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教室

そうたとさやかとこうすけは、窓の外から顔を出し、建物から続々と出てくる同い年くらいの子供を何も言わずに見下ろしていた。

「どうした?まだ帰らないのか?」

3人が振り向くと3人を担当している先生が優しい声色で話しかけてきた。

3人は先生をみた後、そうたは何も言わずにまた窓から外の景色を見下ろした。
さやかとこうすけはそうたを見てから、同じように何も言わず、窓の外を見下ろした。

「なんだよ、みんなして先生を仲間外れにするのか?」

そういって先生は窓際にいる3人に近づき、小さな3人の上から窓を覗くようにして3人が見ている下の方に視線を落とした。

するとさやかが少し後ろにいる先生を見上げて、先生の手を握って同じ場所に引き寄せた。そして様子を伺うようにして反対側にいるそうたをみてからこうすけを見た。こうすけも同じようにさやかを見て、さやかとは反対の方の先生の手を握って、窓の外をみるのをやめた。

先生は小さな2人の様子をみて、俯きがちに窓に顔を出して外を見下ろしているそうたをみた。

「もうすぐ暗くなるから、帰らないと」

そう言って先生は小さな2人の手を握り返すと、さやかが先生のお腹辺りをポンポンと叩いてしゃがみこむように促した。

先生がさやかと目線が合うぐらいにしゃがむとさやかは自分の顔に手を添えて小さな声で先生に耳打ちをした。

「今、下に降りたら、だいきに会っちゃうからダメなんだよ」

それを聞いて、先生は子供たちが下に降りたがらない理由を察して、困ったような笑顔を浮かべて、しゃがんだままさやかとこうすけの頭を撫でて「わかった、先生に任せて。ふたりは帰って大丈夫だよ」と言った。

さやかは先生を見つめて、後ろを振り返り俯きがちに窓をのぞくそうたの後ろ姿をみて、さやかの様子を伺うようにしてさやかの横に立つこうすけの手を握った。

さやかはこうすけに「せんせいだもん。大丈夫」と言い聞かせるように言って、先生を見つめた。先生はさやかを見てうなずくとさやかもうなずいて「せんせい、さようなら」と言って歩き出した。つられるようにしてこうすけも挨拶をしてふたりで教室から出て行った。

大きすぎるランドセルを背負うふたつの小さな背中越しに「気をつけて帰るんだぞ、また明日ー」と声をかけて廊下を曲がってふたりが見えなくなるまで見送ると先生は外を見つめるそうたに近づいた。

そうたはさやかとこうすけの2人に比べると大きくてひょろっとしている。

「だいきは出てきたか?」とそうたの隣にきて話しかけたと同時にそうたが勢いよく、窓から出していた顔を引っ込めて外から見えないようにしゃがみこんだ。

先生が窓の外を見下ろすと、外には仲間を引き連れただいきがこちらをまっすぐ見上げてニヤニヤしていた。

先生が床に縮こまったそうたをみてからだいきに手をふると、だいきは笑うのをやめて真顔になって睨みつけるようにして見上げた後、静かに中指だけを立ててその手を上にいる人間に見えるようにしてかかげ、嫌な笑みを口に広げた。

それをみて周りにいるだいきの仲間たちは「ヤバ」という声とともに冷やかすように声を上げてケラケラ笑った。

にこやかだった先生が真顔になる。

するとだいきはかかげていた手を頭の後ろにやって子供らしい明るい笑顔を浮かべて明るい声で上にむかって「いつもの場所で待ってるからなー早く来いよー」とまるで遊びを約束したように無邪気な声をあげた。

そして後ろにいる仲間に合図をするように両手をあげ、指揮者のような手振りをして前進すると、仲間たちは一斉に「ほーだそーた、ほだそうた」とすました顔を作って変な歌を歌いながらだいきについて歩く。そして上にいる人間から見えなくなったあたりで爆笑の声が聞こえ、かけていく足音がどんどん遠ざかって行くのを聞いて先生は鼻からため息をするように空気をはいた。

耳を塞いでしゃがんでいたそうたはその場に体育座りをして床を見つめていた。

先生がひざまずいて、そうたの肩に手をおこうとした時にそうたは静かに立ち上がった。

「そうた」と先生は声をかけたが、そうたは近くの机に置いていたランドセルを背負って少し駆け足で教室を出た。

先生は心配そうな表情を浮かべながら、教室に立たずみ、そうたの姿を目でおって、見えなくなったあたりで思い出したように「また明日なー」と最初だけ声を張り上げて尻込みするように声を出した。





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