接続であり、これが2000年代のインターネットによる情報空間の拡大、2010年代のデータ基盤拡大による経営のOS刷新、に続く2020年代の大きなテーマの一つなのではないかと思っている。

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このように、
・ワークフロー、ないしビジネスのプロセスを一つひとつ計測し、そのスタートから顧客に価値が届くまで、一つ一つを数値化し改善に繋げる。
・工程とその状態を情報空間に複製し、情報空間上で分析、改善策を探す、場合によってはソフトウェアやロボット、IoTのような要素を介して情報空間上から改善を実行する。
・これらの数値を管理会計と結びつけ、施策の価値を評価し、改善を積み上げる。
といった形で情報空間への複製と分析が大きな変化を生み出していくのがデジタルトランスフォーメーションの求める状態なのではないだろうか。私はこれを仮想化の時代と勝手に呼んでいる。

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こうした計測により、全ての事業活動は、たとえオフラインなものであってもある程度の粒度・精度で一つのKPIツリーに統合され理解されるようになる。この中で一定の改善目標を置くことで日々複利的な改善効果を積み上げていく事が重要だ。

倉庫以外の事例も気になる方は、農業のPlentyや製薬ではInsitro、また交通ではUberなどの事例は研究してみると面白いのではないかと考えている。表に出ていない事例でもアメリカや中国に様々な事例が転がっていることがあり、機会があれば足で事例を探しに行くのも良いかもしれない。他にも良い事例があるかと思うので、見つけた方はぜひお教え願います。

AIもBlockchainもRoboticsもIoTも、様々なバズワードとして流行し、デジタルトランスフォーメーション(DX)も同じく流行の只中にあるワードだと思われる。が、この情報空間と物理空間の相互接続から生まれる価値を最大限利用しようという取り組みは、インターネットの誕生を機に始まり私自身もGunosyで2010年代に経験した「ソフトウェア企業の改善サイクルの短縮化」と本質的には同じことであり、それが2020年代はソフトウェア企業に限らず起こっている、というように見ている。流行とは関係なく一貫して重要なトピックなのではないだろうか。

最後に

こちらのマガジンで、より詳細なソフトウェア活用に関する話を書いています。お役に立てれば幸いです。

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