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映画「貞子DX」を観たが……

一言で現すならば「とてつもなく苛つく映画」だった。
MX4D対応のためなのか、頻繁にデカい音を立てる、意味もなく机を叩く、毎回出会い頭に人にぶつかる。
そして登場人物が話を聞かないやつで話題を脱線させまくり。
何より「貞子」をただのモンスターとしてしか扱っていない。

ネタバレにならないように書くと結構難しいので、もしこの先を読む場合はそれを覚悟してほしいです。

 ↓ ↓ ↓ ↓ ネ
 ↓ ↓ ↓   タ
 ↓ ↓     バ
 ↓       レ

この映画の着想はおそらくコロナウィルスの脅威を貞子の呪いに置き換えたことにある。
もうこう書くだけで、結末の着地点がなんとなく見えてくる人もいるのではないだろうか?
貞子も呪いとウィルスが結びついたものだ。
ウィルスならワクチンがあり、免疫がある。
そしてウィルスは常に変異するので完全根絶は難しく生活の中でうまく付き合っていくしかない……そう「Withコロナ」である。
このシナリオの本筋自体に私は異を唱えようとは思わない。
だが「ホラー映画を茶化してギャグにする」という姿勢だけは許せない。

そもそも「リングシリーズ」ではなく「貞子シリーズ」という物になってから貞子はただのモンスターとして扱われるようになり、「リング」「らせん」で扱われていた「完全な女でないがゆえに子を残すことができない悲しさを、呪いの増殖というゆがんだ形で成し遂げた」という心の闇の部分はどこかに失せた。
単に「観たら7日後(本作では24時間後)に死ぬ」だけを使っている。
だからモンスターとして異形の動きをする滑稽なキャラクターとなり安っぽい。

貞子以外でも最近の若者を描きたいのか、主人公が呪いを解くために知恵を振り絞る横でそれを邪魔するようにずっと喚いているメイン登場人物がいる。
そして何かと突然大声を上げたり、机をバンッと叩いたりする。
その突発的な行動だけが観客を驚かせるだけで、全く怖くない。
むしろイライラしてくるだけ。
役者は見事にこの台本を演じているので、こんな台本を書いたり演出を入れようとした監督の思考を疑う。

静と動、緊張と緩和はシナリオの盛り上げには必要な要素だ。
だが本作はこの静と動を数秒刻みで行うだけで全く計算されていない。
そりゃ、人は突然大きな音がすれば身構えるのが当然である。
それをホラーと言い張るのは如何なものか?

スタッフロールに絡めたラストシーンに至っては大量の呪いたちが奇っ怪ダンスを始め、もはや半笑いでしかない。

まだ「貞子vs伽椰子」の方が良かった。
あれは両者をモンスターとして扱うことを前提にしていたし、モンスター同士の対決シーンはアレしか描きようがないと納得もできる。
そしてそうなるようにちゃんとお膳立てしていた。

同じく怪物を扱った「13日の金曜日」や「ハロウィン」は現代に合わせてちゃんと内容を変えつつ、見事な映画として続いている。
貞子という存在を軽々しく扱わず、ホラーとしての本質である呪いとそれを残した者の負の面をしっかり描けば良かったのだが、これではコンテンツを潰すだけだ。
クリエイターの端くれとして、本当に残念でならない。

ゲーム業界に身を置いたのは、はるか昔…… ファミコンやゲームボーイのタイトルにも携わりました。 デジタルガジェット好きで、趣味で小説などを書いています。 よろしければ暇つぶしにでもご覧ください。