見出し画像

理論概要② 人事心理学におけるキャリア理論

人事心理学のキャリアに関する理論は、職業心理学(*1)からの流れと組織心理学からの流れがあります。

1. 職業心理学の成立

職業心理学については、コロンビア大学のキトソン教授が、1925年に「職業適応の心理学」を出版したのが始まりです。「職業指導の熱烈な主張者であり擁護者」だったそうです。
彼の著作が、心理学を用いて職業指導を解説し、職業適応を論じた最初の総合的著作とされています。

このキトソン教授の指導を受けたのが、スーパー(Super,D.E)です。キャリアコンサルタントにとってはおなじみの理論家ですね。
1957年、スーパーがキャリアという言葉を心理学の分野に初めて導入し、「キャリアの心理学」を出版しました。

スーパーは、もともとは心理学を専攻していませんでしたが、YMCAで若者の職業相談を担当した経験から、職業心理学の道へ進んだとのこと。

そしてキトソン教授によるコロンビア大学の短期講座を受け、コロンビア大学大学院へ進んで研究の道に入り、臨床心理学、産業心理学、教育心理学、そしてガイダンスを統合するという構想を持ったのだそうです。

渡辺(2018)は、スーパーの根本的な関心はカウンセリングの実践にあったとしています。ガイダンスまで含めて統合するというのが、実務経験からスタートしている彼の特性を表しているように思われます。

スーパーはコロンビア大学で、ギンズバーグの研究チームの一員となりました。ギンズバーグは最初に職業発達の過程を理論化したと言われ、キャリアの理論においては晩年にその考え方を修正したのが特徴的です(*2)

このギンズバーグの理論を、スーパーが12の命題や職業発達段階などに発展させました。
ただし、ギンズバーグが精神分析的観点であったのに対し、スーパーは個人と環境の相互作用を重視する立場となります。

もう一つ、スーパーはエリクソンやハヴィガーストらの発達モデルを整理して独自の発達理論を構築したとされていますが、エリクソンは、フロイトの娘であり精神分析学者であるアンナ・フロイトの弟子です。

次の図は、精神分析的な観点と職業指導をスーパーが統合したことを表す関係図です。(点線で囲まれているのは、精神分析的な発達理論の提唱者です)

スクリーンショット (2)

発達理論については、精神分析の領域で研究されてきたものについて、ギンズバーグが職業と結びつけ、スーパーが昇華させたというのが、非常に単純化してはいますが、成立過程と考えられます。

労働政策研究・研修機構の文献調査報告にも、職業発達の理論について、


「エリクソン、ピアジェ、フロイト、ユングらなどの発達の理論のアイディアを取り入れているという。そのため、職業発達の理論を検討するには、発達の理論に立ち戻って検討すべきであるという(Vondracek, Lerner & Schulenberg, 1986)」

といった記載があります。

精神分析学における個人の生涯発達と、職業選択が結び付けられ、さらに職業発達の理論へと進化し、職業心理学の領域が確立されていった流れが見えてきます。


2. 組織心理学の成立

1970年代後半に、組織心理学や経営学の分野において、キャリアという研究領域が確立しました
「キャリア・ダイナミクス(Schien,1978)」、「組織的キャリア(Van Maanen,1977)」、「組織における心理学(Hall,1976)」が出版されています。

シャインは社会心理学の出自ですが、組織心理学の父であり、さらに経営学の領域へ進みました。現在は、X理論・Y理論のマグレガーの後継者としてMIT経営大学院で組織研究を進めています。

Van Maanen は、シャインの共同研究者です。

ホールもやはりMIT経営大学院に在籍しており、1966年に博士号を取得しています。シャインと同様に、心理学の分野における研究だけでなく、企業に対するコンサルティングも実施。

この流れを見ていると、組織心理学者たちは、経営学の組織行動の領域に進み、研究と実践を重ねていったようです。

それでは、経営学においてキャリア理論はどのような位置づけになっているのでしょうか。
次稿で詳しく見たいと思います。



(*1)「職業心理学とは」というところが調べた範囲で情報が得られなかったのですが、渡辺三枝子(2018)「新版キャリアの心理学」では、キャリア理論について、「職業心理学とカウンセリング心理学を礎としている」と説明しています。また木村周先生は、著書「キャリアコンサルティング理論と実際(2018)」のプロフィールに職業心理学者と記載されていました。

(*2)その一つを紹介すると、1950年代には「職業選択は、個人の欲求と現実的選択肢の妥協である」としましたが、のちに「職業選択は、個人の欲求と現実的選択肢との最適化の過程である」と修正しています。

参考文献

高橋浩ほか(2013)「社会人のための産業・組織心理学入門」産業能率大学出版部
独立行政法人 労働政策研究・研修機構(2016)「職業相談場面におけるキャリア理論及びカウンセリング理論の活用・普及に関する文献調査」
若林満監修、松原敏浩ほか(2008)「経営組織心理学」ナカニシヤ出版
渡辺三枝子(2018)「新版キャリアの心理学 第2版」ナカニシヤ出版



この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?