◆前書き
昨年も書いてきた1か月程度の間隔で試合内容や会見のコメントなどを拾いながらクラブが提示した三年計画、コンセプトと照らし合わせて考えていく「定点観測」シリーズを2022シーズンも行います。
◆10月/11月の戦績
9月の月報の最後に書いたことを今読み返すととても寂しい気持ちになりました。
10月は積極的なプレッシングを志向するチームとの試合が連続しました。その初戦となった広島戦ではそこに見事にはまってしまってルヴァン杯セレッソ戦から連続で4失点でした。
江坂、小泉が2トップ、松尾、大久保が両SHに入る昨年の同時期にも観たような形で臨みましたが、これが上手くハマった場面はほとんどありませんでした。
前線は2トップ、両SHに敦樹も加わってポジションを入れ替えることで相手の目線を外しにかかりましたが、そこにボールを届ける手前の段階であるビルドアップ隊のところで詰まってしまいました。浦和のビルドアップ隊は岩波、ショルツ、岩尾が2-1の形でスタートすることが多く、広島は3トップをそのまま当てはめることで浦和は最後尾で前向きな選手を作れずに苦戦しました。
後半の途中からはユンカー、リンセンを投入して前線に分かりやすくゴールへ向かっていくアクションを増やしに行きました。ただ、ゴールキックを手前から繋ぐ中でボールロストして失点するなど、結局手前から繋ぐために裏へのアクションを有効に使えなかったり、ビルドアップ隊がロックされ続ける状態は変わらなかったため難しい展開のまま試合が終わってしまいました。
広島戦が手前から繋ぐのか奥を使うのかの判断がばらけてしまったという反省もあって、この試合では少し判断をシンプルにさせたというか、より奥から使う意識を強めて臨んだように見えました。また、そのための仕掛けとしてWHの岩崎がSBの酒井まで縦スライドするアクションを利用しつつ、ジエゴが岩崎が空けたスペースへスライドすることを阻止するためのポジショニングがありました。
これについては前日の定例会見の中にヒントとなるような言葉がありました。
これを可能にした理由には広島戦の後半に引き続き起用されたユンカーとリンセンという明確に相手ゴールへ向かうアクションを続けられる選手を並べたことが挙げられます。
4-4-2をベースにチームを組む時も毎試合DAZNのスタメン紹介では4-2-3-1で表記されるようにCF型とトップ下型の組み合わせ(松尾と小泉、ユンカーと江坂など)を採用することが多く、それによってトップ下が下がり目にポジションを取り、CHの1枚(主に敦樹)が前に出ることで4-1-2-3へ可変していきました。
この形の長所は、静的なポジションを取るだけでもお互いが斜めの関係で結ばれるのでパスコースを作りやすいことと、2人ではなく3人の関係を(SB-SH-IH)(IH-CF-IH)(IH-アンカーIH)などで作ってポジション入替することで相手の目線をずらしやすくなること。
ただ、浦和の課題はCFの選手がこのポジション入替の輪になかなか入れなかったことだと思います。CFとトップ下の選手が一時的にでもポジションを入れ替えることはほとんどなく、ポジション入替は誰かが前に出て他の選手をどけるのではなく、誰かが手前に下りてきた時に元居た選手がそのエリアを明け渡して相手も引き付けようとするアクションが多かったと思います。
ショルツが前にグイグイ運んできたときに周りの選手が上手く振舞えなかったのも後ろから前の選手を押しのけるようなポジション入替の習慣が足りなかったからなのかもしれません。
そのため、裏へのアクションを起こせることは少なく、その結果パスの選択も手前が優先されるし、それによって相手は裏への恐怖が少ないので前向きに出やすくなるという循環が起きていたのではないかと想像します。
それならもっと早くユンカーとリンセンのように2トップを前に並べる形をやれば良かったのでは?と考えたいところですが、非保持での振る舞いを考えた時にユンカーは昨年発症したグローインペインの影響が残っているように見えたり、リンセンは7月のPSG戦で負傷していたり、そのポジションに適性のある選手へプレッシングを十分に期待できないジレンマがありました。
あくまでも4局面の循環を整えて試合を安定させること、攻守を分断させない、攻守に切れ目を作らないといったことへの優先順位がとても高いのがリカルドの特徴の一つと言えます。何か明確な長所があったとしても、短所がそれを上回る危険性が高ければそのリスクは避けてきました。昨年から何度もリカルドが言い続けてきたのは全員がシンクロすることであり、どこかのポジションだけが歪な形になることは望んでこなかったと思います。
それにも関わらずリカルドが鳥栖戦は試合の最初から8人プラス2人という状況を受け入れたのは、2試合続けて大敗した後だっただけに、明確な手を打って選手たちの目線を揃えたり判断の負荷を軽くしたかったのかなと。
8人プラス2人になることを受け入れる代わりに、保持では右SBの酒井を手前に残すことで保持と非保持のポジション移動を最小限に抑えて、出来るだけ4-4-2に近い形のまま試合を進めることを試みました。プレッシングが機能しなかったおかげで危なっかしい場面は何度もありましたが、それでも裏へのアクションがあったこととそこを早めに使えていたことで鳥栖のプレッシングの鋭さを制限し、後半は鳥栖の選手たちの足が止まってきたこともあって勝利を収めることが出来ました。
手前と裏のバランスを調整することで結果を得たという点で、その後の試合の結果次第では大きな転換点になりうる勝利だったと思います。試合後にはリカルドの苦心の一部が垣間見えました。
札幌戦ではユンカー&リンセンのセットを継続しました。試合序盤は札幌のペースで進みましたが、25分ごろからプレッシングで中盤を◇にするようなイメージで敦樹を押し出して高い位置でボールを奪う回数が増えると試合の主導権は浦和に移っていったと思います。
残念だったのはこうして高い位置で意図的にボールを奪ってショートカウンターを打てた時にゴールを奪うところまで行けなかったことです。結局、札幌にはほとんど決定機を作らせることはなかったものの失点してしまいました。PKで追いつけはしましたが、この試合では2トップのプレッシング強度の低さによるリスクに見合ったリターン(ゴール)は得られませんでした。ある程度ゴール前には迫れているのに決め切ることが出来ないという展開には「またか。。」という感じでした。
札幌戦の後はルヴァン杯、天皇杯の決勝があった関係で中断期間となりました。このタイミングでの定例会見は直近の試合が無かったこともあって、少し俯瞰した話が出てきました。この会見は全文を引用したいくらい2022年を振り返るにあたって大切なことがたくさんあったと思います。
横浜FM戦以降は雑感を書いていないので少し大雑把な振り返りになります。
まとまった時間があれば次の試合への対策を作れてきたのがリカルドの良さで、それは昨年秋のホームでの横浜FM戦で見せた4-5-1で非保持をベースにしたプレッシング&カウンターはその象徴的な試合だったと思います。
この試合では右SHの大久保が最終ラインに入ることをいとわない5-4-1かつ、ゾーンよりもマンツーマン志向の非保持で入りました。しかし、前半早々に手前に下りたアンデルソンロペスにボールをはたかれたところから一気に攻め込まれて失点するなど、用意した策が機能しないまま時間が進んでしまいました。
ただ、この試合に於いて用意した策がハマらなかっただけなのかというとそうとも言い切れないような気がします。自分たちの保持であれば次のポジションを取りに行く判断のスピードがマリノスと大きく違っていました。「誰がボールを持ったら~」では遅く、ここにボールがあるならこの経路で誰にボールが渡るという二手三手先のイメージが足りていないのか、単純に分かっていても次の一歩を出すのが遅いのか、そこは選手の頭や心の中にしか答えが無いので見ている側にはなかなか分からないところですが。
9月に引き続き、10月もなかなか状態を好転させられない中でついにリカルドの今季限りでの契約解除が発表されました。合理的かつしなやかに4局面を循環させていくリカルドのスタイルは浦和がどこを目指すのかということとは関係なく個人的な好みと合致していたので、この別れはとても悲しいです。ただ、この判断に憤れるほどの結果を出せていなかったのも事実なので、この別れは受け入れなければいけないとも思います。
発表の後に行われた定例会見でも再び結果が出なくなった時期から続投は無いかもしれないことを感じていたようです。
さらに、この会見でも直近の試合というよりはもっと広い期間を見た話やリカルド自身のサッカー観が見えるものでした。
また、クラブ公式では省略されていましたがフットボール本部の中でも今年は変化があったようなことも話しています。
そして、福岡戦は今年の浦和を象徴するような、手前でボールは持てるけどそこから裏へのアクションが少ないことで相手の守備ブロックを動かせずに攻めあぐねて引き分けてしまいました。
最終節ということで、ここでもシーズンを通しての総括のようなこともリカルドから話されています。
クラブによる編成、目標設定、そうしたところは三年間の総括記事の方で考えていきたいと思います。総じて見てみると、10月、11月は今シーズンの良くなかったところが再び表面化してしまった、寂しい1ヶ月となってしまいました。
◆コンセプトは表現できていたか
この2年間でリカルドによって強調され、成長したのは手前からボールを繋ぐときのポジショニングとそこから相手をずらしたり止めたりするためのアクションでした。ただ、プレーするのは人間なので、何かに対して時間をかけて積み上げるとそこへの意識が強くなって別の何かへの意識は弱くなります。
ゴールを目指すけど、そこは相手が埋めているからそのエリアを空けるためのアクションであるという順序であるはずが、手前から繋ぐことを優先的に積み上げてきたことによってサッカーの大前提である相手ゴールに近いところから目指すという意識が薄くなってしまったきらいがあると思います。
ダイレクト志向であってもポゼッション志向であっても、状況に応じて「結果的に」手前から繋ぐことが発生するのであって、裏へボールを出して成功する、あるいはそこでのネガトラで優位に立てる可能性と、手前から繋ぐことで優位に立てる可能性とを比べた時に、どれくらい前者のリスクを許容するのかという違いでしかないと思います。
ここのリスクをリカルド以上に選手たちが恐れてしまったのかもしれません。最終節も岩波や岩尾がオープンにボールを持っているのに前5枚が誰も裏へのアクションを起こそうとせずに手前でボールを受けたがっていた場面が何度もありました。
リカルドが徳島でやってきたことをそのままやって欲しくて彼を招聘した訳ではなく、だからこそリカルドにぴったり合った選手だけを補強している訳でもありませんでした。それでも、こうして選手たちがリカルドの色を強く解釈してしまったことで選手たちの良さも出なくなってしまうというのところにサッカーの難しさやマネジメントの難しさを改めて感じました。
これらの理由から【個】や【姿勢】の部分を評価することは難しいですし、【チーム】の部分もユンカー&リンセンを前に並べた時の攻守が分断されやすかった展開ではなかなか評価できないです。
さて、この後は2022年の総括、そして既に前提共有として3本アップしている三年計画の総括へと進んでいきます。どんよりした空気でシーズンが終わっていっただけでも気持ちが滅入ってしまいますが、クラブが変革を打ち出した中で起きた失敗に対して目を背けずに向き合わなければまた我々はすべてをリセットしてやり直しになってしまいます。
やるべきことは何が成功して何が失敗したのかを受け入れて、失敗した部分を少しでも改善できるように考えて行動に移していくことでしかありません。
最終節の試合後の埼スタの雰囲気もそれぞれが自分の中にある正義を表明しているだけで、それらがバラバラの方向を向いている寂しさがありました。僕がこれを書くことが誰の何の役に立つのかなんて分からないし、誰のためというより自分の頭の整理のために書いているので偉そうなことは言えませんが、2023年以降も続く浦和レッズの物語を少しでも期待をもって明るく見られるように今思うことをきちんとまとめていこうと思います。
今回も駄文にお付き合い頂きありがとうございました。