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理論概要⑥ カウンセリングと隣接領域

これまで見てきたように、カウンセリングの理論は臨床心理の領域で発展してきた経緯もあり、そもそも「カウンセリングとは?」「心理療法との違いは??」ということは繰り返し問われてきた歴史があります。

1.カウンセリングと心理療法

ロジャーズはこの二つを区別せず、両者の混乱の一因を作ったと言われています。わかりやすいと思うのが、渡辺(2002)の整理です。

カウンセリングと心理療法の相違点は、一般的に、①対象者、②問題の重さ、③費やす時間の長さ、で区別できるとされます。

スクリーンショット (43)

上記の表はその相違点を整理したものですが、これらはスタート時点で見極めることは不可能に近く、両者の相違は「実践者の介入行為に対する視点」にあるのではないか、と指摘しています。

すなわち、カウンセリングは、発達的視点にたって、成長と適応という個人の積極的側面に強調点をおき、環境の中で効果的に機能できるようになること、言いかえれば自立することを目的とする。
・・・(心理療法と異なり)、問題の除去で終わらず、その後の自立のための意思決定過程を重視する。

最近では、カウンセリングは主として「環境と交互作用する個人の側面」に焦点をあてるのに対し、心理治療は主として「個人の内的環境」に焦点をあてる、という重点の置き方の違いもあるとのこと。

発達的視点、環境との相互作用、意思決定プロセス、このあたりがカウンセリングの特性をあらわすキーワードになりそうです。
キャリアコンサルタント的には、なるほど!と腹落ちする解説ですね。


こうした議論は古くからあり、1970年頃は、当時考えられていたカウンセラーの範疇(*1)が拡大していったことで、心理療法との区別がしばしば問題となったようです。

アイオワ州立大学の心理学教授エドウィン.C.ルイスが示した両者の相違点として、「目標」の相違があります。

心理療法はパーソナリティの変容を狙いとしている。然るにカウンセリングは比較的特定の諸問題に焦点をおいているし又個人の現在の資源のより十分な利用を強調する傾きがある。

より具体的には、心理療法は克服すべき弱点に焦点をおき、クライアントの欠陥の除去や軽減などを目的とする。
カウンセリングは、開発すべき積極的な強さに焦点をおき、現在及び将来のために、現在あるがままの人間を信頼する、と書かれています。

やはり、カウンセリングは発達的視点を重視ですね。

繰り返しにはなりますが、整然と分類できるものではありません。ただ、この心理療法との違いをよく理解しておくことで、カウンセリングが目指すべきことがより明確になると思います。

2.カウンセリング理論とパーソナリティ理論

ルイス(1976)は、「厳密にいえば」と前置きしたうえで、以下のように説明しています。

カウンセリングの理論はカウンセリングのプロセスにおこる出来事(events)を扱うものであり、それらをパターン化あるいは構成的に概念化することで、カウンセラーの行動の役割を明瞭化しようとするものである。
一方で、パーソナリティ(の発達の)理論は、クライエントの行動を理解しようとするものである。

つまり、前者はカウンセラーに軸があり、後者はクライエントに軸をおいている。多くの学者が混同しているけれども、そしてたしかに密接な関係にあるけれども、両者は区別すべきものであるとしています。

ではカウンセリングの理論には、具体的に何が含まれるかというと、これは定義する人や時代によって異なるのかもしれません。

JILPTの「職業相談場面におけるキャリア理論及び カウンセリング理論の活用・普及に関する文献調査」では、カウンセリングの理論として、

ロジャーズ(基本的態度、クライエント中心療法)、フロイト(防衛機制)、アドラー心理学、交流分析、フォーカシング、構成的グループエンカウンター、応用行動分析、認知行動的アプローチ、ソーシャルスキル・トレーニング、コミュニテイー・アプローチ、ブリーフ・セラピー、解決志向カウンセリング、グループ・ファシリテーション、動機づけ面接、ポジティブ心理学、ナラティブ・アプローチ、

が取り上げられています。

これを見ると、カウンセリングのプロセスにおける技法の理論が中心ではありますが、クライエントの行動理解のための理論も入っているようです。
こちらもまた、理論の厳密な分類にそれほど意味はないかと思いますが、その違いから生じる結果を理解しておくことは大切かと思います。

パーソナリティ理論は対象がクライエントであり、研究をする専門家とは別の存在であるため、その専門家は(100%ではないにしても)、客観的に研究することができます。
一方で、カウンセリングのプロセスは、カウンセラー自身が当事者であるため、客観的な研究というものが難しい。

こうしたカウンセリングの理論に関する客観性の問題から、考えるべきことは二点あると思います。

3.キャリアコンサルティングと客観性の問題

その二点について、簡単に触れます。

一点目は、折衷主義についてです。

現在、カウンセリングの理論は多種多様に併存している状態です。どうしても主観的な主張を含んでしまうため、統一見解に収束していくのが難しいことが要因の一つと考えられます。

このため折衷主義が生まれてきたのですが、この折衷主義について、キャリアコンサルタントはよく理解したうえで活用する必要があると考えます。これについては長くなるため、また別途書きたいと思います。

2点目は、客観性の問題について、理論だけではなく実践におけるカウンセリングの評価についても強い自覚を持つ必要がある、ということです。

そのためには、やはりスーパービジョンが重要になってくると思われます。

キャリアコンサルティングも同様です。しかし現状では、一般のキャリアコンサルタントがスーパービジョンを受けるのは難しい状況です。これに関しては、宮城まり子先生も非常に危惧されています。(*3)

せめて最低限、自助努力としてできることは、理論をきちんと学び、自分の経験や特性に頼ったカウンセリングをしていないか、振り返りを行うことではないかと思います。

ではキャリアコンサルタントが学ぶべき理論とは何か。養成コースでは、どうしても基本的な知識を広く浅く学ぶことが中心となります。実践に使える学びが何か、考えていきたいと思っています。



(*1)ルイス(1976)は、過去にはもっと単純であったと述べています。
1930年代頃までは、心理療法は精神科医らの領域であり、精神分析と同義であった。一方でカウンセラーは、職業カウンセリング、結婚カウンセリングといったように、特定の問題の解決に重点をおいた。しかし、その背景に心理的な問題がある場合、カウンセラーはその範疇を超えていく必要が生じてきた。そのため、心理療法家とのすみわけが曖昧になり、区別についての議論が生じてきたとのことです。


(*2)そのうち、「信頼し得ない区別」として、クライエントの差異(精神的な病理を抱えているか否か)、実施者の差異(訓練水準の違い、例えば修士か博士か)、問題の厳しさ、などを上げています。これらは極端な違いがあれば区別し得るが、両方の面を持つ場合、あるいはその中間にある場合などもあり、判断基準としては難しい。
一方で「信頼し得る区別」としては、目標、テクニック、訓練の要件をあげていますが、双方の領域をまたがるものもあり、やはり明瞭な区別が難しい点も指摘しています。

(*3)法政大学キャリアデザイン学部 宮城教授「キャリアカウンセリングの現状とその課題・今後への展望」


参考文献

エドウィン.C.ルイス(1976年)「カウンセリングの心理学」関西大学出版・広報部
宮城まり子(2018)「キャリアカウンセリングの現状と その課題・今後への展望」法政大学キャリアデザイン学部紀要 (15), pp.83-100
渡辺三枝子(2002)「新版カウンセリング心理学」ナカニシヤ出版

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