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ブランドを立ち上げる理由

2年前に倉敷市児島に移住した当初は、自分でブランドを立ち上げることはまったく考えていませんでした。

自分がアパレルブランドをつくれる自信は皆無でしたし、すでに児島にはアパレルブランドが群雄割拠し、世の中にもD2Cブランドが増えるなかで、自分が新たに服をつくる理由も見出せませんでした。

それがなぜ、今回のブランド立ち上げへと思いが変わったかと言えば、
この2年間「地域おこし協力隊」として、アパレル関連工場やブランドを近くで見ていくなかで、自分を突き動かすような「違和感」を感じてきたからです。

想像と現実のギャップ

児島で最初に考えたプロジェクトが、カフェ&ゲストハウスの立ち上げです。
生産者が企業の垣根を越えて横に繋がったり、生産者と外部から訪れる人が交流できる場ができたら面白いと感じたからです。

一方で移住してから、さまざまなアパレル関連工場を訪れ、経営者や職人の方々とコミュニケーションを重ねました。

そもそも児島に移住を決めたのは「繊維産地で、現場に関わりながら仕事がしたい」と思っていたからで、自分にはどんなことができるのかを現場に足を運ぶことから考えてきました。

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移住初期に訪れた帆布メーカーの工場内の様子

協力隊という私企業に属さない立場もあったのか、何度も足を運ぶうちに、工場の方から悩みや、工場で起きている実際の状況について話してもらえることが増えていきました。また、僕自身も気になることは遠慮なく尋ね、伝えました。

そうしたなかで、工場の方が「これは仕方ないんだよ」と"当たり前"として話すことに対して、「それはおかしいですね」と思わず口にしてしまいたくなるような、理不尽な事実に出会うことが何度もありました。

例えばそのひとつが、クラウドファンディングのプロジェクトページでも触れた、工場で廃棄されている「B/C反」の存在です。

時を同じくして、世の中では「サステナブル」や「エシカル」といった言葉が広がり、ものを買うときの選択肢も少しずつ増えているような、嬉しい変化を感じていました。

そうした言葉を聞くと、なんとなく中国や東南アジアの縫製工場を想像します。
しかし、目の前にある国内の繊維産地でさえ「サステナブル」とも「エシカル」とも言えないような状況が広がっていることに気づいていき、ショックと危機感を感じるようになっていきました。

工場で廃棄されるB/C反

生地工場では、織り上がった生地を人の目でひとつひとつ検品します。

状態によって、A反・B反・C反と振り分けるのですが、一定距離のうちに基準以上の「キズ」が見つかった生地が「B反」「C反」(まとめてB/C反)になります。

A反以外は基本的に納品することができず、工場の倉庫に保管されます。
そして、一部はブランドや手芸屋が買い取ることがありますが、それでも売れ残ったものは廃棄処分されています。

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工場で「B/C反」の存在を知り、実際にみせてもらうと、その微細さに驚きました。どこにキズがあるのか教えてもらわなければ、素人では気付くこともないようなものなのです。

キズがあるといっても、生地の大半は「A反」同様に綺麗な状態です。
そのため、「キズだけ避けて、服にできないのだろうか?」と思うのですが、
大量生産を前提として、効率重視で服をつくる現在のアパレル産業では、キズを避けて生地を使用することは「非効率」とされ、弾かれてしまうのです。

工場の職人さんからすれば、A反のみを厳選することが、国産アパレルの、その工場の「クオリティの証」だということかもしれませんが、元を辿れば、ブランド(生地問屋・商社などを含んでいます)やぼくたち消費者からの低コスト・低価格の要求が効率重視のものづくりを促し、B/C反を生み出すきっかけをつくっているといっても過言ではありません。

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「B/C反」という呼び方自体が、「A反」に対して二流・三流のものを意味していますが、本来は同じ時間と手間をかけてできあがったものです。

ぼくがB/C反を最初にみせてもらった時、キズをなかなか見つけられず、むしろ見つけた時には「小さな喜び」を感じたことを覚えています。見方を変えたら、キズではなく、「個性」のある生地なのです。

それが、効率がよくないからと排除され、捨てられていることに、もったいなさや悲しさを感じました。

とはいえ、繰り返すことになりますが、
特定の誰が悪いと言うことではないけれど、知らず知らずのうちにぼくたち「消費者」がB/C反を生み出す一端を担っていたことが、ぼくのなかで強い違和感として残りました。

アンバランスな関係性

B/C反の発生は、基本的に生産工場側がすべての責任を負います。
工場の倉庫で、一定期間保管された後に廃棄されるか、ブランドや手芸屋が買い取ることがありますが、その場合も原価を割って安い値段で買い叩かれています。

ブランドと工場は協働でものづくりをしているはずが、B/C反が発生しても、別の活用方法を一緒に考えることはなく、すべて生産側に押し付けているのです。

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微かに白い横線が見えるのが横糸の連れ込み「キズ」

ブランド側も、在庫を抱えるリスクを負って服を販売していると言うかもしれませんが、製品における利益配分から考えても、工場側には皺寄せがいっています。

しかし、コスト削減を要求を断ったり、B/C反の負担を保証しない工場には、もちろん仕事が振られません。有無を言わせず、コスパ重視のものづくりをしていくしか工場にとっては選択肢のない構造になっているのです。

「生産者<ブランド(生地問屋・商社など)・消費者」の力関係が、この産業の基本になっていることに、苛立ちすら感じました。

十分な知識もないのに、工場側の意見を聞かず無理な要求をしておきながら、そのリスクを(最初から失敗が見えていた)工場が一部持たされたという話も耳にしたことがあります。(これは、生地工場以外でのエピソードです。)

決意

こうした、約2年間この産地を近くでみてきたからこそ感じてきた違和感から、どうしてもこのままではいけないという思いがみなぎり、行動を起こしました。

現在の状況が生まれたのは、誰が悪いわけでもないけれど、このまま放っておいては「みんなが悪い。」小さいことからでも変えていかないといけないと思います。

また、実際にはそんなことを言っている場合でもなく、「サステナブル」で「エシカル」なものづくりがグローバルで求められる時代の流れのなかで、今のような産業構造が固定化された国内アパレル産業は、淘汰されていく危険性すらあると感じています。

微細なキズまでもこだわる「日本のものづくり」がかっこいいと思うし、好きだからこそ、自分たちの時代で絶やすことはしたくなく、余計に危機感をもちます。

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移住初期に訪れたジーンズ洗い加工工場内の様子

そして、地域おこし協力隊という「内部でも、外部でもないような存在」として産地/工場と関わらせてもらい、教えてもらえたことや、感じられたことは、自分の口から、自分の言葉で伝えていかなければいけないと思いました。

だからこそ、語弊はあるかもしれないですが、大きなアパレルブランドをつくれるような自信は未だにありませんが、どこかの企業のなかで挑戦するのではなく「自分で」ブランドを立ち上げようと決意しました。

大きいブランドは目指せないかもしれませんが、これまでの産業構造とは異なるやり方(サーキュラーエコノミー)を追求しつつ、思い至るところをとことん"きちんとした"ものづくりで、「心地よく、長く楽しめる服」を届けていくことを約束します。

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池上慶行

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