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「浦和レッズ三年計画を定点観測」~#35. 2020 J1 第28節 vsG大阪 レビュー&採点~

※こちらの記事では試合レビューに加えて試合後に行った三年計画に関する採点アンケートの結果を記載しています。採点アンケートの内容、意図については以下の記事をご参照ください。


両チームのメンバーは以下の通りです。

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◆4-4-2のズラし方(G大阪)

お互い4-4-2ということで、何もしなければがっちり噛み合う形になるためボール保持の局面ではどのようにズレを作ってボールを前進させるかというのが問われる試合となりました。

ガンバが行ってきた配置のズラし方については試合後の大槻監督のコメントを読んでいただければ十分ではないかと思います。

相手が藤春(廣輝)選手を少し外に出してきて、4バックの右からの3枚が中央にいく形で3枚ぽくやってみたり(※1)、27番の選手(髙尾 瑠選手)が高い位置を取ったら、29番の選手(山本悠樹選手)が下りてという形(※2)で、後ろから作ろうとしていたのは見えました。
そのような中で、そんなに慌てる必要はないと思っていましたので、前半は特に倉田(秋)選手が左からオーバーロードで右の方に行ったときに、ボランチの数が合わなくなって、トップが相手のボランチを消さないといけませんでした。あの時間帯はボールを握られ、距離感がよくつながせてもらえませんでした。

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この2パターンになったのは恐らく小野瀬が負傷交代したことが要因ではないかと思います。
※1は小野瀬が外レーンから縦に仕掛けたり斜めに入っていくプレーが好きな選手なのでスタート位置は外側になり、スペースを見つけてボールを受けられる山本が内側にいることでスムーズにボールを回せることで出来た配置で、
※2は福田が小野瀬よりも内側からプレーをする方がスムーズに試合に入れる選手であることと、ボールを捌くタイプの山本を外に出すよりはボールに関わりやすい位置で前向きにボールを持たせた方がボールを回しやすいというところから出来た配置ではないかと思います。

試合の序盤から小野瀬が退くまでの間は※1、29'14は一度髙尾の位置は※1のままで福田が内、山本が外となった形もありましたが、33'28は髙尾の背後にボールを入れられた流れで山本が外に出た状態からボール保持を始めたものの、ここで髙尾と山本がポジションをスイッチすると、それ以降は※2の形で落ち着きました。


また、「倉田(秋)選手が左からオーバーロードで右の方に行ったとき」というのは33'48以降の流れを見返してもらうと分かりやすいかと思います。

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このようにピッチの1/4程度のエリアで試合が展開され、浦和とすると狭く守りたいという意図とは合致していてお互いの守備アクションに対するスライドは早く行えるのでスペースを与えることはほとんどありませんでした。しかし、ボールを奪ってもガンバの選手も狭いエリアに集結しているため、集結したエリアの外までボールを蹴り出す余裕や走り込む時間はありませんでした。

結局、33'48以降のミニゲームのように狭い展開は倉田から宇佐美へのスルーパスが流れてゴールラインを割るまで1分半ほど続き、浦和は流れの中からはボールを奪ってからカウンターに出たり、落ち着いたボール保持の局面へ持っていくことは出来ませんでした。


◆4-4-2のズラし方(浦和)

ガンバの守備の特徴は宇佐美とパトリックの脇や背後のスペースを積極的に中盤の選手が縦スライドして埋めに行くことではないかと思います。これに対して浦和が試合開始から表現したのは、
(1)興梠やレオナルドはガンバの中盤(特に矢島と山本)の背後のスペースに下りてボールを引き出すこと、
(2)前節の神戸戦の前半飲水タイム以降に見られたような最終ラインに橋岡、山中、青木の誰かが状況に応じて入って2CB+1の3vs2を形成したところからビルドアップを開始することの2つでした。

まず(1)については、1'50にガンバがプレッシングに来たところで西川からのフィードを興梠が山本の背後で受けており、長澤が興梠が落としたボールを拾えるようにサポートに入る姿勢を見せています。

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また(2)についても、2'27に青木がデンの外側(パトリックの脇のスペース)に下りてビルドアップを開始し、倉田が青木まで出たところで青木に押し出されるような形で倉田の背後に回った橋岡までこれもまた西川からフィードが出ています。

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またこの場面でもフィードを受けた橋岡に対して前方向はマルティノスがスタンバイしていますが、長澤もボールが自分を越えると体の向きを変えて橋岡に対する横サポートの位置へ入って前向きにボールを引き取り、藤春の背後へ走り出した興梠へボールを送っています。

このように西川を含めて最終ラインで前向きにボールを出せる選手を作り、ガンバの中盤がプレッシングに加勢してきた時に中盤の背後、最終ラインの手前にボールを入れていくことを狙っています。そして、ボールを入れたところに対して、長澤や青木が素早く横あるいは後サポートの位置に入ることで前向きにボールを持つ選手を作り続けることを目指しました。

自陣でのポジトラ時も狙い場所は同様で、20'30に自陣でボールを拾うと即時奪回を目指して前がかりになるガンバの中盤に対して長澤とマルティノスがその背後を取り一気にガンバ陣内へ前進します。

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逆サイドを駆け上がった汰木までマルティノスがボールが出て、汰木のクロスにマルティノスが入り込みますが惜しくも合いませんでした。

ただ、ガンバの中盤の背後を狙うというのは最終ラインと中盤にギャップが出来ている時にという条件付きで、24'23に山中がタッチライン際かつパトリックの脇のエリアでボールをフリーで持つと一気に最終ラインの背後へ抜け出した興梠へパスを出したように、中盤の手前でボールを持てた時には最終ラインの背後を積極的に狙う姿勢も見せました。

25'52にセンターサークル付近は下図のようにガンバのプレッシングの矢印の根本を連続して利用することで最終ラインの昌子まで引き出すことに成功し、興梠が抜け出して決定機を作るところまで行きました。

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◆ハーフタイムの修正

「ハーフタイムで立ち位置を修正して、後半の頭から押し込む時間帯を作れたところはあったのですが」という大槻監督のコメントについて、具体的に見て行きたいと思います。

恐らくこれは守備での立ち位置についてではないかと思います。ガンバのビルドアップに対して構えるブロックを前半よりも高い位置に設定して、CBや矢島、山本のところへの規制を早めて行きました。ガンバはチームとしてのボール前進方法をあまり設定せず、流れの中でのポジションの取り方は個人の判断にゆだねられているので、浦和の前半からの変化に対してすぐに対応は出来ず、ボールの出しどころが詰まったら東口がパトリックを狙って大きく蹴り出すだけになりました。パトリックに対して槙野とトーマスデンはしっかり競り合ってボールを拾えていたのも大きかったと思います。

ガンバが押し返してきた中で、何度もカウンターでガンバのゴール前まで迫ったり、ガンバの中盤を越えたところで前向きにボールを出せる状態は作れていました。しかし、ちょっとパスがズレたり、シュートコースを消されたりと浦和としてはあとちょっとのところでゴールへ到達できないもどかしい時間が続きました。

これはガンバが中盤より前の選手は積極的にボールを奪いに行くので、最終ラインにはそれを裏返された時に割り切って中央レーンやゴール前というゴールまでの最短ルートを埋めることが徹底されていたことも要因かなと思います。

54'48~の山中→興梠→レオナルドで一気にガンバの最終ライン裏まで進んだ時も55'02にレオナルドがシュートを打った時にはゴール前のエリアにガンバの選手が8人も戻っており、さらに言えばシュートコースは矢島、山本、キムヨングォン、昌子が入っており、東口とすればシュートが飛んでくるコースは十分に予測できる状態になっています。
57'00に倉田→宇佐美のパスを青木がカットしてカウンターを仕掛けたシーンも内レーンをレオナルド、外レーンをマルティノスが上がっていく中、矢島とキムヨングォンはどちらも内レーンのレオナルドへのコースを塞いでいます。

オープン志向のチームではあるので、そうなった時にどこから守るのかというところについては優先順位をつけて守れているのがガンバが失点を少なく出来ている要因だと思いますし、一旦使わせてはいけない場所を消してそこから外に出された時には出て行って対応するという走力も素晴らしいです。


◆先制、すぐに同点、そして逆転

60'36に長澤がセンターサークル付近でボールを受けるとドリブルでパトリックを剥がしながら前進してから獲得したコーナーキックから浦和が先制。マルティノスの強烈なパスを見事にコントロールして裏に抜け出したデンへのピンポイントロブショットを送った山中のキックは流石としか言いようがないですし、これをボールを受けるときに体を浮かせてボールの勢いをしっかり吸収したデンのヘディングアシストも見事でした。

失点してすぐに奪い返そうと前がかりになるガンバ。そこを裏返そうと64'07には汰木がオープンになった中央のスペースをドリブルで駆け上がりマルティノスへスルーパスを送りますが、髙尾がしっかり中のスペースを埋めながら戻っていたためボールは通らず。

先述の通り、真っ先に戻るべき場所(相手に使わせてはいけない場所)はどこですか?というのをしっかり表現できているガンバ守備陣の対応が見事でした。こういうところで一気に追加点まで奪えると全く違う結果になったのではないかと思いますが、「特にガンバ(大阪)さんはずっと守備が堅いんですよね。1点差のゲームをものにしてきて、今日も1点差で持っていかれてしまいましたが、ゴール前のミドルサードのところに狙いをしていて、背後を取れたシーンもありましたが、最後はゴールに結びつけたかったです」という大槻監督のコメントの通り、この堅さは素直に褒めるべきでしょう。


そして、65'58にガンバが宇佐美のゴールですぐさま同点に追いついたシーンですが、ガンバは前半までと同様に浦和が狭く守ろうとしていてもそれを気にせず狭いスペースで攻撃を続けます。しかし、このシーンでは藤春がこの狭い展開の外で待っていて、山本はそこを逃さずにボールを通しました。

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浦和としては自分たちの左サイドで固めたところから逆サイドに振られて、ゴール前のゴチャっとしたところでほんの少しの隙間が開いただけでしたが、この隙間でやり切るのが宇佐美なんですね。槙野の股下を抜いたのが意図的かどうかは分かりませんが、シュートコースはほとんど消せていたのに。。


すぐに同点になったところでガンバは藤春に代えて川﨑を投入し、浦和も2トップを杉本と武藤に入れ替え。お互いにオープンな展開に備えて走れる選手を投入します。

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同点に追いつかれた浦和も前半からの試みを継続して72'20に青木を最終ラインに落として橋岡を前に押し出したところへ西川からのフィード。橋岡は川﨑の背後でボールを受けることで福田に対してマルティノスと橋岡の2vs1の状態を作り、ヘディングがスルーパスとなってマルティノスが抜け出すと中央へクロスを上げます。ニアに橋岡、中央に杉本、ファーに汰木の三段構えでしたが惜しくも合わず。

76'08~のカウンターでは汰木がタッチライン際から中央へ向かってドリブルで前進して逆サイドから中に向かって走ってきたマルティノスへパスを出しますが、中央へのスルーパスが欲しかったマルティノスと、相手と距離を取った状態から仕掛けることを想定して足元にパスを出した汰木の意図が合わず。

このようにちょっとのところでズレが起きて浦和は決定機の手前のところでつまずく展開が続きます。そして、79'35にゴールキックを跳ね返されたボールに対してデンが前に出た時にパトリックにうまく入れ替わられてしまい逆襲を受けます。ここで与えたコーナーキックからガンバが勝ち越し。デンと橋岡の間に髙尾に入り込まれてしまいました。73'50のコーナーキックでも間からパトリックに飛び込まれていたので、ガンバは人が入る場所、ボールを入れる場所については準備してきたのでしょう。そういえば8月の対戦時もコーナーキックからの失点でしたね。あれは準備してきたものとはいえ井手口のスーパーゴールでしたが。


冷静さを欠いた中で攻め急いだロングボールを多用した結果、91'45に槙野からのボールが伸びて杉本まで届きましたが、ここでも決めきれず。どちらが優勢でも劣勢でもなかったような内容でしたが、結果は今季初の逆転負けとなりました。

◆採点結果

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ガンバのオーバーロードを多用するフリースタイル的な攻撃に対して、より狭く守ることに終始した結果、なかなかボールを奪った時に相手が近くにいたこともあって守から攻への循環が上手くいきませんでした。

おそらく奪ったら興梠かレオナルドに一旦預けて逆サイドにSHを走らせて脱出することを想定していたとは思うのですが、この初手のところでつまずくことが多く、逆にそこが出来た時にはガンバのゴール前までボールを進めることが出来ました。
ただ、一気に前に進んでオープンになった時には後ろからの押上げが追いつかないので、攻から守への循環が伴うことは少なく、Q3については良かった場面もあったけど、そうでない方が多かったというところで2点としました。

また、Q6とQ7はガンバが積極的に前がかりに守備をしてくるので展開自体はスピーディになり、中盤を裏返すボールが入れられた時には短時間でフィニッシュまで行けていたと思います。ただ、ガンバの守備陣が中のエリアから塞いできたことによってなかなか決定機でのフィニッシュの場面は作り切れず3点としました。

非保持の項目については、前半はガンバのビルドアップに対してあまり前に出すぎずに対応していて、後半の頭からブロックの位置を高めに変更しました。そのため、「最終ラインを高く」という点については可もなく不可もなくという印象です。



さて、早いもので今季も残り4試合となりました。
昨年12月の三年計画が発表された場では2020年シーズンの目標は「ACL圏内と得失点差+10」でした。そこへの到達はほぼ不可能な状況になり、では残り試合にどういう意味合いを持たせることが出来るのか?ということが問われ始めます。

シーズン当初と比べれば、三年計画で掲げたプレーコンセプトが表現できる場面が増えてきて、結果こそまだまだついてきていませんが少しずつ内容に手応えを感じつつあります。そんな中、大槻監督が指揮を執る限りはここまで取り組んできたものを引き続き積み上げて行こうとするとは思いますが、ピッチの外が騒がしくなり始めた中で、来季を三年計画のエピソード2と出来るのか、また新しいサーガに移行してしまうのかは不透明な状況です。

ただ、たとえ大槻監督が今季限りになるとしても、今のチームがクラブとして掲げているプレーコンセプトに則ったものを表現しようとしていて、昨年12月に西野SDが発言したように定量的な指標で選手を評価しているとすれば、コンディション不良を除いて出場機会が少ない選手については入れ替えの対象になる可能性が高いのかなと思います。

中長期的な視点でチームを動かしていくのであれば、残りの試合も消化試合ではなく来季のための試合にすることが出来ますので、単にシーズン後のリクルートのための試合ではなく、このクラブがいかに発展していくのか、今季何を積み上げることが出来て、来季はそこに何を足すべきなのかを明確にするための試合になることを期待したいです。

次はアウェーの鹿島戦です。引き続き試合後にアンケートを実施しますので、Twitterで告知を見かけた際にはぜひ気軽にご協力ください。
では、また。

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