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5-13 人事評価とはフィードバック ②1on1と継続的人事評価

ソフトウェアと経営マガジン第68回です。人事評価を四半期や半期、1年だけの取り組みとする場合、中々納得が得られないこともあります。今回は継続的に評価を行うことでその緩和を考えていきます。

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前回記事

1on1を通じた納得感のある人事評価の構築

対話と納得感において、特に重視されるべき取り組みが1on1だ。納得感ある人事評価は、マネージャとメンバーの継続的な対話を通じて築かれる信頼関係によって実現される。1on1は、この対話の場を提供し、双方向のコミュニケーションを促進する重要なツールだ。5章に入ってから度々1on1の重要性を強調するが、個人的には何度強調してもし足りない位に思っている。定期的な1on1によって、マネージャはメンバーの業務やキャリアに関する意見や悩みを理解し、適切なフィードバックを提供することができる。

納得感ある評価のためには、日々の目標に対する進捗にマネージャ・メンバー間で共通認識が作られることが重要であり、1on1では目標への疑問点や課題を明確化し、その解決に貢献する方法を模索することが求められる。このプロセスを通じて、メンバーは自分の成果や努力が理解され評価されていることを実感し、納得感を持って日々の業務に取り組むことができる。

また信頼関係が築かれた環境では、時に厳しいフィードバックも受け入れやすくなる。メンバーがマネージャからの指摘をポジティブに捉え、自己改善のためのアクションに繋げることができるようになるのだ。考えてみてほしい。互いの信頼がなく日々の業務を見ていないマネージャに指摘や改善提案をされた場合、ムッと来るのは容易に想像がつくだろうし、そのような経験のある方も多いのではないだろうか。厳しい提案が効力を発揮するのは目標の納得感とそれを生み出す互いの信頼があってこそだ。

また、1on1でキャリアの方向性を定期的に確認し、評価でもその方向性を踏まえた議論が展開されることで、従業員のモチベーションを維持し、成長を促進することができる。以前の1on1に関する節でも、キャリアは1on1の中での重要な議論トピックの一つとして挙げているが、現状の目標がキャリア的にプラスであることを双方が認識することが必要だ。度々、キャリア的には求めていない方向性での取り組みをする必要もある。その場合でも、なぜそれに取り組むのか、そしていつまで取り組み、自身のwantに添う取り組みができるのはいつ頃なのかなど議論し納得しておく必要がある。

1on1を適切に活用し、日々の対話の積み重ねを通じて納得感ある人事評価を実現することで、組織全体の生産性が向上し、メンバーのキャリア発展にも寄与することが期待される。マネージャとしては、1on1の重要性を理解し、その運用方法を継続的に改善することで、より効果的な人事評価制度を構築していこう。

人事評価を通じて組織文化を作る

ところで組織文化とは、問題を与えられた際に一定の方向のアクションを示すような方向づけであり、それを生み出す力場であると以前書いた。その起点にはミッション・ビジョン・バリューが存在する。人事評価制度は、組織文化形成に大きな影響を与える要素である。組織のミッション・ビジョン・バリューに沿った評価制度を構築することで、従業員は組織の目標に一致した行動をとりやすくなる。それにより、組織文化醸成が促進される。

評価制度がミッション・ビジョン・バリューに沿っていない場合、逆に組織文化の形成を阻害することがある。例えば、短期的な業績に重きを置く評価制度では、長期的な成長や革新を促す組織文化は育たないだろう。バリューの上では長期的な顧客メリットを求める一方で、人事評価制度の上では短期的な売上追求に偏った設計になっていると、どうしても日々のアクションは短期に偏ったものになる。

人の行動は、一定流れやすい方向というものがある。短期で想像しやすいものに偏りがちであり、また自身のインセンティブが強い方向に流れていく。ミッションやビジョン、バリューと言ったものは遠大で抽象的なものであり短期的思考ではどうしても無視されがちになる。

しかし組織文化の醸成の上ではミッション・ビジョン・バリューを無視してはならない。大きな方向性の土台であり、これに向き合うための人事制度を作っていかねば組織は方向性を見失い、数年もすると売上以外考えない組織になる。結果として、売上自体が伸びなくなってくると組織崩壊という自体にもなりうる。組織の存在意義たるミッション・ビジョンや行動原理たるバリューを軽視せず、それらに沿った制度設計を心がけたい。

事業の不確実性と評価制度の調整

スタートアップに限らないが、事業の不確実性が高い状況下では、評価制度の細かさを適切に調整することが必要となる。不確実性が高いほど、数カ月後の状況やKPIの構造が見えづらくなり、重要なKPIが変わることもある。このような状況では、詳細度の高い細やかな人事制度がマッチしないことが多く、評価基準や目標設定が困難になる。どんなに細かい目標を立てたところで、その目標がすぐに的外れなものになるからだ。そのため、不確実性の高さに応じた柔軟な評価制度が求められる。

マネージャは、現状の事業状況だと未来をどの程度見通せるか、その不確実性に合わせて人事評価における目標の作成とフィードバックを変えていくべきだ。基本的には3ヶ月や半年、1年ごとに人事評価が行われることが多いが、状況が都度変化するスタートアップや新規事業では、より細かいタイミング、特に1on1を通じた従業員の状況や事業環境に応じた記録と適切な評価が行われるようにすることが、組織全体の成長に繋がる。こまめな1on1でのパフォーマンスに関する記録の積み上げによって、期末の評価時にどのような貢献があったか、どのような評価だったかを汲み取りやすくなり、状況の変化に対しても納得感を持てる評価に繋げやすい。

一方、成熟してきた事業では、一つひとつの取り組みの洗練化や安定化が求められる。予測が効くこのフェーズでは細かな評価の仕組みを作っても良いかもしれない。例えば、KPIツリーがはっきりと見えているのであれば、それぞれのKPIに対して誰が責任を持つかはっきりと整理しておくことで成果を測る事ができる。また、売上・KPIにつながる行動が明らかなのであればそれ自体を目標に組み込むことができる。例えば商談数などだ。明確な目標を設定して追うことで、事業目標の達成に向けた精度高い運営を目指す事が可能となる。

このように、スタートアップのような不確実性が高い段階から成熟した事業の不確実性低い段階まで、フェーズに合わせて事業の成長と従業員の成長を重視し、より柔軟で適応性のある評価制度を構築することが望ましい。マネージャは、事業の成長段階に応じて評価制度を調整し、従業員が能力を発揮できる環境を整えることで、事業の成長とソフトウェア開発のスピードを維持・向上させることができる。事業の不確実性と評価制度の細かさを揃えることで、スタートアップが組織全体として効果的に機能し、競争力を維持することが可能となるのだ。

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