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「サーキュラーアパレルブランド」の誕生

服づくりを始めた当初、ぼくが注目したのは工場で廃棄される「B/C反」でした。
https://note.com/y_ikegami08/n/ne4dfef1301bf

しかしながら、クラウドファンディングのリリース時には「サーキュラーエコノミー」を打ち出したプロジェクトに。これには、紆余曲折がありました。

キズ=生地の個性

生地工場で最初にB/C反をしっかりと見せてもらった時、「これがキズ?」と拍子抜けしました。

たしかに、明らかに見た目で分かるものもなかにはあるのですが、ほとんどのキズは、素人には認識できないほど微細で見過ごしてしまうようなもの。

これが、消費者が求める「品質」に削ぐわないから、大量生産/ライン生産において取り除くのは効率が悪いから、と棄てられてしまうことに悲しさを感じました。

本来、職人が同じ時間と手間、想いを込めてつくり上げたものです。

僕はデニムについて学びたいと思い、昨年9月から児島にある生地メーカーで研修をさせてもらっています。これについてはまた別に書く機会をつくりたいと思いますが、生地がつくられる過程はびっくりするほど手作業で、手間がかかるのです。

皆さん、裁縫の糸通しって嫌ですよね?
生地をつくる過程では、数百本の糸を穴に通すことも、数百本の糸同士を結ぶこともあります。そうしてつくられた生地が、いとも簡単に捨てられるんです...

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研修中に撮影

僕はB/C反のなかからキズを見つけ出した時、「あ、あった!」と喜びに近いものを感じたことを覚えています。

生地のキズは、見方を変えれば「生地の個性」なのではないか。

そんなふうにさえ思えました。ヒトや文化に「多様性」が認められる時代に、生地にもそれがあっていいはずです。

また、納品が可能なA反だから、キズが「0」ということでもありません。
程度の問題で、キズを種類や大きさなどで点数化した時に、基準よりもオーバーしたものがB反、C反(ともに納品不可)と振り分けられるのです。

実は、A反のなかにもすでに「多様性」は存在していて、A反とB/C反を隔てる「基準」も機械的に決められたものでしかありません。

こうした「基準」を疑い、キズという概念を壊してしまおう
キズは生地の個性であり、生地の多様性を服にして楽しもう
それが、結果的に「廃棄生地」をなくすことにもなる

こうしたことを考えて、ブランドづくりを進めていきました。

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「循環するジーンズ」の色差も、B/C反ならではの色ブレや日焼けによるもの

大量生産・大量廃棄の壁

B/C反を使った生地の個性/多様性を楽しめる服づくりは、ある程度形になってきました。

そんな折、知り合いの紹介で、オーガニック業界のパイオニアとも言える存在である企業経営者の方にビジネスプランを見ていただく機会をもらいました。

そこで頂いたのは、作り手としてのこだわりはあるけれど、消費者にとってのメリットが欠けている、産業を本質的に変えられるようなアイディアではない、といったご意見でした。

何も言い返すことができず、打ちのめされた気がしました。
しかし、真摯に批判を頂いたことに対して、なんとか答えを見つけ出し、もっと良いアイディアへと昇華させていこうと覚悟が決まりました。

その後、一番に考え直したのが、「B/C反」を使って服をつくることは、工場から「B/C反」をなくすことができるという意味ではポジティブな影響を与えられるかもしれないけれど、そもそもB/C反が生まれる原因にはアプローチできていないのでは、ということでした。

ましてや、僕が「B/C反」で服をつくればつくるほど、B/C反が生まれる大量生産・大量廃棄の仕組みに加担することにもなりかねません。

服を大量につくって大量に捨てることで成り立つアパレル産業の構造に向き合い、これを根本的に変えていくような仕組みを生み出していかなくてはいけない。

そこで考え、たどり着いたのが、「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」というビジネスモデルでした。

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サーキュラーエコノミーとの出会い

このビジネスモデル/概念を体系的に学んだのは、正直言って最近のことです。

サーキュラーエコノミー(循環型経済)
この概念に出会ったとき、僕のなかでは直感的に感じるものがありました。

昨年から友人と「_____にまつわるエトセトラ」というグループを立ち上げ、岡山県内でアウトドア(自然)体験の提供を行っています。
https://readyfor.jp/projects/etcetera

この活動のなかでもずっと議論してきたことが、「循環」です。
山の恵みが、河川をくだって、海に流れ着く
そして、海で再び大気となり、山へと還元されていく
山には山に、海には海にまつわる暮らしが育てられてきた
この一連を体感してもらうために、エトセトラの活動を設計してきました。

こうした活動も、ひろくサーキュラーエコノミーと根底は同じで、さらに考えれば、僕が倉敷に移住してきてから行ってきた活動のすべてが、これに通じるようでした。

自分がこれからの人生をかけて探求したいことが、「サーキュラーエコノミー」という概念で明確になったのです。

そして、B/C反を使った服づくりをするのではなく、そもそもB/C反を廃棄させないような資源が循環する服づくりを実現しようと、思いを新たにしました。

「サーキュラーエコノミー」を、今後も探求し続ける覚悟をもって、ブランドの軸に据えることを決めました。

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「サーキュラーアパレルブランド」

サーキュラーエコノミーを生み出すアパレルブランド、「サーキュラーアパレルブランド」。これは、自分でつくった造語です。

製品を長く愛用してもらうことと同時に「回収」を前提とする、一般的ではないブランドの仕組みをはっきりと認識してもらうため、"スマートな伝え方"ではないとは思いながらも「サーキュラーアパレルブランド」を名乗りました。

一方で、「サステナブル・ブランド」や「エシカル・ブランド」といった呼称とは区別しました。

近年「サステナビリティ」「エシカル」といった言葉が広まり、買い物の選択肢も増えるなど、ポジティブな変化が世の中で起きています。

しかし、僕にとっては「サステナブル」や「エシカル」とはどんな状態なのか、まだ定義できずにいます。持続可能な服づくり、倫理的な服づくり、これらは漠然とイメージはできるものの、服づくりをする立場からすれば、何まで整えることが持続可能なのか、倫理的なのか、捉え方はさまざまだと感じます。

サステナブル/エシカル・ファッションを推進する方には敬意をもっていますが、だからこそ、個人的に定義を仕切れない言葉を中途半端な気持ちで使うことはできないし、それらに関心がある消費者に誤解を生むものを届けることにもなりかねないと思いました。

サーキュラーエコノミー図(BCなし)

land down underが目指す資源の循環

サーキュラーエコノミーの魅力のひとつは、物理的に資源が循環すること、各過程で環境負荷を減らすこと、という明確なゴール設定があるところです。

もちろん、資源を循環させる仕組みづくりや、各過程で環境負荷をなくしていくことは容易ではありません。しかし、やるべきことは明確で、段階的に実現することしかできないとはいえ、誠実な服づくり/消費者への提供ができると考えました。

これは、前回のnoteでも書いた「きちんとした服づくりをしたい」という思いに繋がります。

僕は地域おこし協力隊という、生産者側でもなければ、ブランド側でも、完全な消費者側でもないような立場で、産地のなかで活動してきました。そして、どの立場のことも少しばかり理解ができているつもりです。

だからこそ、サーキュラーエコノミーは、作り手・売り手・使い手の「三方よし」がきちんと実現するビジネスアイディアだと確信しています。

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クラウドファンディングをリリースする日まで、資源が循環する輪を描くための下準備を進めてきました。

繰り返しになりますが、サーキュラーエコノミーの完成は容易ではありませんが、真新しい技術を生み出さなくては実現できないことではなく、今存在する技術を組み合わせることでも、実現の余地があると思っています。

この仕組みによって、消費者にとっては「環境も人も傷つけず、心地よく服を楽しめる」とともに、B/C反の個性や多様性も輝いていくのではないでしょうか。

また、このブランドだけで循環の輪を生み出すことが目的ではなく、産地ひいては産業のスタンダードにしていくことが使命です。

一般的に、この概念が浸透する日までという思いで、「サーキュラーアパレルブランド」の呼称はもうしばらく使っていこうと思います。

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