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認知症の方が何度も同じことを聞く...これは「不安」の表れかも?

「もの忘れ」の症状といえば「何度も同じことを繰り返す」だと思います。
どうして何度も同じことを聞くのか?という疑問について、
記憶機能障害以外の面も含めて、一緒に考えていきましょう!

ボケと記憶障害は何が違う?

探し物や置き忘れ、予定を忘れていた、旅行先の出来事で思い出せない所がある。
日常生活ではよくあることですよね。

では「もの忘れ(ボケ)」と「認知症での記憶障害」の違いは何でしょうか?
会話形式で見ていきましょう。

もの忘れ
A 「旅行に行ったことは覚えているけど、お昼に何を食べたかな……」
B 「中華屋さんに行ったでしょ?」
A 「そうだった!一緒にラーメンを食べたよね」

認知症
C 「この前の旅行、楽しかったね」
D 「旅行?そんなの行ったかな」
C 「一緒に中華屋さんに行ったでしょ?」
D 「いや、行ってない。お家にいた」

違いがわかりますでしょうか?
もの忘れでは、旅行に行ったことは覚えていて、お昼のことも少しのきっかけ(ここでは中華屋さん)でしっかり思い出せたようです。
認知症の方は、旅行という言葉を聞いても、何も思い出せないようです。

このように、認知症の記憶障害では「出来事自体」を忘れてしまうのが特徴です。

なぜ何度も同じことを繰り返すのか

認知症の最初の症状としてよくみられる「記憶障害」。
「何度も何度も同じことを聞く」。これは、ご家族からよく聞かれる言葉です。
特に「日付」「予定」について何度も確認することが多いようです。

「今日って何日だっけ?」
「今日は何曜日?」
「この予定は明日だったかな?」

このように何度も確認するように聞くのは「不安の表れ」なのです。

突然ですが、少し想像をしてみましょう。
「何度も同じことを聞きたくなる」疑似体験をしてみませんか?

私たちが急に目隠しをされてどこかに連れて行かれたとします。
どれくらい時間が経ったのかわからず、目を開けると窓のない部屋でした。
怖くて、不安で仕方ないですよね。
私たちが真っ先に思い浮かぶことは、このようなことではないでしょうか?

「ここはどこ?」
「連れて行かれてからどれくらい経ったの?」
「いまは朝?夜?」

これに誰かが答えてくれたとしても、本当かどうかを確かめることはできません。
そして違う誰かに、もしくは同じ人に
私たちはまた「同じことを繰り返し聞く」のではないでしょうか。

認知症の方はこのような状況と同じなのだと、私は思っています。

私たちは記憶機能や見当識(自分がいまどこにいるか把握する能力)を使って、
常に「無意識に」いまの自分の状況を確認しています!

しかし記憶機能や見当識が低下している認知症の方は、
ずっと「いまの状況がわからないまま」なのです。

そして安心できないことにより、「同じことを繰り返し聞く」のです。
つまり「不安の表れ」ということです。

「聞いたことや内容を覚えていないからまた聞くんじゃないの?」と
思われるかもしれませんが、覚えていなくても、その情報が自分に必要でなければ
何度も繰り返して聞くことはありません。

それほど「いま自分がどこにいるのか」「今日はいつなのか」という情報は、
人間が安心して生活するために、とても重要ということなのです。

このような対応はNG!

ご家族の方からよく聞くのはこんなこと。
「これ以上悪くならないように、自分で考えさせるようにしています」
「今日は何日だと思う?と聞くようにしています」

認知症の方への対応を一生懸命考え、日々対応してくださっていることがよくわかります。皆さま本当に素晴らしい考え方をする方が多く、いつも感動しています。

しかし、自分で答えを出させるのはNG!なぜなら「誤りが誤りを呼ぶ」から。

認知症は現在の医療では治すことができません。そのため進行は避けられません。
つまり、障害されてしまった機能を回復させることは難しいのです。

すでに記憶機能や見当識機能が低下している状態では、
「今日は何日?」と聞かれても「わからないものは考えてもわからない」のです。

むしろ、考えてもわからず、答えも教えてもらえず「不安が加速」するだけ。
わからないから間違い、さらに焦ってしまい、また間違いをしてしまう
「負のループ」にはまってしまうのです。

なので、無理に考えさせることはやめましょう。
不安やストレスは「BPSD(行動・心理症状)」を引き起こしやすくなります。
(妄想・徘徊・落ち着きのなさなどのBPSDについてはまたご説明します。)

どのような対応を行えば良い?

認知症の方への支援として、ここでは2つご紹介します。

1.誤りなし学習(errorless learning)
 患者さまに試行錯誤させずに、あらかじめ正しいものを教えておくという方法。

 記憶機能障害に対してなら、
 「今日は何の予定があったか覚えてる?」のように患者さまに考えさせず、
 「そういえば今日は病院に行かなきゃだったね」というように答えを伝えます。
 「10時から着替えて準備しよう」などと声かけをするのもいいかもしれません。

 遂行機能障害に対しても有効です。遂行機能障害では自分で計画を立てて、
 段取り良く行動することができなくなります。
 たとえば「料理」。食材を用意して、効率よく行うためにまずはこれを切って、
 お湯を沸かしておいて、その間に……というようなことが難しくなります。

 「まずはやってみよう。何から切る?」ではなく、
 「最初にこの野菜を切ろう。乱切りでお願いね」と伝え、それが終わったら
 「次は野菜を煮込もう。鍋にお水を入れてくれる?」というように
 手順を1つひとつ教えると良いです。

 この方法は、患者さまの心理的な負担も軽減することができます。
 患者さまに任せると間違いが多くなってしまう場合、
 ご家族もついイライラしてしまいますよね。
 
 すぐには実践できないかもしれませんが、ご家族も患者さまも少しストレスが
 減るのではないでしょうか。

2.リアリティオリエンテーション訓練
 日本語では「現実見当識訓練」といいます。「訓練」という名前ですが、
 日常会話の中に組み込めるので実施しやすいものです。

 やり方は、日常生活の中で「見当識情報(日付などの情報)」を
 何度も会話の中に取り入れるだけ。

 ふとしたときに「今日は12月20日だね。そういえばもうすぐクリスマスだね」
 「今日は5月16日で水曜日だから、燃えるゴミの日だね」など、
 行事や日常生活の内容と組み合わせながら行うのも良いと思います。

 認知症の症状が重度になった方には
 「今日は4月16日だよ。暖かくなってきたね」のように直接的に伝えるのも
 良いと思います。

 すでにお話したように「見当識情報」は、安心して生活するために必要なもの。
 日付などを何度も確認する場合、不安になっている可能性があるので
 患者さまから聞かれるより先に、定期的に伝えるようにしましょう!


何度も同じことを聞く症状。すべてが「不安」とは限りませんが、
「もしかしたらいま不安なのかも?」と一度立ち止まってみてください。

認知症の方は「不安」という気持ちもうまく言葉で表現できない場合があります。
言葉に表せない気持ちが、症状や行動として現れている可能性があります。

私たち医療者にはわからない、ご家族だからこそわかる変化があるはずです。
その変化や行動を理解できないときは、遠慮せず私たち医療者に頼ってください!

ご家族の「不安」と患者さまの「不安」を一緒に悩み、
たくさん考えて、解決していきましょう!

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