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小話③ キャリアコンサルティングと文化人類学(2)ーカウンセリングに対する日米の違い

前回もこのテーマで書きましたが、今度はちょっと違う角度からの話となります。

今の日本では、キャリアコンサルタントは供給過多の状況です。
というより、需要が少ないといったほうが適切かもしれません。
そもそも欧米のようにカウンセリングを受けるという文化がなく、カウンセラーやコンサルタントに対する懐疑的な見方も強いのではないでしょうか。

渡辺(2002)「新版カウンセリング心理学」を読むと、社会の複雑化などによりカウンセリングの役割は重要になるとし、アメリカにおける次のような現象がカウンセリングの発達に影響を与えたと書かれています。

①職業界と経済体制の複雑化
②生活様式の急激な変化とそれによる不安定感
③精神的支えや深淵の喪失
④大都市化による隣人への関心の希薄化と助け合いの精神の欠乏
(Tyler, 1969)

これは今まさに、日本で起こっていることでもあります。
①については、たとえば、非正規雇用の問題、働き方改革の影響、復業や複業の浸透、AIによる職業構造の変化予測などなど。
②や③は、コロナの影響で広がっていると思われます。
④は今に始まったことではありませんが、少子高齢化や「自助」に傾きすぎた日本社会が直面している問題ではないでしょうか。

こうした状況で、キャリアコンサルタントはその役割を発揮すべき時であるにも関わらず需要が増加しているとは言えないのが現状だと思います。

もちろん、キャリアコンサルタント側の問題など要因は多々あると思いますが、一つには、アメリカと日本の文化の違いがあるかもしれません。

アメリカでこれだけカウンセリングが発達した要因として、文化人類学的アプローチによる分析があります。
渡辺(2002)が紹介しているものを、そのまま転載します。

①社会的・物質的状態は常に改善し進歩させることができるという信念
人間は、自分の運命を自分で導けるという信念。したがって偶然や神秘主義ではなく、科学的手段をとろうとするし、行動することを重視する。
③人には皆、個人的に満足し、かつ社会的に有益な方法で自分を生かす機会がなければならないという機会均等の精神
未来の変化を信じる傾向。アメリカの価値体系では未来のことが中心となっているため、黄金時代は常に未来にあるという信念と、未来の変化をあてにする傾向、である。(Wrenn, 1962)

アメリカ文化圏において、カウンセリングは、ポジティブな未来をつかむための合理的な選択であり自分で道を切り開くための意思決定の手段、ということなのでしょうか。未来は自分の力で良い方向へ変えられる、という強い信念を感じます。
だからこそ、カウンセリングの精神である発達的視点、環境との相互作用、意思決定プロセス重視といったキーワードが活きてくるわけです。
日本人の感覚との違い、カウンセリングに対するイメージの大きな差異を感じます。

これが本来のカウンセリングだとすると、キャリアコンサルタントの養成コースで学ぶ内容は、発達的視点が弱い気がします。
もちろん、アメリカ式が是というわけではありません。
日本で必要とされるキャリアコンサルティングの形ってなんだろう、ということを、これからも考えていきたいと思います。

渡辺三枝子(2002)「新版カウンセリング心理学」ナカニシヤ出版

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