今、毎日が苦しいあなたへ
新卒で入社した会社で、部署ガチャに外れた。
最初は「社宅で人生初の一人暮らし。上京生活。9割在宅で、残業も多くない。最高やん~!」と思ってた。
でもいざ働きはじめたら、全然違った。
対面での人との交流がほとんどなくて、全っ然馴染めなくて。
取引先どころか、部署内の会議でめちゃくちゃに緊張して、同じチームの1個上の先輩にさえずーっと気を遣ってた。
業務をひと通り教わっても仕事のすすめ方がわからなくて、今やっていることが合っているのか、自分の為す選択すべてに自信が持てなかった。
私はびびりで心配性で、緊張しい。
ストレス耐性も体力も気力もない。
想定外のことが起こるとテンパって、本当になぁんにもできなくなるタイプなのだ。
電話で営業するのが仕事だった。
電話は全部録音していて、たまにみんなに聞いてもらったりする。
聞こうと思えば先輩も上司もいつでも私のへったくそな営業電話を聞けるような環境だった。
在宅で1人なのに、常にどこか監視されてる感があって、ずっと慣れなかった。
ずっと居心地が悪かった。
ある日、先輩に「一旦お客さんに電話するのやめよう」と言われた。
下手すぎてお客さんに出せないと思われたらしい。
ロープレで質を高めるらしい。
お客さんに電話することが仕事なのに、一切やらなくなった。
期限もなかった。
場数踏まないとできないタイプなのに、終わりも見えないまま、先輩の時間をもらって毎日ロープレをやった。
あと数ヶ月で後輩が入ってくる。
指導係になることも決まっている。
今の私が、メイン業務をしていない私が、一体なにを教えられるんだろう。
焦りしかなかった。
ロープレをやればやるだけわからなくなった。
なにをしても違うと言われた。
緊張して頭が真っ白になる。
固まったら「固まるのだけは本当によくない」と言われた。
お客さんと話していた方が楽だった。
録音された気持ち悪い声の(録音の自分の声ってヤだよね)、反吐が出そうなほどへったくそな自分の営業電話を聞いて、できていないことを1人で振り返る生活を2か月続けたら、身体がおかしくなった。
頭が回らなくて物事をうまく考えられない。
喉がへばりついて、うまく声が出せない。
夜眠れないし、空腹なのに食欲が湧かない。
ずっと緊張していて胸のつかえが取れない。
どす黒い鉛でも入ってるんじゃないかと思うくらい、心がずーんと重い。
なんでもないところで急に涙が止まらない。
ある朝起きたら、今まで感じたことのないレベルの頭痛と吐き気がした。
吐いても食べ物はなんにも出てこなかった。
内科に行ったが、原因は分からないと言われた。
その頃には、仕事をこなす同期や先輩が異様に見えていた。
「なんでこの仕事で、この環境で、平気で笑っていられるんだろう」
「なんで自分だけこんなにできないんだろう」
そして、おかしいのは自分なんだと気付いた。
みんなが当たり前にできることが自分にだけできない。
異様なのは私の方だ。
自分が異質なんだと思った。
もう無理だ。なんにもできない。
乗り越えられる未来も終わりも見えない。
人の時間を奪って迷惑をかけることしかできない。
ある日、ある人に心療内科を勧められた。
精神病院にかかるなんて、私はなんて弱い人間なんだろう。
認めたくなかったし、悔しかった。
またひとつ、自分がいやになった。
だけどそれ以外にできることが見当たらなかった。
精神科の先生は初めて会う人だから、自分の状況が伝わるように順序立てて話すように、かなり気を付けた。
でも最近頭が働かないから、ちゃんと経緯を説明できるかな。
初めての場所で、初めましての相手にきちんと話せるだろうか。
毎日指摘されてるから話し方に自信がない。
喉がまたへばりついて、うまく言葉を継げない。
声を出そうとしたら、かわりに涙が出た。
先生はなんにも言わずティッシュを差し出してくれた。
途切れ途切れで、とつとつと話していたと思う。
たぶん20分くらいかかった。
その間、先生はずっと黙ってメモを取りながら聞いていた。
ひとしきり話し終えたら今度は先生がいろんな質問をしてきた。
出身、家族構成、家族の職業、好きなこと、小さい頃の性格、趣味、休日の過ごし方、初対面の人との関わり方
先生は大〜きなため息をついて
「もう休んだ方がいいよ」と言った。
向いてない。ポテンシャルの問題だよ。
人一倍努力しても得られる成果は人並みか、それ以下だと思うよ。
さっさと諦めた方がいい。
と言われた。
文字にしたら結構な言われようなんだけど(笑)
でもあの時の自分が最も欲しかった言葉だった。
上司には甘えだ、逃げだ、それじゃどこに行ってもやっていけないよ、と言われた。
自分だけができないのは、努力が足りないからだと思っていた。
根本的に向いてない。
もっと得意を活かせる環境に変えた方がいい。
今はとにかく休んだ方がいい。
先生にそう断言されて、ようやく諦めがついた。
向いてないことには薄々気付いていた。
でも、努力量の問題と思うことにしていた。
もうやめていいんだ。休んでいいんだ。
救われたような気持ちになった。
久しぶりに深呼吸ができた気がした。
適応障害の診断が下るまで、離れて暮らす家族にも言えなかった。
お母さんに、「なんでもっと早く言わへんの」と泣いて怒られた。
そこから1年半くらい、休職やら退職やらで仕事をしていなかった。
最初は緊張感や焦燥感からの解放よりも、自分だけが休んでいる罪悪感が強くて苦しかった。
人と会うのが嫌になった。
みんな前に進んでる。
止まってるのは自分だけ。
もともとほとんど持ち合わせていない自信が底をつき、さらに突き破ってマイナスへ向かった。
友達に会っても、なんにもしていない自分には話せる話題がない。
言えない。話したくない。会いたくない。
どんどん殻にこもっていった。
誰かに聞いてほしいのに、言えなくて。
その頃にも支えてくれた人は少なからずいたけれど、心の奥深くにある本音をさらけ出せた人はいない気がする。
みんな、そんな暇じゃないし。私と違って。
だから書いた。紙とペンで書いた。
あとでぐちゃぐちゃにして捨てれば誰にも知られずに済むと思って、書き始めた。
自分に相談したら、とことん話を聞いてくれた。
誰よりも親身に寄り添ってくれて、包み隠さず本音を吐き出せた。
あの時どう思ったのか。
なにが辛くて、なんで苦しいのか。
いつの誰の一言が心に突き刺さって抜けないのか。
どうしたいのか。
気持ちが落ち着くまで、書くことに飽きるまで書いた。
考えていること、感じていること、苛立ちや不安に不満、弱音も卑屈も自己否定も、全部書いた。
得意や苦手、やりたいこと、やりたくないこと、好き嫌い、無意識でやっちゃうこと、大切なこと、大切にしたいこと、なりたい自分と今の自分。
理想も現実も全部。
心に頭に、浮かぶたびに何回でも書いた。
この1年半で、ノート4,5冊分くらいは書いた。
ペン10本分くらいは書いた。
150冊くらいの本を読んだ。
自分を受け入れるのは辛かった。
もっと柔軟に、そつなく対応できる人だと思っていたし、そうありたかった。
誰とでもうまくやっていける人になりたかった。
正直、もうちょっとコミュ力があると思っていたし、もうちょっと仕事ができると思っていた。
最初はできなくても、努力すればできるようになると思っていた。
でも全部違かった。
その現実を受け止めるのが1番苦しかった。
休職していたけど戻る未来も見えなくて、退職した。
休職中の転職活動は人事からの見栄えも悪いし、とりあえず実家に帰ろう。
無職で無収入になり、目減りしていく貯金残高を見ながら、軽率に「あ~、死にたい」と独り言ちるようになった。
ほんと、友達に「おはよ~」って言うくらいの軽さで。
土日が好きだった。
みんなも休みだから。
自分だけが休んでるわけじゃないから。
月曜の朝が嫌いだった。
みんな仕事に行くから。
いいじゃない。
やるべきことがあるんだから文句言わずに行けよ。
やるべきことがあるというのは人から求められているわけで。
誰かに、社会になにかしら貢献しているわけで。
ただ消費しているだけの私よりも、ずっと人の役に立ってるんだから。
居ても居なくても変わらない、誰になんの影響も与えない私よりずっと素晴らしいことじゃない。
過去最高に卑屈な人間になっていた。
転職活動はしたりしなかったりだった。
履歴書も職務経歴書も書いたけど、求人広告も見てるけど、応募する勇気がない。
もう何社も落ちた。
なんの経験もないのに、適応障害と休職付き。
そして現在無職の私を欲しがる会社がどこにあるんだろう。
エージェントには紹介できる企業がないと言われた。
ある程度私の状況を知っていた友達に、応募する勇気をもらうためだけに毎週会ってもらっていた。
息を吐くように「死にた~~」と言いながらベッドで求人情報を見ていたある日、とつぜん一筋の光が射した。
大げさやと思うやん?
ほんとにそんな感覚やったんよ。
飛び起きて業務内容を見入って、応募資格を確認した。
「ここやん」
ノート4,5冊分の遠すぎる理想や弱音は、まんま自己分析になっていて、自分のことをイヤというほど理解する手立てと化していた。
もうここしかないと思った。
ここがダメならもうどこにも受からないと直感でわかった。
履歴書を送ると翌日には連絡が来た。
書類選考、通過。
メールには「求めている人物像と合致しているので」とあった。
どうせお世辞だろうと思いながらも、もうここに行こうと勝手に決めていた。(面接も受けてないのに)
採用面接は和やかにすすんだ。
面接は本当に苦手だ。
人生で苦手な時間ランキング1,2を争うくらい苦手だ。
あの、”その場でなんかいい感じの、説得力のあることを笑顔を絶やさずに話す”が本当にできない。
取り繕うことの一切を諦めて、前職で体調を崩したことを正直に話した。
たしか、吐きそうなくらい緊張していると社長に言った気がする。
社長は面接が20分経過してもガチガチな私に
「まだ緊張してるの?繊細だね~」と笑った。
2週間以内に連絡すると言われていた合否は、3日後に来た。
採用だった。
1年半の社会人ブランクを経て、今入社4か月目。
1日8時間の仕事の中で、苦手な作業はほぼない。
ヤな人は1人だけいるけど(まぁどこにでも1人はいるだろう)、仕事が苦痛だと感じることはない。
自分であぁしよう、こうしようと創意工夫する心の余裕がある。
新人ならありがちなアイデア出しを指示されて、そこから派生して派生して、いつの間にか0から作り上げる企業ブログの担当になった。
自分の経験をもとに、事業と理念に納得と共感がある。
アイデアを出す、深く考える、あらゆる可能性を検討する、戦略を練る、仕組みを作る、独学する、構成を練る、ストーリー仕立てにする、文章を書く、校正する
1日の行動に苦痛がない、苦手が少ない。
自分のやっていることに意義を感じられる。
やっと、ちょっと、生きやすくなった。
今人生が辛くて苦痛で仕方がない人は、とりあえず紙とペンを用意してほしい。
真っ白な紙と青いボールペンならなお良い。
静かな落ち着けるところで、なんでもいいから書いてほしい。
書くことがないなら「書くことがない」と書いてほしい。
なにを書いたらいいかわからないなら、それをそのまま書けばいい。
思い浮かんだことを全て、そのままの言葉で書き出してほしい。
書くということは、考えるということ。
自分について書くとは、自分と向き合うということ。
1番の相談相手は自分自身。
自分に問えば、きっと苦しい現状を打破する策を見つけ出せる。
だから書いてほしい。
それが、自分で自分を救う唯一の方法だから。