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大きな大きな翼 高く自由に飛ぶ

子供が中学校を卒業して、県外の高校に進学が決まっていた。


3月の初めに、カーテンや、洗面具、布団など、買い出しに忙しくて、準備に追われながら、頼もしいなあと思っていた。



寮へ送り出す前日の夜。



バタバタとしていたけど、明日には送り出すので、好きなご飯を作ろうと。
夕飯を作り出した。


いつもと同じ作業。


いつもと同じ台所。


豚汁を作っている時、まな板の上に、ポタポタと涙が落ちる。

どうしても止まらなかった。


この子に、夕飯を作るのは次はいつになるのだろうと、思うと、涙が止まらなくなった。


小さい時から、今までを、振り返れば振り返るほど、涙が出る。


子供も、そんなわたしを見てポロポロと泣いていた。


母さん、ありがとう。

そう言って涙を拭った。


明日から、おはようもおやすみも、言えない。

明日から、歌声も聞こえない。

昨日までは、こんな気持ちになるなんて思いもしなかった。

自立するのは、素晴らしい。
こんなに、立派になってありがたいと、思っていた。


まさか、前日にこんなに、涙が止まらなくなるなんて思ってもなかった。



次の日。

寮へ送って、分かれの車の中で、もう少しだけ、家族でいたいなあって、少し寂しい顔をするのを見て、涙を我慢した。


今まで、どんな時も、あきらめず、一緒にやって来た。
わたしは、心から、この子を信頼している。


それなのに、顔を見ると涙が溢れそうになる。


車が、見えなくなるまで手を振る姿に、また、泣いた。


家に着くまで、どれだけ止めようと思っても、次から次へと涙が出た。


家に着くと、中はガランと見えた。



夫は、そんなわたしを見て、それは、とても大切な涙だから、たくさん泣いたらいいと言った。


次の日の朝、おはようとおやすみだけは、メールしようと思っていたから、おはよう、いってらっしゃいとメールした。


邪魔はしたくない。


何があの子の励みになって、何が邪魔になるのか。
それを、探していた。


最後に見せた顔が、わたしを見る顔が、頭から離れなかった。


どうしたら、わたしは、あの子の挑戦を迷いなく、応援してやれるのか。


洗濯をしては、涙が出る。

ご飯を作れば、涙が出る。

掃除機をかければ、涙が出る。


思い出という思い出が、あちらこちらに見えて、そして、最後の顔が頭に浮かぶ。


家事の手を止めて、


目を閉じて、あの子の背中に大きな大きな翼がついてるイメージをした。



とても大きい翼で、それをめいいっぱい広げて、高く高く飛んでいる。
自由に、高く高く飛んでいる。


あの子の、あの翼をわたしが握ればあの子は空高く飛べない。
握ってしまいそうな手を、パッと離すイメージを何度も繰り返した。


あれから、1年半が過ぎて、たまに会えた時の会話にドキッとする。



人付き合いは、何も言わずに尊重する事と、言葉にして伝えて向き合う事と、どっちも持っておく方がいいとか


あっちで、苦しい時、海を見てたら気付いたんだ
波は次が待ってる、一つの波に落ち込んでたら次の波は来ない
だから、こんな小さい波に悩んで立ち止まってはいられないと思ったとか


いつも自分の心に、ベクトルは向けてるとか


ああ、わたしは、あの時、この子の背中の大きな翼を握りしめなくて本当に良かったと思わせてくれる。



会う度に、驚くほどの成長を見せてくれる。



わたしも、負けられないなって、この子の言葉の意味がいつか、分からなくなるんじゃないかって、危機さえ感じさせてくれる。


子供と切磋琢磨出来る幸せ。



子供とは、未熟な人間同士ながら、お互いに精一杯の思いやりを持って生きている。


本当に、この一つの命に、心から感謝する。


そして、しっかりと自分の人生に向かって歩いている事に心から感謝する。




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