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「役に立つ」にフォーカスする|心理的安全性のつくりかた

読者が選ぶビジネス書グランプリ2021において、マネジメント部門賞を受賞した、石井遼介氏の「心理的安全性のつくりかた」を読んだ。数年前からパフォーマンスが高い組織の特徴を表す、キーワードとして「心理的安全性」は何度も目にしており、概要は知っていた。本書には、具体的にどのようにすれば心理的安全性のあるチームを作り上げられるかが平易な言葉で具体例と共にまとめられている。

以下、備忘録がわりに私が気になった点をまとめておく。

心理的安全性とは

本書において、心理的安全性は以下のように定義される。

「チームの心理的安全性とは、チームの中で対人関係におけるリスクをとっても大丈夫だ、というチームメンバーに共有される信念のこと」
「メンバー同士が健全に意見を戦わせ、生産的でよい仕事をすることに力を注げるチーム・職場のこと」

また、「対人関係のリスク」とは、何か行動すると「『無知』『無能』『邪魔』『否定的』だと思われるかもしれない」という不安を感じる状況のことであり、このリスクによってチーム貢献のための行動にブレーキがかかってしまうことである。

心理的安全性は、上記のような対人関係のリスクをとれる状況つまり、チーム全員が、健全に意見を戦わせ、チーム貢献のための行動を余すところなく発揮し、結果的にチーム全体の創造性や生産性を高めることにつながる。

心理的柔軟なリーダーシップ

本書では、日本における心理的安全性が高い状況を計測する因子として、「1. 話しやすさ」「2. 助け合い」「3. 挑戦」「4. 新奇歓迎」を挙げている。また、心理的柔軟なリーダーシップによってチーム行動を変え、これらの因子をより良い方向に変え、組織のカルチャーとして根付かせていく方法が書かれている。

心理的柔軟なリーダーシップの要諦は、その状況や文脈において「役立つ」ことに集中するということである。私の解釈であるが、自分自身を含むチーム全体を「システム」と捉え、本質的に役に立つことは何か?を客観的に見極め、突き詰めていく姿勢が重要と思われる。その場の感情や、これまでの経験による先入観などに支配されるのではなく、一歩外側からチームの現状を客観視し、その場でチームが良い行動をとれるように導くものといえる。

本書にあった内容としては、イヤな気持ちはコントロールするのではなく、それを受け入れた上で、前向きに、すべきことにフォーカスする。思考、感情、記憶をもつ自分を受け入れて、俯瞰して捉え、客観的にチームの行動を是正するように振る舞う。感情的になって、その場でメンバーを叱責して気を晴らしても最終的にチームの行動が変化しないのでは意味がない。自分自身の行動や反応の結果、チームはどう変わるのか。より良い行動がとれるようになるのか。これを実験的に色々と試してより良いチームへと改善していく、学習し続けるチームとなることが重要なのであろう。

行動を変えるスキルとしては、きっかけ、行動、みかえりという行動分析の方法が紹介されている。これは人工知能の分野における強化学習とも通ずるフレームワークであるため、理解しやすかった。行動に対して、どういう「みかえり」を与えるべきか。原則、ペナルティによる行動変容ではなくて、ポジティブな報酬を増やす、というみかえりによって行動を変えるべきとのことである。

行動と品質の分離

「行動」と「品質」は分けて考えるべきであるというのも納得がいく内容であった。例えば、報連相という行動自体は良いことであるが、その報告内容が困ったものである場合、報連相という行動自体を減らすようなリアクションをとってはいけない。その場では、報連相という行動が強化されるように、ポジティブな反応をすべきというものである。それとは別に、作業品質向上のためのスキルアップはプロンプトという手法を用いて行うべきというのが本書の主張である。

まとめと意気込み

不確実性が高く、複雑性な状況において、様々なチームメンバーの様々な意見を健全に戦わせ、より創造的かつ生産的な価値提供を実現するための手段として、組織に心理的安全性というカルチャーを注入することは、多方面でその効果が証明されている。なので、要否判断というフェーズはすでに終わっており、いかに早くこれらのカルチャーを醸成するか、というフェーズであろう。

しかしながら、本当にあらゆるチームにおいて、心理的安全性という特性が即座に機能するのか、というのは懐疑的な面もある。例えば、著しくスキルが低いメンバーがいる場合は、個の意見をどこまで取り入れるべきか(意見のある数名の意見を聞くだけで十分であろうが、中長期的にはカルチャーとしては全員の意見を受け入れるべきであろう)、高度なスキルをもつ優秀な社員に仕事が偏ってしまい多忙につき話しやすさなどが向上できない(短期的なチームのパフォーマンスとしては優秀な社員がタスクに集中できる環境が重要であろうが、リソース調整などで過負荷な状態を是正し、チームの心理的安全性を高めた方が長期的には意味があるのであろう)、などである。

今後、その中長期的な効果を把握しつつ、着実に心理的安全性のカルチャーを醸成していきたい。

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