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理論概要④ カウンセリングの誕生と発展

カウンセリングは社会的・経済的な変化を受けながら発展してきましたが、その主なルーツは1900年代前半のアメリカにあります。①職業ガイダンス運動、②心理測定運動、③精神衛生運動、という3つの社会的な動きです。


1.3つのルーツ

①職業ガイダンス運動

「職業指導運動の父」といわれるパーソンズの職業相談です。
 
19世紀末のアメリカでは、急速な工業化にともない経済的な発展が進む一方で、大規模な移民流入、過酷な労働条件で働く工場労働者の急増、失業や貧困の増加などにより社会的な混乱が起きていました。
 
こうした中、青少年の福祉や教育の重要性を訴える社会運動家が現れ、その一人であるパーソンズがボストンで職業相談を始めます。
1909年に出版された著書「職業の選択」で、自己理解と職業理解によるマッチングモデルを提唱し、現代カウンセリングの創始者とも言われます。

その後、学校における教育活動の一環として、職業ガイダンスの形で広がっていきました。

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②心理測定運動

もう一つは、20世紀初頭に人間の「個人差」についての研究=差異心理学が注目されたことによります。
これにより個人の差異を測る「測定法」への関心が高まります。心理テストの元祖と言われる「知能尺度」がフランスで開発され、1916年には、スタンフォード・ビネー知能検査が広まります。(*1)

第一次世界大戦ではアーミーテストの開発、戦後には産業界のため各種検査が開発され、とくに1930年代以降、職業指導の有力なツールとなりました。

③精神衛生運動

精神衛生とは、「精神障害の予防およびアフターケアと,人々が安定した精神生活をおくれるように取計らうことの2つの意味がある」(精神衛生とは - コトバンク )とのこと。

その運動は、1908年にクリフォード・ビアーズが、著書を発表し、精神衛生協会をつくったことに始まります。
彼は、自身が精神病院に入院した経験から、治療環境の改善、適切な治療を訴えました。
これに賛同した心理学者や精神科医らが運動に参加し、適応相談が盛んに行われ、その手法が研究されるようになります。

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2.カウンセリングの理論化

パーソンズが実践から編み出した職業選択の手法については、臨床心理学の研究者たちが検討を重ねていきました。1930~1940年代は、ヨーロッパからナチスの迫害を受けた多くの心理学者がアメリカに亡命し、心理学の発展に貢献した時期でもあります。

この頃ウィリアムソンは、パーソンズのマッチングモデルに則り、「指示的カウンセリング」と呼ばれる形に体系化します。これに対し、1940年代に現れたロジャーズは、「非指示的カウンセリング」の立場で来談者中心療法を提唱しました。(*2)

さらに、ロジャーズはカウンセリングと心理治療を厳密に区別せず、カウンセリングの対象を進路選択の問題から人間の成長、社会適応一般へと拡大していったとされます。
これも、アメリカにおいて青少年の適応が社会問題化していたという時代的背景があるようです。

少し乱暴なまとめになりますが、実践から生まれたパーソンズの手法をベースに、(差異)心理学者が開発した各種検査が加わり、(臨床)心理学者が進化させ理論化していった。これが、現在のカウンセリングの理論の基礎ができていった流れと考えられます。

3.社会的背景についての補足

3つの源流は、アメリカの激変する環境で、社会的要請にこたえる形で生まれ、統合されていきました。
もう少しミクロな地域社会や家庭生活のレベルでみると、多くの若者が工場労働者として農村から都市に出ていくことになり、価値観が変容していったという面もあげられます。
それまでの生き方のモデルでは解決できないことが増加し、親世代や地域の指導者、宗教家たちが相談相手となりえなくなった。そのため、専門家としてのカウンセラーが必要になった、ともいわれます。

また、伊東(1995)は、1930年代の動きとしてホーソン実験を取り上げ、この時の面接法はロジャーズの非指示的な手法と酷似していたこと、産業カウンセリングにも新たな展開が始まっていたことを指摘しています。産業心理学のほうにも動きがあった時期です。


(*1)1905年にフランスのビネーが知能尺度を開発しました。これをベースに、スタンフォード大学のターマン教授が、アメリカの子供用として1916年に「スタンフォード・ビネー知能検査」を完成させました。

(*2)ウィリアムソンの「指示的カウンセリング」では、カウンセラーが権威をもって進路を指し示す役割を果たし、最終的な進路決定を行うのはカウンセラーです。これに対し、ロジャーズは「答えはクライアントの中にある」として、決定権は相談者にあるとしました。キャリアコンサルタントであればご存じのお二人ですね。


参考文献

伊東博(1995)「カウンセリング〔第四版〕」誠信書房
渡辺三枝子(2002)「新版カウンセリング心理学」ナカニシヤ出版
一般財団法人日本職業協会HP キャリア・カウンセリング、ガイダンス そしてコンサルティングへ 

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