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4月から働く新人心理士にエール

どの業界でも4月は新人がきたり異動があったりで落ち着かない時期になる。幸か不幸か同じ職場にとどまる方もいると思うが、そんな人も新しい顔ぶれに気持ちが少し浮つく。
この新年度の独特の空気は春らしくて新鮮味と少しの爽やかさを私は感じる。もちろん、新しい場所や人で気分も上げて仕事をすることもあり疲れる面もあるが、これを含めての春なんだろうと思っている。

今回はGW前に新しい仕事に気落ちをしているかもしれない新人心理士に余計なお世話としてのエールを送りたい。

前任者と自分を比べない

心理士の春は領域によってさまざまである。
スクールカウンセラーに代表されるような心理士ひとりの職場では案外お客様扱いをされて、最初の方は上げ膳下げ膳の状況になりやすい。ただ、それに胡坐をかいているとあとで痛い目に合うのはお約束だったりする。(痛い目というより仕事がない時間が増える)
精神科に代表されるような心理士が複数人おり、近い職域の他職種とチームで働く職場の方が一般的な流れに似ている。軽く研修を受けて現場で対応しながら先輩やリーダー、もしくは利用者や患者にレスポンスをもらって修正していく。
そして、どのような職場でも前任者からの引継ぎというものを受けることが多い。直接話をしながら引き継げることもあれば、書面上であったりメールや電話でのやりとりで終わることもある。そして、実際に相談者と出会っていく。
様々な要因があるのだが、この引継ぎの相談が初っ端から上手くいかないと精神的にしんどいものがある。
まるで、前任者の対応に比べて自分の対応は劣っているかのように思える。実際にそれがどのくらい真実かどうかはわからない。前任者の終わり方や前任者が知らず知らずのうちに与えていた影響とのギャップ、空いた期間での変化など自分がコントロールできない要因も多くある。
もちろん、それらを踏まえた上での反省として自身を見つめ直す作業も大切であるが、エネルギーをかけすぎないことの方が経験的にメリットが大きいと感じている。
これがひとり職場であれば、ここまでの思考をおこない何とか折り合いをつけて仕事をこなしていく。先輩や同僚などがいる職場であれば、基本的にはフォローや慰めがあるだろう。
どちらにしても前任者の対応と自分が出来ることを比べることはあまり良い方略ではないと考えている。
あえて意識するなら相談者が前任者との間で納得できていたことと納得できていなかったことの洗い出しは新任としておこないやすいと考えている。
そこから自分なりの支援を積み立てることになると思っている。

自己研鑽の難しさ

ありがたいことに最近は資格取得見込みでも常勤で雇ってくれる職場も増えてきた。それに伴い従来のカウンセリングや検査以外の活躍を期待されることも多くなった。
分かり易いのは放課後デイサービスでの心理士の雇用である。放課後デイサービスといっても内容は多岐にわたる。ひとつの分類としては預かり型とトレーニング型がある。
預かり型はある意味では学童保育などと似ており、子どもにとっての居心地の良い場所の提供が一つの目的になっており、その為には困り感のある子どもに対して的確なアセスメントを行い、安心感をもって他者と交流することができる空間を構築する必要がある。
アセスメントやその場その場の対人関係のフォローに対して心理士の活躍を期待されていると考えられる。
トレーニング型は放課後デイサービスの特色や理念に大きく左右されるが、その理念の下で行われるトレーニングプログラムの作成のために子どもの専門的理解が求められていると考えられる。
このように専門性からのアセスメントは心理士のスキルとして考えられており、カウンセリングや検査以外でもそのスキルを活用することを期待されている。
しかも、それは週1日の時々来る専門家としてのポジションではなく、毎日いる職員として必要とされていることに心理士のニーズが増えていると感じさせられる。

ただ、アセスメントスキルはなかなか厄介だと感じている。なにが厄介かというとひとつに自己研鑽が難しい。もちろん、経験を積めば少しずつ磨かれていくものではある。また、研修会にも参加することもあるが、放課後デイサービスに代表されるような施設型の職場では自分の職場事情にフィットするような話が聞けるのは稀であったりする。
そういう意味でも研修会はコスパが悪く感じて足が遠のいてしまい、自己研鑽の機会が持てない事態に陥りやすい。
すこしお金を出してスーパーヴィジョンの選択肢もあるが、先生によるとカウンセリングや検査についてなら対応するが、施設型の動きの話は聴けないと考える人も少なからずおられる。もしくは自分自身でも働き方がスーパーヴィジョンに持っていけるものではないと感じて選択肢から消している人もいるのかもしれない。
手軽で効果が高いのは先輩や上司と徹底的に疑問点を話し合うことが良いと思われる。ただ、これが何らかの理由でハードルが高い場合は次点でおすすめしたいのは大学院の同期などとの勉強会と思われる。
別に畏まった勉強会にせずとも試験勉強を一緒にする流れからの仕事の中で感じたこと考えたことを話し合ってみるといい。
的確なアドバイスをもらえるわけではないが、自分の考えの整理とそれが客観的に感じられるかというフィードバックを得て、さらに思考を深める流れが生まれる。そこから職場で試行錯誤が生まれてアセスメントスキルが身についていくと思われる。

ミスの特効薬

とはいえ、4月からいきなり重たいケースを持つことや緊急事態を新人が対応することは少ないだろう。基本的には新しいことの連続に生活を順応させることの疲れだと思われる。
なので、結果的にGW明けるまでは具体的な困り感は少なく不定形の焦燥感と上手くいかなさと戦っているうちに終わる。これに関しては先輩も上司もあえて口を出さないことが多いので、周りが全く憎く感じるかもしれないが、正直なところ独り相撲なので放っておくしかないと微笑ましく思われている。
ただ、仕事を重ねていくうちにトラブルがやってくる。これは完全に自分のミスであったり、偶然であったり原因は様々であるが、どうも自分の手元で爆発したことだけがわかる。
結論をいうと、あなた一人の力では対処できない。
なので、さっさと上司に報告しよう。この時のポイントは包み隠さず状況を伝えよう。ただ、十中八九、あなたの説明は上司にとって情報が足りていない。もしくは余計な情報が多すぎて状況がクリアに見えない。
ここでイラっとする上司もいるかもしれないが、責任を取ってくれる代だと観念してイライラされながらもヒアリングに答えよう。
優しい上司ならば、イライラを見せずに淡々と大事なポイントを聴いてくれるのだが、これは運である。
逆に全く不必要な思考は自身の保身である。これで情報を歪めることは上司や先輩のフォローが上手くいかない原因にもなり、ひいては利用者の不利益になり施設の信用を無くす行為になる。保身で情報を歪めることだけはやめた方が良い。
ミスをしてしっかり情報共有を針の筵に耐えて出来たのならば、ほぼほぼ新人の仕事は終わりだと思っていいだろう。
あとは申し訳なさそうな顔をして、上司の指示をしっかりきいて仕事をするしかない。ことがひと段落したら改めて謝罪と感謝をして終了である。
ちなみに同じミスをすることは推奨されないが、大概はするので、前回のミスの対応を活かすしかないので上司のフォローの動きは可能な限り見聞きすることが大切になる。
なにはともあれ、ミスの特効薬は迅速な上司への報告である。それがどうしても出来ない時こそ心理療法の知識を自身に使って、報告できるようなセルフケアをしよう。

まだ読めない業界の動き

前述したが、心理職の常勤が増えてきた。心理士の仕事もそれほど増えないと言われていたが、そこそこ増えていると感じている。
業界にそれほど長く居ない私ですら業界の変化を感じている昨今では、今後の予想もなかなか難しい。ただ、昔から増えない増えないと言われつつも増えてきた心理の仕事。少しは希望を持てるかもしれない。
最近の求人を見る限りでは、常勤職を手に入れた新人の心理士も多いと思う。そこからどのようにライフプランを立てるのかは私も興味がある。同じ場所に何十年も勤め上げる心理士がどのように地域や業界に影響を与えるのかは気になるところである。
もちろん、大学教授やカウンセリングルーム、公的機関での心理士はそのような人は今までもいたが、民間の施設でそのように長く働く心理士の姿はこれからの姿のように思える。
そのような人たちが、今後どのような知見を得て経験を積み、どのような支援を編み出していくのかは興味が尽きない。
今までの心理業界は大学教授などのトップダウンのスキルの受け渡しが多かった印象だが、これからは各地域、各職場ならではスキルが生まれるのではないだろうか。その先駆者は今の新人だと感じている。

また、新しく出てきている心理職の募集は新人からすると良い待遇が多い。当たり前だが、昔から心理職を募集している職場はなかなか厳しい条件である。それ故に最近は避けられる傾向になり求人票にずっと残り続ける。
今後、昔から心理職を必要としていた職場が待遇を上げて心理士を雇い直すのか、それとも心理職を雇わずになくなっていくのかは気になっている。
実際に身近なケースとして心理職が集まらずに困っている職場があり、経営側はそのままの流れで心理職を雇わない方向で動いたという話もある。
これは仕方ないことだろうが、心理職の現場が一つ消えるのは私としては惜しい思いが大きい。

話を戻すと、心理職の働き方や支援の仕方も少しずつ変わってきているのかもしれない。そこで新人として一から経験を積み、いずれ大成したときに心理療法にどのような広がりが生まれているのか個人的に楽しみであり、4月から心理職に就いた新人の方には自身の支援が将来の広がりの一つになっていることを覚えてもらえたら、今の悩みも無駄ではないことを感じてもらえたらありがたいと思っている。

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