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ショートショート集

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自作のショートショート集です。
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#小説

短編SF「残されたものたち」

短編SF「残されたものたち」

 その会議室には余計な調度品はなく、ただ中央に無機質なテーブルだけが置かれていた。床に塵一つなく清潔ではある。だが、やはり全体としては清潔さよりも無機質という印象のほうが目につく。一方の壁には丸い窓があり、そこからの光が部屋の中央に置かれたテーブルを照らしている。
 窓の外に目を向けると、白く渦巻く大気に一部を覆われた青い星が大きく見えている。地球だ。窓の外に地球を眺めるこの人工的な部屋は、地球の

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ショートショート「桜の下」

ショートショート「桜の下」

「なぁ……」
「ん?」
「俺さ、思い出したんだよ」
 沙織の葬式の帰り道、それまで黙っていた亮がやっと口を開いた。
「何をだよ?」
「昔のこと」
「だから何をだよ?」
「うん……」
 やっと口にした物の、まだどこか躊躇っているように亮は言いよどむ。
 頭をかきむしり、懐から取り出した煙草に火をつける。そしてまた黙り込んでしまった。僕にはそれを見守るしかなかった。
 ときおり僕の方に目を向けるが、ば

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ショートショート「車内で見た霊」

ショートショート「車内で見た霊」

 幽霊が夜に出るものなんて、誰が決めたんだ?
 奴らは時間も場所も関係ない。夜に目撃談が多いのは、人間の暗くて視覚が発揮できないからそれ以外の感覚……つまり霊感が鋭くなっているからというだけだ。

 通勤電車の朝の混雑時なのに、不思議に席が空いてるのを見たことがあるだろ?でも、誰も座らない。理由は見えてないだけで、ヤツが座っているからだ。見えなくても、本能的にいるのがわかってるんだ。だから、誰もそ

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ショートショート「交差~あるいは離別する縁」

ショートショート「交差~あるいは離別する縁」

 その日は年の瀬にあってもマフラーがいらないほどの暖かな日だった。だがそれは陽のあたる場所にいるときの話であって、日陰に入れば寒さは身にしみる。公園のよく目立つ位置に孤独に立ち尽くす時計は公園の規模に見合った白いポールの簡素な丸い時計で、その針は午後二時半を告げていた。
 公園から通りを隔てた建物の二階にあるファミリーレストランからは、まるで罰で儲けるようにポールに掲げられた時計が寒風に耐える様が

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