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【第16回】 シナリオ分析実践ガイドSTEP3-2:関連パラメータの将来情報の入手

前回のSTEP3-1で選択したシナリオの下で、自社にどのようなインパクトがあるかを把握するためには、インパクト試算に使うためのパラメータを入手する、という準備作業が必要になります。今回は、パラメータの入手について紹介します。

1.入手するパラメータとは

 パラメータは、STEP2の「リスク重要度の評価」において、重要度が大きいと判断した事業や製品等のリスクと機会に関連するものとなります。すなわち、リスクや機会に対する事業インパクトが大きく、シナリオ分析の対象に選定した事業や製品等に関連するパラメータを選んでいきます。
 シナリオ分析実践ガイドでは、「例えば、機会項目としてEV の普及を挙げている場合、分析時間軸の該当年のEV 普及率の情報を入手する、といった作業となる」という解説がなされています。この例からわかりますように、入手するパラメータは企業ごとにかなり異なると思われますので、個々の企業がパラメータを探すのは相応に負担のある作業になると予測されます。
 ただし、移行リスク・機会に対応するパラメータであれば同業他社、物理的リスクであれば、業種を問わず所在地が近い他社事例が手掛かりになると考えられます。シナリオ分析実践ガイドのAppendixには、環境省が実施したシナリオ分析支援事業において使用したパラメータが添付されていますので、非常に参考になるものと思います。Appendixでは、下記のようにシナリオ分析支援事業において使用したパラメータやツールを一覧としてまとめた上で、それぞれの文献やツールに関して詳細に説明されています。

【パラメータ一覧 まとめ】

出所:「TCFDを活用した経営戦略立案のススメ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイドVer3~」
(https://www.env.go.jp/policy/policy/tcfd/TCFDguide_ver3_0_J_2.pdf)

以下、シナリオ分析実践ガイドのAppendixの概要を紹介します。
 

2.移行リスク

 シナリオ分析実践ガイドのAppendixでは、シナリオ分析支援事業で参考にしたパラメータが、下記のように一覧としてまとめられています。

 【シナリオ分析支援事業において参考にした移行リスクに関するパラメータ一覧の例】

出所:「TCFDを活用した経営戦略立案のススメ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイドVer3~」 
(https://www.env.go.jp/policy/policy/tcfd/TCFDguide_ver3_0_J_2.pdf)

 また、出所に記載されている文献からどのようなパラメータが取得できるかに関しても一覧としてまとめられています。例えば、第13回「シナリオ群の定義」でご紹介したIEAのWEO2020に関しては、下記のように各パラメータと取得可能な時間軸、地域も併せて一覧化されています。

【IEA WEO2020パラメータ一覧の例】

出所:「TCFDを活用した経営戦略立案のススメ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイドVer3~」 
(https://www.env.go.jp/policy/policy/tcfd/TCFDguide_ver3_0_J_2.pdf)

3.物理的リスク

  物理的リスクに関しても、シナリオ分析支援事業で参考にしたパラメータが、下記の通り一覧としてまとめられています。

【シナリオ分析支援事業において参考にした物理的リスクに関するパラメータ一覧の例】

出所:「TCFDを活用した経営戦略立案のススメ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイドVer3~」 
(https://www.env.go.jp/policy/policy/tcfd/TCFDguide_ver3_0_J_2.pdf)

ま た、出所に記載されている文献やツールから、どのようなパラメータが取得できるかについても紹介されています。例えば、上記の表の「日本の平均気温」というパラメータの出所に記載されているWorld Bankの「Climate Change Knowledge Portal」における取得可能なパラメータは、下記のように一覧化して掲載されています。

【Climate Change Knowledge Portal(World Bank)パラメータ一覧の例】

出所:「TCFDを活用した経営戦略立案のススメ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイドVer3~」
(https://www.env.go.jp/policy/policy/tcfd/TCFDguide_ver3_0_J_2.pdf)

 この他に、多くの企業が日本中の様々な物理的リスクにさらされると思いますが、シナリオ分析支援事業で使用していないものも含め、日本における物理的リスクに関する文献・ツールが下記の通り紹介されており、参考になると思われます。

出所:「TCFDを活用した経営戦略立案のススメ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイドVer3~」
(https://www.env.go.jp/policy/policy/tcfd/TCFDguide_ver3_0_J_2.pdf)

4.留意点

 様々なパラメータが紹介されてはいますが、分析時間軸として設定した対象年度の将来情報が全て見つからないこともあり得ます。このようなケースの対応方法として、シナリオ分析実践ガイドでは、入手したデータを使用して推計する方法を例として挙げています。推計によりデータを補間することが適切な場合としては、分析時間軸のデータはなくても、その前の年度のデータまでは入手できる、といったケースが考えられます。

 これとは別に、推計のベースとなるデータそのものがないケースもありえます。シナリオ分析実践ガイドでは、このような場合においては、信頼性の乏しいデータを使って定量的な分析を行うよりも、定性的な分析を行う事が適切な場合もあるとしています。


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